第3章 インフォメーション・メモランダム

第16話 アイ・エムってなんですか?

 次の日、真奈美が会社に着くと、PCを開ける前に山田がやってきた。


「酒井さん、IMが届いたから、さっそくミーティングしようか」

「アイエム?」


 真奈美は、訳も分からず、出勤手続きもそこそこに打ち合わせコーナーに急いだ。


「IMをみるのは初めてだよね。だから、まずはざっと説明するね」

「はい、お願いします」

「IM、正式にはインフォメーション・メモランダム」

「あ~、参考書で読みました。アイエムっていうんですね」


(この世界は専門用語が多くて困る。しかも、中途半端に略すし……)


「うん。IMは対象会社の初期的な情報一式なんだ。NDAが合意に至ったら最初にもらう情報なんだ」

「そうなんですね」


 山田は本題に入る前に、真奈美の方を向いて質問した。


「では、IMの目的、ゴールは何だと思う?」

「えーっと、買い手が対象会社のことを理解するためですよね」

「それはそうなんだけどね。20点」

「えー!?」


 真奈美は思いのほか低い点数に動揺した。


「買い手はこれから、売り手に本気でM&Aをやる気があるのかを示す必要があるんだ」

「やる気ですか」

「本気じゃなかったら、売り手も本格的なM&Aプロセスに進みたくないでしょ?コストもかかるし秘密情報も出て行ってしまうし」

「確かに」

「だから、買い手はIMをもらったら、それをもとに意向表明書というものを提出するのが一般的な進め方なんだよ」

「あ、それ、参考書で読みました」

「うん。詳しくはまた後でサンプルを送るよ」


 そのまま山田は説明を続けた。


「とにかく、意向表明書では、だいたいいくらくらいで買いたいと思っています、という金額含めた提案をすることが多いんだ。だから、IMを見たら、買い手は提案、とくに価格提示をする。そのためのIMなんだと思って、しっかり読み込むんだよ」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


 真奈美は真剣なまなざしで投影されている資料の方に向き直った。

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