第73話 論点二つ

 片岡本部長に決めてもらう必要があるところは、大きくは2点だった。


 山田は、バリュエーションについて説明を始めた。


「昨日も説明しましたように、10%出資で6~8億円の価値のところ、10億円とは2~4億円分の乖離があります」

「うん、その乖離は、我々の追加効果で埋まりそうか?」

「はい、今朝頂きました効果を価値化してみたところ、事業本部の追加効果は5億円はありそうだという結論です」


 山田は、真奈美が法務とドラフトしている間に、バリュエーションについての説明資料を完成していた。


「あとは、この追加効果の妥当性ですね」

「うん、もちろん具体的な計画とまではいかないが、宮津精密の技術があれば少なくともこのくらいは実現できると考えている」

「ありがとうございます。それでは、宮津精密の要求通り、今回の意向表明は10億円で10%とさせていただきます」


 真奈美は[ ]をはずした。


 続いて、役員派遣である。真奈美が山田に替わり質問をした。


「2点目ですが、役員は派遣なされますでしょうか」

「うーん……10%の出資の場合、役員派遣するのが通常ですか?」


 山田がとっさに答えた。


「いえ、正直10%だと微妙です。主張してもおかしくはありませんが、宮津精密が嫌がる可能性はあります」

「うーん……役員派遣は求めないようにしよう」

「了解しました」

「では、これで大体の論点の議論は完了か。意向表明はできそうかな」

「はい、週明けには稟議書を起案させていただきます」


 山田は涼しい顔で答えた。


(ああ……これって、明日の土曜日も休日出勤ってことよね。2週連続……覚悟はしてましたけど)


 真奈美は山田の後ろで仏頂面をしてみせた。


「……で、そちらの部長さんの合格はもらえそうかな」

「微妙です。今朝頂いた追加効果をどこまで信用してもらえるか、にかかっていると思います」

「そうだろうな」

「そこは、事業本部からもビジネスDDにてしっかりと確認していただく必要がありますので、ご協力をお願いします」

「うん、わかった。そのときはしっかりとチーム体制を整えるよ」


 こうして、意向表明の内容はおおむね決定した。

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