第11話 交渉武器は気合だけ

「契約の期間の長さって法律で決まっているわけでもないし、交渉で決まるもんだからね~。ま、お互い適切な期間の根拠なんてないんだから、気合で折衷案を狙うもんよ」


 小巻は自信満々に気合論を展開した。

 真奈美は苦笑を隠せなかった。


(弁護士ってもっと論理派だとおもったけど、最初から「気合」なのね)


 だが、その苦笑はいつしかわくわくする表情へと変わっていった。


(そもそも契約交渉初体験なんだし、論理的な交渉より気合の方がまだ使えそうな気がする)


 そして、なによりも……


(たかがNDAではあるが、これから先は参考書でのお勉強じゃない。実際の相手との交渉が始まるんだ)


 心が躍り始めているのを自覚した。


「じゃあ、今日はこれで完了ね。真奈美も初契約レビューお疲れさまでした。

 修正版のファイルはすぐにメールで送るから、交渉頑張ってね」

「今日は本当にありがとう。これからもよろしくね」

「もちろん。決裁書も回してね。問題なく合議しておくから」


 そして、帰り際に小巻がもう一つ付け加えた。


「次の法務部の出番は意向表明だと思うから、次はもっとビシビシいくからね」

「ははは、うん、よろしくね」


(山田チーフといい、小巻といい、なんでみんなニコニコ笑顔でスパルタなんだろう……)

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