第8話 質問攻め

 小巻はプロジェクターに契約書のドラフトを映し出した。


「じゃあ、上からレビュー始めましょうか」

「はい、お願いします」

「まずは、契約の当事者。今回は甲が相手会社で、乙が当社。

 で次は、契約の目的、ここでの注意点は何?」

「……え!?えっと……」


 急な質問に、真奈美は慌ててドラフトを見直した。


「回答が遅いぞー?しっかり読んできたのかな?」

「よ、読んできたんだけど……えーっと」


 真奈美があたふたしている様子を見ている小巻、なんだかうれしそうだ。


「目的はM&Aに限定されているから、それ以外の目的で秘密情報の利用はしないように、ってことだよ」

「な、なるほど……」


 真奈美は自分のPCにメモを打ち込んだ。


「次は、秘密情報の定義。何をもって秘密情報になりますか?」

「――ええ、ええっと」


 この調子で、条項ごとに質問攻めが始まった。


 秘密情報の取り扱いは?

 再開示先は?

 損害賠償は?


(――そんなに矢継ぎ早に質問しないでよ~)


 真奈美には、小巻が明らかに楽しんでいるように見えた。

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