第14話 その瞳は翡翠色に輝く
ぬるぬる動くアニメで見るような……単純化された戦闘をミタは眺めていた。
『騎士王なめるなってこと! 最強なんだから!! フリートさん、最強! フリートさん最強! わかった?』
「あー最強、最強。それはわかった……けど――――」
そこで冷静になってしまうのがオタクの悪いところ。
「これ、混乱じゃないの?」
『うん。逃げないと』
「えっ……無理。あの騎士王さんが蹴飛ばした
『あーーー……え?』
忘れてしまっているから、改めて言おう。
今、舞台上には奴隷商に捕まった者達が勢ぞろいしている。
混乱しているが、枷と拘束鎖のせいで動こうにも動けない。
それに加え、舞台の前に立っているミタとエルフの拘束鎖の上には扉がズンッと乗っかっていて、動かそうにも動かせないのだ。
「コレ、逃げれないんだけど」
大事なことだから、二回言いました。
『んーーー、あ、いやっ。大丈夫だよ、たしか騎士王がやってくれるはず!』
なにが……という言葉がミタの口から出る前に。
――ヒュン。
手首の『ドミネーション』を覗き込んでいたミタの頬を、何かが掠めた。
「――………」
振り返り見たら、扉ごと鎖が切られていた。
――やった! これで、自由に動くことが出来るぞ!
なんてご機嫌で動けるような単純な奴だったらいいんだけど。
「……」
ミタの頬に切り傷を付けた、それは、斬撃だ。
ヴァルフリートが放った、攻撃だ。
一歩間違えたら、ミタの顔面は真っ二つになっていたような。
「…………やっぱり、ここはギャルゲーの世界かも」
『え? なんで?』
「アイツの好感度が一気にゼロになった」
好感度リセットの選択肢があるなんて、難しいギャルゲーだ。
◆◇◆
だが、ここから先はそんな
身動きがとれる状態のミタは、まさに目を離した子どものように動き回ることが出来るのだ。
「ふんっ……」
目の前が戦場に変わって、
買い手の煌びやかな服が照明にチラチラと反射して、
阿鼻叫喚が飛び交う。
これで、死者が一人って言うのはもはやギャグだろう。
「だけど、俺には関係がないっ!」
ミタは、モブキャラだ。
この会場がどうなろうが知ったこっちゃない。
確かに予想以上に大きくて恐かったけど、もう終わりだ。
こんな素敵な異世界がミタを待っているのだ。こんな場所に留まってはいるなんてもったいない!
「こんな場所、おさらばさせてもらうぞ……! せんきゅー、ヴァルフリート。もう会うことはないだろう英雄よ!」
奮闘している赤髪の騎士王に伝える気のない感謝を言った。
ミタはありがとうをちゃんと言える『紳士』なのだ。
そんな紳士は、汗ばんだ手をズボンでゴシゴシと拭いて、隣で放心していたエルフに手を差し伸べた。
「さ! 逃げようっ!」
「あ……え、あ?」
エルフはそこでようやく扉と鎖が切れていることに気が付いたようで。
辺りをキョロキョロと見回した。
幸い、みんなは騎士王に釘付けでこちらに気が付いていない。
「はやく、今のうち!」
『逃げるの!』
「え? なんて?」
『なんでミタさんが聞こえてないの!? 逃げるの!』
「その通りだ! うん、その通りだとも! だからはやく行こう! 名前は、えーーーと、エルフさん、でいいや! 行こう!!」
差し伸べてきたミタの手を掴もうと手を伸ばして、
「……っ」
逡巡。
エルフは手を奥に引っ込ませた。
「ワタシ……!」
「話は後で聞くから、今は、早く――ッ!」
お構いなしにミタは白雪のような腕を掴んだ。
「わ」
引っ張られる形で、エルフは立って、躓きながら……
自分の手を握っているミタの手を見て、目をギュッと瞑った。
「……っ」
その中で渦巻く感情は、とても複雑なモノ。
人間なんかには、到底理解ができないような。
嬉しいけれど、それだけでは簡単に説明ができない感情。
「…………外に、出たく、ない……」
唇を噛みしめる力が強まる。
「……わたし、しにたく、ない」
ぽつりとつぶやく言葉は喧騒にかき消される。
ただ、ミタの手の温かさが少し心地よく感じて。
「……」
ミタを見る瞳の色は、垂らされた綱を掴もうと決心をしたように見えた。
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