第10話 有効期間

「さて、ウォーミングアップはこのくらいにしておきましょうか」


 小巻が涼しい顔でさらっと言ったので、真奈美は小巻の顔を覗き込んだ。


「これまでって、ウォーミングアップだったの?」

「ははは、冗談冗談。でも、まあ結果的に、ここまでは特に大きな問題もない内容だったでしょ」

「うん、たしかに。てことは、この後問題があるってこと?」

「うん、問題って程ではないけど、確認しておきたいことがあるのよね」


 小巻は契約期間の条項を示した。


「契約有効期間は締結日より6か月らしいので、それはいいんだけど、そのあとの部分読んでみて」


 真奈美は条項を目で追った。


『……秘密情報については、本契約の終了日から 3 年間、本契約の規定が有効に適用される……』


「つまり……契約0.5年+その後の3年で計3.5年間は秘密情報を保持する必要があるってこと?」


 小巻は一段と目を輝かせた。


「うんうん、そうそう。そういうことよ」


 真奈美は安堵の笑みを浮かべた。


「感覚的にはちょっと長めかな。うちは情報を受ける側でしょ?だから、できるかぎり秘密保持に関する義務は軽くしたいしね」

「たしかに。どのくらいがいい?」

「まあ、まず+0.5年で回答してみて、向こうから+2年くらいで回答が来たら、最後は+1~2年の間で決着するという感じで、一度交渉してみたらどう?」

「えらいざっくりね。なんだか、八百屋さんで値切っているみたいだけど……主張を裏付ける根拠とかないの?」


 真奈美は小巻におねだりするような視線を送った。

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