第14話 製材所に行こう
一度宿屋まで戻った僕たちは、僕だけチェックアウトの手続きをして、リュックサックを背に出発した。
向かう先を聞いても、
「とっても大事な仕事だよ」
と言って具体的に教えてはくれない。流石に肉体労働前に走って行こうとは言われずに、そこだけ安心する。足は棒のようだったけど。
やがてメルは一件の建物に入っていく。僕もそれに付いていった。
建物の中はカウンターがあって、その後ろに大量の薪が積み上げられている。
「こんにちはー! 親方いますか?」
「おう、メル。親方に何の用事だ?」
「この子を日雇いで雇ってあげてほしくて。見た通り遠くからの旅人なんだけど、路銀がもう無いんだって」
「ひょろっちぃけど、本当にうちで大丈夫なのか? かなりキツいぞ」
「やっぱ――」
「よろしくお願いします!」
止めますって言う前にメルが頭を下げてしまう。友だちに頭を下げさせて、やっぱり止めますなんて言えるわけがなくて、僕も並んで頭を下げる。
「役に立てるように頑張ります。お願いします」
「分かった分かった。別に親方の許可を取るまでもねぇよ。うちはいつだって人手不足だ。どんなにひょろくても歓迎するさ」
「やった。ありがとう。ビシバシ鍛えてあげて」
「うちで働いてりゃ、あっという間にムキムキだ」
「ところで、僕は何をやらされるんでしょうか?」
「新入りは薪割りと決まってる。うちは製材所だが、端材を薪にしてる。端材とは言っても、薪は町の住民にとって冬場の生命線だ。疎かにゃできねぇ。分かるよな」
「分かります」
アーリアの冬がどれだけ厳しいのかは知らないが、暖房器具が暖炉しかないというのなら、薪は確かに生命線だろう。
「それじゃ私は仕事に行くから、ひーくんも頑張ってね。ひーくんのほうが先に仕事が終わると思うけど、宿までは戻れる?」
「たぶん戻れると思う」
檜山たちに運び屋ついでに
「じゃあ、また後でね。頑張って」
「メルも頑張って」
「うん。行ってきまーす!」
メルは小走りに建物を出て行った。僕をここに案内したことで時間が押しているのかも知れない。
後には僕とカウンターの中の男性だけが残された。
「お前の名前は?」
「えっと……」
メルの反応から柊和也では長すぎるということが分かっている。こっちではファミリーネームというものが無いのかも知れない。
「和也です」
「カズヤか。変わった名だな。まあそれはどうでもいい。じゃあカズヤ、裏から作業場に入れ。仕事をしに来ましたって言えば、流れでどうにでもなるからよ」
「分かりました」
一抹の不安はあったが、こうなればなるようになるしかない。僕は意を決して作業場へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます