第84話 決裁

 しばらくして、鈴木部長が口を開いた。


「ならば最終契約までに事業本部の責任で根拠を示すこと。そして、それを引き出すこと。君に責任もって推進をしてもらうよ」


 鈴木の表情は、ここまでのメンドクサイ表情ではなく、部下に指示する上司の鋭さを帯びていた。


「今回の意向表明はノンバインディングだから承認することはやぶさかではない。条件付きで承認しよう。しっかり責任を果たすように」


 ……むしろ大きな責任を負ってしまったのではなかろうか。と、真奈美は不安になり、体中が緊張で固まっていった。


『最終契約までにシナジー効果について具体的に妥当性を説明すること』

 鈴木は口で復唱しながら、決裁書の備考欄に手書きでコメントを書き、決裁者捺印欄に部長印を捺印した。


「これができないときは、おれは本契約の起案は認めないよ。いいね?」

「……はい、わかりました」


 真奈美はなんとか震える声で答えたものの、今、自分の顔色を鏡で見たら真っ青になっているんだろうなと感じた。


 鈴木はそのまま山田に向かってつづけた。


「あと、リソースはこれ以上はかけないこと。会社としての優先順位は考えなければいけない」

「承知しました。ご決裁ありがとうございます。尽力します」


 こうして、鈴木部長からの条件付き決裁を獲得することができたが、真奈美にはその宿題を重い鉛のように感じた。

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