第148話 契約交渉開戦

 5月27日火曜日の午後、Web会議による契約交渉が開戦した。


「先日は京都のマイアミ様までご足労頂きありがとうございました。おかげさまで……」


 大津証券のプロジェクトを推進している谷口D(ディレクター)が長々と挨拶を始めた。久々にカバレッジ(営業部門のこと)の今井MD(マネージングディレクター:かなり偉い人)、丸山Dも参加していた。


 白馬機工は、本社から山田、真奈美と小巻、そして事業本部からは別回線で佐々木が参加していた。


 いつもなら山田が雑談でアイスブレイキングを行うところだが、今日はなかなか山田がしゃべりださない。


 真奈美は、なんだか嫌な予感がして恐る恐る山田を見ると……会議を進行する気などまったくないという表情でふんぞり返っている。


(社内会議だけでなく、社外会議も放り投げてる??)


 真奈美は自分がこの会議を仕切らなければいけないことを悟り、冷汗がどっとあふれ出してきた。


「……タームシートのご提示、また、ご説明をいただける機会までご準備いただきありがとうございます。今日はどうぞよろしくお願いいたします」


 谷口の挨拶が終わり、しばしの沈黙の後、真奈美がマイクに向かって、意を決して応えた。


「……あの、えと、こちらこそ、有意義なDDをアレンジしていただきありがとうございました。京都にお邪魔して、マイアミさんがすばらしい会社だと実感できました」


(ああ……山田チーフのような軽快な雑談トークができない。全然できない。なんで、私、こんな堅苦しい挨拶しかできないんだろう……)


 別に会議における雑談なんて個人の趣味なので過剰に山田を見習う必要はないのだが、なぜか本気で頭を抱えつつ会議を進行する真奈美だった。

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