第15話 嵐の前の……

「かんぱーい」

「かんぱーい」


 NDAの合意が完了した日の夜、真奈美は小巻を誘ってイタリアンバルに来ていた。


「いろいろ親切に教えてくれたお礼に、おごるからね」

「やった!じゃあ、これからも真奈美にいろいろ教えてあげる」

「ほんと?ありがとう!でも、スパルタは、やーよ?」

「ふっふっふ!それは聞けないかもね」

「えー、かんべんしてよー」


 最初に打ち合わせした時から、なぜか二人は妙に気が合い、すっかり打ち解けていた。


「ね、なんでMA推進部に異動志願したの?」

「ふふふ、大した理由じゃないのよ」

「聞きたい。白状しなさい!」


 小巻は真奈美のうでに人差し指をぐりぐり擦り付けて催促した。


「くすぐったいから。もう仕方ないなぁ」


 真奈美はワイングラスをくるくる回しながら話し始めた。


 もともと入社して以来ずっと経営管理部だったこと。

 事業本部との連携を担当していて、会社の経営会議のとりまとめもしていたから、それなりに頼りにはされるしやりがいもあったこと。

 でもやはり管理の立場のため、事業を前向きに持っていこうという提案がしにくかったこと……


「ああ、なんかわかる。経営管理部はそんな雰囲気感じる」

「でしょ。まあ、仕方ないんだけどね。でも、やっぱり事業の人たちと話していると、本当はもっともっとやりたいこと多いのに、できないってことが多くて」

「それで、MA推進部へ立候補したんだ」


 小巻は真奈美のグラスにワインを注ぎながらつづけた。


「経営管理を飛び出して、超ドS部門のMA推進部にいくなんて信じられない……って、法務部でも話題になっていたのよ」

「え?そうなの?」

「そうよ、MA推進部って、出向組の集まりで上から目線で怖いし、しかも相当ハードな仕事内容なんでしょ?毎日夜も遅いみたいだし。退職者も多いって聞くよ?」

「まあ……たしかに、そうなのかも」


 真奈美は苦笑した。


「そんなとこに自分からいくってことは、真奈美はドMなんだ、って噂よ」

「え~!?ドMって……なんでそうなるのよ」

「それはね……いじられるのが好きってことでしょ~」

「ちょ、ちょっと。小巻、もう」


 ボトルが追加され、ほろ酔いの二人の会話は深夜まで続くのであった。

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