第29話 話し合い開始
門の外。門兵たちの目に触れず、行商人たちの通行の邪魔にならない場所をミタは選んだ。
ここでまた騒動を起こすことは極力避けたい、という思惑の元。
(でも、まさか、ホントにいるとはな……)
目の前にいる
小説の紙面の上に書かれていることのみの情報を知れる……そう思っていたミタは彼女を甘く見ていたのかもしれない。
なにしろ、あの『ねぎねぎ』がやって見せたのは、
『リヒトは物語に出てくるエルフ族の族長の五番目の息子!
多種族の会議に出席をするのも彼だったわ。
彼はエルフの中でも只人に近い……って言えばいいのかなぁ?』
物語の途中で出てきたキャラクターの――……。
『性格はミタさんとぜっっったい合わない系。
水と油っていうのかな……うん、多分、そうだ。
で! リヒトはその会議にも一番早くに出席をしていた!
何が言いたいか分かる?
エルフって長命で、
なのに朝一番に行動をするの! っていうことは――』
――『行動予測』なのだ。
『リヒトとエリルちゃんはまだ国の中にいる!
夜の状に動かない! だって時間はたっぷりあるから。
ってことで、出国するなら早朝。城門が開くタイミング!
そこしかない!!』
ビシッ――とマイクを叩く音が聞こえ「あいたっ!」と小さな叫び声が聞こえた。自信満々に人差し指を立てて、マイクにぶつかったらしい。
純粋に尊敬をした。
最近はゲームをしてばっかりでナリを潜めていたからか、忘れていた。
(あのココさんのグループにいる時点で『濾されたオタク』だったな)
物語に通ずる者がする「このキャラは次はこういうことをするだろう」「だから次はこういう展開になるのでは?」の予測。
それは度々、作者の頭を悩まし、用意をしていた展開を潰す行為となる。
ネットの掲示板で長編ストーリーの完結の仕方や、ラスボスの考察などを進める彼らは物語を隅々まで読んで考察をしている。
それと同じ芸当ができ、実際に行動予測が出来たのだから……『ねぎねぎ』はこの物語をよく読んでいるのだろう。
「――――それで……ハナシというのは?」
「お? おー! なんだ、乗り気か。……助かるね」
ともあれ『ねぎねぎ』のおかげで二人に会うことができた。
だったら、ここから後は……。
ミタの腕にかかっている、という訳だ。
「オマエは、しつこそうだからな。要件を――」
「おいおい、オレは『ミタ』って名前だ。ちゃんと呼んでくれよリヒトきゅん」
「名などどうでもいい。所詮、ワタシの名もコイツの名も……キサマの名も、存在を区切るための呼称でしかない。
それにどこまでの価値がある? ましてや
「じゃあいいや。オレだけが距離を詰めようとしてんのね。オレ、健気だなぁ~」
やれやれ、と手を動かしてせせら笑い。
どうしてかミタは落ち着いている。
「で、要件がききたいのね? いいよ、いっぱい聞かせてやるよ」
それは、自分が正しいことをしようと思っているからか。
背中を追い風が追い立てている気がしている。
「エリルちゃんが可哀想だから、自由の身にさせてやってくれ」
「断る」
当然の否定。来ると思っていた。
「リヒトに何の権利がある? エリルちゃんは嫌そうにしてるぞ?」
「またも『揺れ』の話か。嫌だろうが、是だろうが、旅をするのは決定づけられているのだ」
「それに否を唱えているんだけど?」
「再考をしろ、とでもいいたいのか?」
「そう」
「下らん」
両断をするような答えを受け、ミタはエリルに視線を移す。
「……」
彼女は事の成り行きを見守っているようだ。「ワタシ別に自由になりたくない! 話し合いを止めて!」そんな厄介ヒロインみたいなことは言い出しそうにない。
(おっけー、だったら大丈夫だ)
ミタとエリルは同じ方向を見つめていることが分かった。
ならば、気が済むまでの……リヒトとの
「なんで自由にさせるのが嫌なの? 束縛してもいいことあるの脾肉くらいよ」
「オマエには――」
「関係ないってのはナシで頼むよ、武器を収めて話し合いをしようって言ってんだからさ?」
じゃないとずっと追いかけるよ――その一言で、リヒトが身なりを整えた。承諾。
それはすなわち、
「……コイツが半端者だからだ」
ミタを真正面から議論でねじ伏せるため、腹を決めたということ。
「半端者? どこが? オレのこの大きな頭で理解できるようにしてくれない?」
「巡礼の旅をして、魂を清める必要がある」
「なんで?」
「今のエリルの魂は
キサマには見えないだろうがな――と視線で射抜き、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「それに加え……身も穢れた。下人なぞに身分を――一時的にであったとしても! 落とされたのだ。魂魄の両方が穢れている。早急に『償』の旅をする必要がある」
「はー」
「先祖返り。それでハーフエルフのコイツが生まれた。もはや呪いだ。只人にもなれず、森人にもなれない。見てみろ、コイツの短い耳を。短くて、汚らしい……」
エリルはリヒトに見られないように肩を縮めた。耳がゆっくりと垂れ下がっていく。
もはや存在の否定にも聞こえる言葉が波涛のように押し寄せる。それが彼女の体を包み、窒息させるように喉元を抑え付けている。
「――これが全てだ。その小さな頭で理解できたか?」
ほら、どうぞ――と言わんばかりに手を差し出す。次はオマエの番だ。何か言ってみろ。そう言いたいらしい。
一方、ミタはパチパチと瞬きを加速させ、うんうんと閉口したまま頷く。
「小顔って言ってくれてサンキューな。ちょっといい気分になったワ」
腰に手を当てたまま、へ、と笑ってリヒトの顔を伺う。
「リヒトが言ってる『エリルちゃんが醜いー』とか『耳が短いー』とか。言いたいことは理解できたよ。すげー分かった……」
ニコと笑うミタは「だけど」と身なりを整えながら呟く。
「ワイトはそうは思わないんですけどもね」
真向から話し合いで潰してやる準備が整った。
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