第11話 晩ご飯を食べよう

「テリアさん、こんばんはー! 大をふたつお願い」


 メルが選んだ屋台は冒険者ギルドから少しだけ離れたところにあった。他の屋台もそうだったが値段は書いているもののメニューは無いようだ。ひとつの店が扱っているのは一品だけ、ということらしい。

 この店では5という意味の言葉が書かれているので、銅貨5枚が値段だということだろう。


「メルちゃん、こんばんは。初めて見る顔だけど、お友だち?」


 屋台の主は20代くらいの女性で寸胴鍋を炭火にかけている。メルから銅貨を受け取ると大きめのお椀にその中身を入れてメルに手渡した。


「うん。今日、町の外で拾ったひーくん!」


「拾ったって、ついに人を拾ったのね」


 テリアさんは困ったように眉を寄せる。僕は拾われたという表現をされたことより、メルが友だちという言葉を否定しなかったことに驚いていた。


 僕も銅貨を5枚手渡し、お椀を受け取る。どろりとした液体が入っており、肉の入った粥のようなものらしい。屋台の前に置かれている椅子にメルと向かい合って座って、スプーンで一口食べてみると、塩気と脂の芳醇な味わいが広がった。


 見た目よりもずっと美味しい。大きめなお椀だったにもかかわらず、僕はペロリと平らげてしまった。


 食べてしまってから考える。魔石を売ったお金が銅貨換算で220枚だった。一食が銅貨5枚。宿の値段がまだ分からないのでなんとも言えないが、数日食っていけるくらいのお金ではあるようだ。


 確か銀貨1枚が銅貨32枚ってことだから、メルが手にしたのは実質銅貨45枚。こっちは少ないと感じる。メルのステータスならダンジョンで魔石を狙ったほうが稼げるのではないだろうか?


「ダンジョンには冒険者しか入れないからね。私はまだ登録できてないからダンジョンには入れないんだよ」


「メルのステータスなら問題無さそうだけど……」


「登録料が、ね。冒険者になると色んな優遇があるんだけど、その分登録料が高いんだ。具体的に言うと金貨2枚だよ。人頭税より高いんだもん。困っちゃう」


「ちなみに金貨1枚は銀貨で何枚なの?」


「今だと40枚くらいかな。時期によって変わるからなんとも言えないけど」


「結構するね」


 日本では探索者の登録時に住民票の提出が必要なので、住民票を取るために数百円の出費はあるが、登録自体にお金はかからない。こちらの世界とは雲泥の差だ。


「でも冒険者じゃ無いのに、冒険者ギルドで買い取りはしてもらえるんだね」


「買い取りだけだけどね。依頼は受けられないから上乗せ報酬とかは無し。正直、お金を稼ぐだけなら町の中で働いたほうがいいよ」


「でもそれじゃレベルが上がらない、か」


「そういうこと。冒険者になることを見据えてレベルを上げつつ、お金も稼ぐとなると、町の外の魔物退治しかなくなるわけ」


「でも耳とか尻尾だけ持っていってお金が貰えるんだね」


「討伐証明だね。人に害のある魔物は倒すと国から補助金が出るんだ」


「なるほど」


 日本でも害獣を捕まえれば補助金が貰える制度があったような気がする。それと似たようなものなのだろう。


「でも……」


 メルが声を潜める。


「ひーくんのスキルがあれば橿原ダンジョンの3層で狩りができると思わない?」


「いや、それは危ないよ。メルのステータスは確かに高いけど、3層はリスクがありすぎると思う。それにこれからも魔石を売り続けたら怪しまれるんじゃない?」


「それもそっか。いい考えだと思ったんだけどなあ」


「それにしてもこっちじゃレッサーゴブリンやスモールウルフまで受肉してるんだね。日本だとスモールスライムくらいだよ」


「へえ、日本じゃそうなんだ。こっちは森の奥に行くともっと強い魔物がいるよ」


 もしもダンジョン内の間引きが行われずにモンスターが溢れ出し続けたら、やがて第2層や第3層のモンスターまでダンジョンの外に溢れ出すのではないかという予測は地球でもあった。こっちではそれが現実になっているのかも知れない。


「テリアさん、ごちそうさま。今日も美味しかった!」


「はい。お粗末様。そっちの君もお口にあったかしら?」


「えっと、はい。美味しかったです」


「それは良かった。また来てね」


「は、はい」


 大人のお姉さんという感じのテリアさんにおっとり微笑まれて僕はドギマギする。


「ひーくん、泊まるところまで走って行くよ!」


 メルに背中を叩かれる。


「ええー、食べたばっかりだよ」


 僕の苦情は受け入れられなかった。

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