第144話 知る限り?知り得る限り?

「いい質問ね。これは文言の問題になるんだけどね……」


 小巻は待ってましたと言わんばかりに、元気に説明を始めた。


「例えば、訴訟の恐れは本当に0%なのか?って追及されると、不安にならない?」

「……まあ、確かに0%と言い切るのは怖いわね」

「そう、それ。全く恐れがないか?って、悪魔の質問なのよ。本当はだれもそんなこと保証できないの」


 小巻の目はキラキラしている。


「じゃあ、どうするの?」

「受ける側は『恐れはない』とかいう形で限定してくるの」

「なるほど……それなら訴訟されちゃっても『知らなかった』といえば免除されるのね」

「その通り。で、次に買い手はカウンターとして『』とすうように要求するの」

「『知る限り』と『知り得る限り』……似たようなもんじゃん」


 真奈美の頭の上にハテナマークが浮かんでいる。


「似てるけどね。でも、『知り』となると、実際は知らなくても、という場合も含まれちゃうのよ」

「ふむふむ」

「つまりね、私が『真奈美のブラはBカップ』と表明したとして、実際はAカップだったとしたら、『知る限り』の場合は知らなかったもんって言ってセーフ。でも『知り得る限り』の場合は、真奈美に聞けば知り得たんでしょ?といわれてアウトになっちゃうの」


 真奈美は突然の生々しい例えに不意を突かれて慌てた。


「ちょ、ちょっと……なんてこと言うのよ」


 真奈美は慌てて打ち合わせコーナーの周りを確認した。近くには誰もいなくてほっとした。


「えへへ、でも理解しやすかったでしょ?」

「それはそうだけど……私を例えに出さないでよ。今度おごってもらうからね」

「へいへい、奢りますよ~」


(ちょっとくらい大きいからって……)


 真奈美はほっぺたを大きく膨らませたが、残念ながら胸は膨らまなかった。

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