第88話 嵐の前の……Part.6-1
(はぁ~、これで、GW前の仕事は無事終わったのかしら?)
真奈美が自分の席に戻ると、ちょうど定時のチャイムが鳴っていて、席に座りそれをぼーっと聞いていた。
「酒井さん、このあと予定は詰まっている?」
(……次は、何があるんだろう?でも、ここまで来たんだ。なんでもこい!GWを無事迎えるためには、なんだってやってやる!)
真奈美は気合を入れなおして席を立って答えた。
「はい、いえ、予定は詰まっていないです。何でもやります」
山田は、意外にも少しはにかんだ表情で応えた。
「そうか。じゃあ、意向表明書も出せたし、お疲れ様会の晩御飯でもどうかな?」
「え?仕事じゃないんですか?」
真奈美は、山田が24時間仕事のことしか考えていないんじゃないかと疑惑を持ち始めていたので、お疲れ様会を言い出したことに驚きを隠せなかった。
そうして山田が紹介したお店は、オフィスから近い品川の素敵な洋食屋さん。
落ち着いた内装。明るい真っ白な壁は地中海の雰囲気を醸し出す。
山田は最初から躊躇なく赤ワインをボトルで頼んだ。
「酒井さんはたくさん飲むと聞いているんで」
「ちょ、ちょっと、だれがそんなこと言ってるんですか?」
(そんなこと言うの誰だ?いや、思い当たる節が多すぎる……)
何も言えなくて赤面してしまった。
若い店員さんがサーブしてくれる。イタリアの少し軽めだが香りが豊満なワイン。
このレストランのハウスワインだという。
「酒井さん、MA推進部に来てくれてありがとう。そして、最初のプロジェクトをしっかりと意向表明まで達成できて、本当に改めておめでとう」
山田がワイングラスを片手にもって宙にあげる。
真奈美も、ワイングラスを持ち上げ軽く触れる。
二人にしか聞こえない小さな乾杯音。
なんとかうまくいったんだ、という実感が湧いてきた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます