第7話 アーリアで一番強い冒険者に会おう
クリスマスの当日はいつもの土曜日のルーチンワークをこなした。つまり魔石を売りに行って、仕入れをして、納品して、売り上げを冒険者ギルドに預けに行く。前まではここで次の依頼を入れていたけど、冒険者ギルド側から、前回の依頼が達成されていないのに次の依頼をするのは止めたほうがいいと忠告されて、日曜日の依頼完了後に次の依頼を入れることにしている。
第36層までの護衛はレベル45を越える冒険者パーティが引き受けてくれた。流石にこのレベル帯になると見た目もベテランの冒険者という感じになってくる。普通にレベルを上げていくと、45レベルまでにはそれだけの年月が必要になる、ということだ。
僕は次の第41層までの護衛を以てポータルの開通を終えることを考えている。倒すべき目標は第30層に生息するのと同じ程度のドラゴンだと想定される。レベル40のパーティならなんなく倒せる相手だし、実際にこの目で第30層のドラゴンを倒すところを見た。第41層、あるいはその環境次第では40層でパワーレベリングしてもらえば、レベル40までそう時間はかからないだろう。
アーリアには高レベル冒険者があまりいないという事情もある。現状、レベル50を越えているパーティはひとつだけだという。というのもアーリアのダンジョンは第50層で終点だと分かっているからだ。レベルが50を越えた冒険者はもっと深いダンジョンのある場所に拠点を移すか、あるいは引退を考える。
レベル50ともなれば十分過ぎるほどに金を稼いでいるし、もういい年齢になっている。アーリアのレベル50越えのパーティもそろそろ引退を考えているという。なので最後に僕らのパワーレベリングで一稼ぎしてもらう予定だ。冒険者ギルドを通じて先方にもそれとなく話をしてもらっている。今のところ好感触なようだ。
どちらにせよ第41層までの護衛はそのパーティにしてもらわなければならない。今回引き受けてもらっているレベル45越えのパーティは普段は第41層で狩りをしているそうだが、低レベルの6人を護衛しながら辿り着けるというわけではない。僕らの安全を考えると余裕を持つのは当然のことだ。
翌日、トラブルらしいトラブルも無く、僕らは第36層に辿り着く。いつものように魔石を分配し、割り符を渡して依頼は完了する。冒険者ギルドに行って次の依頼を出すことにした。
第41層までの護衛。対象になるのは1パーティだけなので今回は指名依頼とした。指名依頼は冒険者ギルドに納める手数料が高くなるが、不特定多数を相手にするわけではないので、掲示板に貼り出されたはいいが、誰も引き受けなかったということが起きない。なお指名依頼が断られた場合に手数料の半額が返金される仕組みになっている。
依頼料は金貨60枚とした。レベルに対する相場より高いが、こちらが選べる立場では無いからだ。断られたら他に当ては無い。その場合はレベル45越えのパーティに36層辺りでパワーレベリングを頼むことになるだろう。
ギルドに納める手数料も金貨で9枚が必要だった。掲示板に貼り出す場合の1.5倍となる。
「確かに依頼を承りました。ちょうど赤の万剣のリーダー、ヘイツさんがいらっしゃいます。というか、皆さんを待っていらっしゃったんですけどね」
受付嬢の目線を追いかけると、壮年というには少々年の行った男性が片手を挙げた。
「やあ、君が噂のカズヤか。最後に一稼ぎさせてくれるそうじゃないか」
鍛え込まれた体に、隙の無い動作。歴年の戦士だと一目で分かる。
「ということは引き受けていただけるんですね?」
「それは報酬に依るな。41層までの護衛なら――」
ヘイツさんがカウンターにちらりと視線を向ける。受付嬢が書いた依頼書を見たのだ。
「十分だ。だがパワーレベリングとなると話は別だ。こちらもパーティを割って君らを編入した状態で戦わなきゃならん」
「リスクがあることは承知しています。パワーレベリングの時は倍額お支払いします」
「ヒュゥ」
ヘイツさんが口笛を吹いたが、それは掠れるような音で、あまり上手とは言えない。
「いいね。7日に1度というのが残念だ」
僕は冬休みで時間があるが、他のメンバーはアーリアで別の仕事もしている。シャノンさんとエリスさんは日雇いだから急な変更もできるだろうけど、他の3人はそうではない。
「レベル40以上を目指していますが、41層で可能ですか?」
「流石にレベル40までパワーレベリングしたことはないからな。感覚的には行けると思うが、ちょいと時間はかかるな。俺たちの引退の予定が延びる。それに金は保つのか? 毎回それだけ払えると?」
「必要な経費と考えています」
僕は毎週金貨を300枚以上稼げる。半分をパーティ資金だと考えても足りる。実際にはアーリアの暦で月に金貨25枚をパーティメンバーに支払うだけだ。資金には余裕があるくらいだ。
「まあ、ベクルトみたいに半引退で別の家業に手をつけるヤツは少なかないか」
「ベクルトさんをご存じなんですか?」
「アーリアの冒険者のことならみんな知ってる。お前みたいな新入り以外はな」
「なるほど」
アーリアの冒険者と言ってもその数は数百人くらいだろう。全員が顔見知りでもおかしくはない。その中で50以上までレベルを上げてきたのだから、古株の冒険者となれば尚のことよく知っているに違いない。
「ベクルトさんの剣術道場にはお世話になっています」
「あそこで鍛えてるんなら基礎はともかく戦えはするだろうな」
あ、そういう評価なんだ。まあ実際、ベクルト剣術道場は実践的というか、実戦的という感じはする。
「とは言え、レベル6なんだったか? 油断してると掠っただけで死ぬからな。その辺、お互いうまくやろうや」
「目の届く範囲で後ろに引っ込んでますよ」
「ハッハ、それでいい」
ヘイツさんは大仰に笑い声を上げた。
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