第146話 拒否権
「SHAの主な構成は、ガバナンス規定と株式取り扱いよ」
ガバナンス規定とは、主に役員選任権利と拒否権である。
今回は役員選任権利は主張しないこととなっているので、ポイントは拒否権に絞られる。
「定款の変更、事業譲渡の承認、解散、会社再編とか勝手にされちゃったら大変でしょ。」
「どれも協業維持に大きな影響がありそうね」
「……その通り。だから、株主総会全会一致とか事前合意必要として、マイノリティでも拒否できるように規定するのよ」
重要事項の決め方は法務と相談して交渉することと決まっている。真奈美は即断した。
「よくわかりました、小巻先生。これで行きましょう」
「うむ。よろしい。でもその前に、君の場合はまずは山田チーフの鬼指示に対する拒否権を確保してきたまえ」
先生と呼ばれ、小巻は先生口調で答える。それは真奈美から見ても、美人で知的な、ドラマに出てきそうな先生だった。
「はい、行ってきます……って、それは宮津精密との交渉より難問よ」
二人は苦笑した。
そして、議題は株式の取り扱い、すなわちEXITに関する規定に移った。
「プリエンプティブを要求し、譲渡制限を外して、タグとドラッグを規定するって話ね」
真奈美は、いつの間にか苦手だった横文字や短縮略語を無意識に使うようになっていた。
「そうね。本当は他にもプットやコールという強いオプションもあるんだけど、またそのうち教えてあげるわね」
「えー?せっかくだから教えてよ。けちんぼ」
「いいけど時間なくなるわよ?」
こうして二人は、脱線を続けてしまい、タームシート完成のために月曜日を一日全部使ってしまったのだった。
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