第03話 やだ、何このイケメン………
「異世界転移……かあ、まじかあー……!」
人間の数よりも不思議な見た目の者が多い中、ミタは興奮したように辺りを見回していた。
お決まりの中世欧州よろしく。
武器を下げて歩く者も大勢。
人間よりも獣人の方が多いような気もする。
ミタの顔を見て、ひそひそと話す言語も――日本語だ!
「言葉が統一されてるパターン、てことは……」
ミタはぺちゃぺちゃと水音を立てながら、辺りを見回した。
目に入ったのは飲み屋さんと思しき――分からない言語で書かれた看板。
「文字が読めないパターンか。そっか、そっかぁ……」
ということは色々と不便なことが多い世界だ、と肩を落として街の中を歩いていた。
異世界モノはとても大人気なジャンルだ。
けれど、飽和時代を経て、チープなジャンルへと姿を変えたことでも有名だ。
転生したら怪物になるもの。
グループで転生して、無双をするもの。
とりあえずチートで無双をして、ハーレムを築き上げて。
悪役令嬢になって転生してみたり。
仲間外れにされて、ざまぁ! をしてみたり――……。
ここらへんから、段々と世間一般的には「またか……」と言われだしていたと思うが。
学園モノのように、どれだけ作品が出ても色褪せないジャンルになれば……と多くの作家が期待していた。
色褪せてもなお受け入れられてしまい……引き際が分からなくなってしまって、徐々に数を減らしながら今に至る。
――ここは、なんの世界なんだ?
突然のことで混乱しながらも興奮をしていたミタは、そこでようやく手首の『ドミネーション』の通知欄が光っていることに気が付く。
「あれ……?」
通話アプリの通知欄を開くと「@ミタ」と呼び出されているではないか。
咄嗟に手慣れた手つきで、薄いホログラムをタップして、スクロールして――……手が止まる。
「…………なんで、繋がってるんだ?」
通知が来た。
ということは、電波があるということ。
ということは……つまり、どういうことだ?
しかし、そこはネットの海に沈んでいた男。
ネットが繋がると分かると、アプリをタッチして『ライブビデオ通話』を始めた。
「さすがに繋がるわけ……」
『――――ミタさぁん! はやくぅ!』
「ぴっ!?」
『ねぎねぎ』の声が大音量で響き、鳥のような声を上げ、焦って音量を下げた。
まさか、本当につながるとは!
『ねぎねぎ』がライブ配信に来たことで、通話に残っていた全員が通知音を鳴らして見に来た。
「ねぎさんっ……みんな」
『ライブ配信なんてしてる場合じゃあないでしょーよー!』
「いや、違っ。これっ……」
周りの獣人がホログラムを興味深そうに覗き込んだことで、ひょろ長い背中で隠すように。
「……これ見えてる?」
『あれ、痩せた?』
「いや、俺じゃなくて……痩せたけど」
ミタは周りを見回して、人気の少ない場所に小走りで走っていった。
「……ここ、見える?」
向こうの世界の人達は広がった世界に感嘆の声を漏らした。
数人は「ミタさん、外に出てるの?」と斜め上の疑問を話していたが、何人かはその異常に気が付いているらしい。
『え。そこ……どこ?』
「分からん……でも、異世界みたい」
『なんか、変な生き物の顔が歩いてるけど……グリーンバック?』
「まさか! さっきは馬に舐められたんだぞ」
『ちょっと誰かに話しかけてみてよ――』
「さっきから、何をしてるんだ?」
コソコソとしていたミタの後ろに現れたのは、一つ目の男だ。
「ひっ」
サイクロプスのような見た目をしているが、ソフトボールほどの目玉を除けば、風貌はただの人……。
だけど、どこか違和感がある。
そんな変な感覚に眉をひそめていると、
「なにしてんだぁってきいてんだぁ?」
「あっ、えっ……あの……その。なにも」
「なぁんだぁ? それ、魔法か? 始めて見る魔法だ……ちくと見せてみろ」
グイと手首を引っ張られ、通話先の何人かに悲鳴が上がった。
向こう側では、一つ目の男が画面いっぱいに現れているのだろう。
「これは……んんっ? わっかねぇなぁ……オイ。おんめぇら、こいつのこれ、なんだぁ?」
後ろから出てきた者達に、ミタの顔が青ざめた。
同じ顔が出てきた!
一つ目の男が、二体も!
『まさか、異世界転生……? でも、ミタさんって死んでないよね? 転移?』
耳に入って来たのは『角の生えた少女のアイコン』のそんなの今はどうでもいいだろう反応だ。
それに続いたのは、ざわざわとした大人数の困惑の声。
「声が聞こえる! すげぇ! これ、なんだぁ!?」
「いや、あの、その――……」
目が輝くというのは比喩表現ではないらしい。
一つの目が――それも三つも!――星を浮かべるように輝いているのだ。
その反応に、ミタは生命の危機を感じた。
異世界モノあるある。
技術をひけらかしてもなぜか、人体解剖とかをされない。
だが、この世界に限ってそれが適用されていない場合がある。
――面妖な術を使う、弱そうな男。
あ。
これは、不味い。
「こ、困りますっ! 人体解剖は困ります……ッ!」
傍から見た自分の姿を即座に理解すると、ミタは自分でも驚くほどの力を発揮し手腕を振り払うと、
「あ、おめぇ!」
後ろを振り返らず、男達の元から逃げ出した。
「はぁっ、はぁ……こっわ、なんだアレ!」
街の中を駆けて行く。
こんなに走るのなんて久しぶりだ。
それでも、足が軽い。羽が生えたようだ。
「お。まさか……まさかのまさか?」
――これが、チート能力ってやつか!?
先程まで顔を引きつらせていたというのに、走っただけでミタの顔には喜びの色が見え隠れしていた。
『ミタさん、止まって!!』
ねぎねぎの声に、ミタは躓くように止まった。
『それ、さっきの! なにかあった!』
「え!? なにが?」
『それ! それじゃない! あ、それ!』
ミタがくるくる回って、ねぎねぎの声で止まると……立派な銅像があった。
「やだ、なに、このイケメン……」
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