第79話 嵐の前の……Part.5

 土曜日深夜1時……


「よし、これで行こう」


 山田が元気な声で宣言した。


 夕方からレビューを始めた意向表明書。まさに一言一句最初から最後まで、何度も何度も繰り返しレビューを続けていたらこんな時間になってしまったのだ。


「お、おつかれさまです。ありがとうございました」

「いや、こちらこそ。頑張ってくれたね。ありがとう」


(もう終電すら終わってるんですけど~)


 でも、不思議と山田のありがとうの言葉で充実した気持ちで満たされていた。


「酒井さん、タクシー帰りでしょ。よかったら帰る前に軽くラーメンでもどう?」


 ――こうして、ふたりで深夜のラーメンを食べに行くことになった。


 山田が連れて行ったのは、熊本ラーメンの焦がしニンニクたっぷりの人気店だった。

 深夜なのですんなり店内に入れた二人は、ビールで乾杯し、こってりしたラーメンをすすりはじめた。


「酒井さんがうちに来てくれて、まだ1か月だけど、これまでハードワークだったでしょ。ありがとうね。本当に助かってるし感謝しているよ」

「いえいえ、とんでもないです。私こそ、まだまだいたりませんが……」


 思い返すと、MA推進部はそれぞれ忙しすぎて全員が集まることもままならないから、真奈美が配属されても歓迎会も開かれていない。

 

「今日はラーメンだけど、次はもうちょっとまともなところに招待するよ」


山田は真奈美の目を見ることなく、ラーメンをすすりながらぶっきらぼうに言う。


真奈美は……苦笑しながら答えた。


「はい、期待してますよ」


(山田チーフが一番忙しい身だから、いつになるか想像できませんけどね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る