第39話 コンシューマー事業本部訪問

 水曜日。

 真奈美と山田は、都心から1時間ほどの場所にあるコンシューマー事業本部の工場に出張した。

 真奈美にとっては経営管理時代に何度も出張で通った馴染みの工場だ。


 午後3時――


「どうも、こんにちわ。初めまして。片岡です。この度はいろいろとありがとう」


 会議室に入ってきた事業本部長の片岡が山田に声をかけた。

 その傍らには企画部長の佐々木が同行していた。

 真奈美からすると、どちらももちろん顔見知りである。


「酒井さんもMA推進部に移ったんだね」


 片岡は真奈美にも声をかけた。技術出身の気さくな人なのだ。


「はい、片岡本部長。佐々木部長。MA推進部ではまだひよっこですが、どうぞよろしくお願いいたします」

「ああ、皆さんと酒井さんは顔見知りなんですね」

「そうなんですよ。経営管理のころは厳しく指導してもらってましたから。わはは」

「や、やめてください。そんなことないですよ」


 豪快に笑う片岡本部長を前に、真奈美は萎縮し赤面するしかなかった。


 その後、片岡と山田はしばらく本社の状況など意見交換をし始めた。


「やはり他の本部も苦しんでいるんですか」

「そうですね。どの事業本部も足元は苦しそうです」

「うちが一番足を引っ張っているからなぁ。わはは」

「いえいえ、そんな」


(笑い事ではないんですけどね……)


 実際、コンシューマー事業本部の業績は大きく傾いていた。

 だからこそ、次の確実な方向性を作り出すことを求められていた。


「それで、宮津精密ですが、やはり興味はおありということですよね」

「うん。あそこは緻密かつ大量量産できる加工屋さんでね。我々も今でも何点かのパーツを委託しているんだ」

「なるほど、取引実績があるんですね」

「今度の新規投資も、我々の製品の差別化に使えるものだと思うから、これを機に関係を深めてもいいと思っているんだ」

「わかりました。では、まずはこれまでに集めた情報を一度シェアさせていただきます」


 そして、山田が真奈美の方に目を向け、合図を送った。

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