第15話 薪を作ろう
製材所での仕事は過酷だった。
職人たちが丸太から木材を切り出していくと出てくる端材を素早く回収して、手頃な長さに切断して、薪になるように斧で割っていく。
僕のような薪割り専門の働き手も沢山いるのだが、それでも手が足りておらず、端材が増えるペースのほうが早い。
「おら、新入り! おせぇんだよ! さっさと端材を片付けろ!」
そして職人たちは総じて口が悪い。怒鳴られる度に、僕は手を止めて端材を回収に向かう。端材と言っても軽いものではない。僕の筋力では1人では持ち上がらないことのほうが多い。
「それくらい1人で運べんのか!」
「すみません!」
助けに来てくれた誰かと2人がかりで端材を運ぶ。端材置き場にそれを置いて、さっきまでしていた作業に戻る。ずっとこの繰り返しだ。全部手作業なので、疲れるし、とてつもなく時間がかかるし、疲れる。疲れる。
腕は棒のようだし、ノコギリを握る手にも力が入らない。なんとか前後に動かして切っているようなポーズは取れているが、作業効率は他の人とは比べものにならない。
だがいつまでもノコギリを動かしているだけだと、一向に端材を切れていないとバレるので、ほどほどのところで薪割りに移動する。
切り株を流用した台の上に切断された端材を置いて、手斧を振り下ろして割っていくのだが、これが中々に難しい。力が要ることもあるが、それ以上に手斧を思うように振り回せないのだ。
真ん中から綺麗にパカンと割れたためしがない。いや、そもそも一発で割れると言うことが無い。大体は中途半端にめり込んで、もう一度端材ごと持ち上げて振り下ろす必要があった。
唯一ありがたいのは、結構な頻度で休憩が入ることだ。水分補給の意味合いがあるらしいその休憩を、僕は地面に大の字になって過ごす。手が震えてコップすら持てそうにないからだ。
やがて昼休憩になり、働き手たちは三々五々に食事のために散っていく。僕は誰からも声をかけられることなく、作業場の地面に寝転がっていた。
やがてぞろぞろと働き手たちが戻ってきて、午後の仕事が始まった。1時間くらいは休めただろうか。流石に少しは握力が戻ってきた。
日が暮れるよりも早く仕事は終わり、銀貨2枚を受け取る。他の日雇いの人は銀貨3枚が相場であるようだ。働きぶりを考えると僕は受け取り過ぎな気がしたが、銀貨2枚は貰わないと生活がキツい。ありがたく受け取っておくことにする。
汗だくになっていたので帰りに公衆浴場に寄って、服も洗濯して貰って、早速銅貨で4枚が飛んでいく。また食事をしようと屋台で銀貨を出すと、銅貨換算で30枚としてお釣りが出てきた。
お釣りが足りないと伝えたのだが、うちのレートだとそうなんだよと返されて、言い返すことができない。じゃあ銅貨で払いますと伝えて銀貨を返してもらい、銅貨で5枚を支払った。
宿に戻ってまた部屋を用意してもらい、トリエラさんにお釣りのことを聞いてみた。
「屋台だとそんなもんですねえ。お店を構えてるところは、両替所のレートでお釣りを出すところが多いですけど、うちでも両替だけ頼まれればそんなものですよ」
「じゃあ今日は銀貨で宿賃を払うのでお釣りをください」
「はい。じゃあ鍵とお釣りの銅貨12枚ね」
「それとメルが帰ってきたら先に寝てると伝えてください。もうヘトヘトで」
「分かりました。ちゃんと伝えておきますね」
そうして僕は部屋に戻り、泥のように眠った。
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