第10話 魔石をお金に換えよう

 さて実際にアーリアという町に着いた僕の感想は、あ、ファンタジーRPGでよくあるヤツだ、これ。だった。


 世界がゲーム化して既存のゲームは衰退したが、無くなったわけではなく、僕はわりとゲームをプレイするほうだ。


 いわゆる剣と魔法のファンタジーで、銃が出てこないヤツ。西洋の中世っぽいファンタジーなアレだった。いや、実際の中世と同じ程度かと言われると全然違うのだろうけれど。


 あまり詳しくは語れない。何故かというと走るのに必死だったからだ。


 走ったり、小走りになったりしながら、どれくらい経っただろうか。ようやくメルが止まっていいと言う頃には、日はすっかり沈んでいた。

 大通りには街灯が並んでいて、小さな炎で町を照らしている。


「冒険者ギルドにとうちゃーく。さあ、入るよ。こんばんはー!」


 メルがすかさず建物に入っていくので、僕は息も絶え絶えにその背中を追った。


「ほら、こっちこっち!」


 冒険者ギルドの中にはそこそこの数の人がいて、息を荒げながら入ってきた僕は一斉に注目を浴びた。その眼光だけで僕は竦み上がってしまう。


「なにやってるの。こっちだってば」


 入り口で動けなくなってしまった僕のところにメルがやってきて、僕の手を引いた。僕に向けられる視線が一層厳しくなった気がした。手を引かれるままに辿り着いたのは、大きめのカウンターだ。

 カウンターに向こうに立っているのは厳めしい顔のおっさんだった。


「ギルのおっちゃん。魔石の買い取りよろしくね!」


「魔石って、メル、おめぇダンジョンに潜ったのか?」


「私じゃなくてこっち! ひーくん、魔石出して」


「あぁん? 見たことねぇな。おめぇ」


「おっちゃん、ひーくんを脅しちゃ駄目だよ! ひーくんは遠くから旅をしてきたんだって」


「わざわざ魔石を持ってか?」


「んもう、冒険者ギルドは出自を問わない。でしょ!」


「そりゃまあ、大原則だがよ」


「じゃあ聞かない!」


「わぁったよ。ほれ、魔石を出しな」


 ちびりそうなくらいビビってた僕だが、なんとかリュックサックから魔石を取り出していく。おっさんはひとつずつ魔石の大きさを測っていく。どうやら魔石の大きさによって価値が変わるようだ。つまり日本と同じ仕組みということになる。


「こっちの魔石はひとつ銅貨5枚だ。んでこっちは銅貨8枚。ええと、銅貨で220枚か。銀貨にすると今のレートだと銀貨6枚と、余りが銅貨28枚だな。それでいいか?」


 僕はメルの顔を見る。メルは頷いたので、適正な価格ということだろう。


「それでお願いします」


「ほら、受け取りな」


 カウンターにジャラと置かれた硬貨を受け取り、銀色の硬貨を1枚メルに渡す。


「はい。借りてたお金」


「うんうん。確かに。おっちゃん。私のも査定よろしく」


 メルは背負っていた鞄をカウンターに置いて、中身をカウンターにぶちまけた。僕は思わずぎょっとする。人の耳のようなものや、獣の尻尾のようなものなど、およそ女の子の鞄から出てきて良い物では無かったからだ。


「レッサーゴブリンはともかく、スモールウルフもか。また無茶をしやがって」


 おっさんは手際よくメルが広げた品を査定していく。メルが手にしたのは銀貨1枚と、銅貨13枚だった。


 ダンジョンの外に溢れ出したモンスターは魔石と引き換えに受肉する。つまり倒したら死体が残るし、死体を解体しても魔石は得られないということだ。地球ではモンスターの死体など見向きもされないが、この世界では違うようだ。


「おっちゃん、ありがとね!」


「ありがとうございました」


 精算を終えた僕たちは冒険者ギルドを後にする。


 物語なんかではありがちな冒険者ギルドが酒場を兼ねている、というようなことは、少なくともこのアーリアではないようだ。


 その代わりに冒険者ギルドの辺りには沢山の屋台が並んでいて、美味しそうな匂いが辺りには立ちこめている。走り通しだったこともあって、僕の腹がグゥと音を立てた。


「帰っても何も無いし、食べていこうか」


 渡りに船な提案だった。

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