第16話 パワーレベリングをしよう

 土曜日も日課となった朝のジョギングは欠かさない。レベルが上がったことで体力の最大値が上昇し、1時間軽く走った程度では疲れすら感じなくなった。なので体力の限界まで全力疾走して軽く流してを繰り返しているわけなんだけど、この速さがヤバい。国道を走る車に追いつけるほどではないが、ゆっくり走っている原付なら併走できる。


 レベルを上げることがドーピングになるのかというのは現在でも激しい論争が行われているが、現状ではレベルを測定できる機器が存在しないため、各種スポーツの世界記録は日々更新されている。止めようがない世界の流れという感じだ。


 多分、僕の身体能力も高校生としてはずば抜けたものになっている。やろうと思えば今から陸上部に入ってインターハイを荒らすことだってできるかも知れない。やらないけど。


 流石に全力疾走を繰り返すと体力にも限界が来て、僕は汗だくになって帰宅した。シャワーを浴びて服を着て髪をセットする。ボリュームを出してから、形を整えるんだよな。ドラッグストアで買った眉カットのセットで眉を整えるのも忘れない。


 シリアルをミルクで食べて、歯を磨いて、アーリアにキャラクターデータコンバートする。僕の部屋ではいつものようにメルが漫画を読んで待っていた。


「あれ、ひーくん、髪型変えたんだね。面白ーい。どうやってるの?」


「ヘアワックスっていうので整えてみたんだけど、変じゃないかな?」


「変じゃないよ。よく似合ってる。格好良いよ」


「そうかな」


 素直に賞賛されると僕は照れるしかない。


「今日も仕入れは終わってるんだ。だからレザスさんのところに行ってから日本に遊びに行ってもいいし、ベクルトさんのところで修行でもいいよ」


「最近遊び倒しだったからベクルトさんのところかなあ。でもそれだと着替えないとね」


 メルは日本に行くことを考慮してかパーカースタイルだ。


「それじゃトリエラさんの宿に行ってからレザスさんのところ、その後にベクルトさんのところでいい?」


「うん。そうする」


 その日は予定通りに終わり、翌日曜日、赤の万剣とのパワーレベリングは第41層で行われることになった。第40層付近は山岳地帯の中でも足場が悪く、戦うのに向いていないからだ。特に赤の万剣は遠距離火力に欠ける。飛竜のような空を飛ぶ敵とは相性が悪い。


 アーリアのダンジョン、第41層からは火山地帯だ。とは言っても第41層では溶岩が露出しているようなことはなく、所々から間欠泉が噴き出すくらいだ。この間欠泉は熱湯で浴びれば火傷は避けられないそうだが、近寄らなければなんの問題もない。


 出現モンスターはロックリザードと溶岩蟹ラーヴァクラブ。名前からは想像もできないが、どちらも飛竜を超えるレベルと強さを誇る。岩トカゲやカニがドラゴンより強いって設定バグってないですかね?


 ただそのお陰で後方待機してる僕らの安全度は比較的高い。飛竜とかは相手をするのが危険だと言うことで弓で追い払うしかなかった。威嚇で放った弓で1匹落としたのは流石というしかなかったが。それに比べたら段違いに安全だ。


 その一方でドラゴンより強いというのは事実であるようで、これまでの階層の敵と比べ戦闘時間はかなり長い。ロックリザードにしても溶岩蟹にしても防御力に特化した魔物だからということもあるのだろう。


 ロックリザードは岩のような皮膚の隙間に攻撃しないとまともにダメージが入らないし、溶岩蟹は足を全部切り落としてもまだ死なない。


 僕らがこの階層で狩りをすることは多分無いのだけど、一応戦い方は目に焼き付けておく。


 日が暮れるまでパワーレベリングが続き、僕のレベルは27まで上昇した。この調子で上がり続けるなら目標のレベル40まであっという間だが、実際にはそんなことはないだろう。そのうち1日ではレベルが上がらないということにもなってくるはずだ。


 赤の万剣に金貨を支払い、魔石を分け合って別れた。

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