第17話 表紙

 IMの表紙には、左上に宛先『白馬機工はくばきこう株式会社様』……これは当然真奈美の会社の名前だ。


 そして、中央に『Project Beach』と書かれている。


「プロジェクト名、ビーチですね。これって何か意味があるんですか?」

「うん、何か意味があるんじゃないかな。そのうちわかると思うよ」


 真奈美は、よくわからない答えではあるが、あとでわかるならまあいいか、と追及せずに視線をその下に移した。


 そこには『宮津精工株式会社 Information Memorandum』と会社名が書かれていた。


「対象会社は……やはり、あの会社ですね。さすが山田チーフ」


 そして右下には、発行者の名前があった。

『大津証券』――ノンネームシートを送ってきて、真奈美がNDAのやりとりをしていた会社だ。


「今回は、この大津証券がセルサイドFAについているんだ」

「FAって財務アドバイザーのことですよね。」

「そう。FAは、M&A推進をすべて取り仕切ってくれる重要な役割なんだ。

 交渉戦略の立案や相手との交渉も引き受けるし、場合によっては買収資金の段取りも検討してくれるんだ。

 もちろんフィーはそれなりに必要だけどね」


 真奈美はうなづきながら、首を傾げた。


「うちはFAはつけないんですか?」

「ケースバイケースだけど、今回は中小企業への出資案件で規模も範囲も小さいし、そんなに労力はかからないし、FAは使わずに我々だけで交渉しても良いんじゃないかな」


(それって……本来FAがやる仕事も私たちでこなせってことよね……)


 真奈美は、『相当ハードな仕事内容みたいよ。毎日夜も遅いみたいだし……』という昨晩の小巻の言葉を思い出し、少し身震いした。

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