第9話 あめと鞭

「じゃあ、他にM&Aで重要となる条項は何があると思う?」

「えっと、えっと……」


 真奈美は、昨日山田が足早に説明した単語をなんとか思い出した。


「秘密保持期間とか役職員勧誘禁止とか……かな?」


 真奈美がおそるおそる小巻を見上げると……


「すごーい!さすが真奈美!!やればできるじゃん!」


 満面の笑みを浮かべほめてくれる小巻に、真奈美は照れ笑いを浮かべた。


「でも、まだ6問中1問しか正解してないからね!この次はもっとビシバシ行くからね」


 ニコニコしながらスパルタ宣言。


「は、は~い……」


 真奈美の笑みが、照れ笑いと苦笑のブレンドに変わっていった。


(これって……あめと鞭ってやつ?)


「ところで。ここまで色んな条項による制約があったと思うんだけど、これって誰が守らなければいけない制約だと思う?」


 小巻はまた唐突に質問した。


「え、えっと、情報をもらった方が守らなければいけないんだよね」


「そういうこと。だから、情報をもらうことが多いケースでは、なるべく制約を外した方が有利なのよ。今回はうちがもらう方でしょう?だから、きつい制約はなるべく柔らかくしてあげないとね」


 真奈美は、小巻のドヤ顔を眺めながら感心した。


(すごい、小巻……やっぱり弁護士っていうのは本当だったんだ)

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