第5話 クリスタルの正体
なんだかよく解らんが、ドラゴンに助けられた――と思ったら、そいつは幼女に変身できるらしい。
なにを言っているのかよく解らねぇと思うが、俺にも解らん。
彼女から出されたキノコ汁を食べて力の回復をしていると、なにかが爆発する音が聞こえてきた。
どうやら俺は、バリアのようなもので包まれた青白い殻の中にいたらしい。
そいつに爆発によって亀裂が入り始めた。
ディーネという幼女が腰に両手を当てて青白いドームを見上げてる。
彼女は爆発の正体を知っているらしい。
「やれやれ。ハンターのことを忘れておったわい。やつらがワシの結界を壊そうとしておる」
そのとき遠くで、なにかの咆哮が聞こえる。
狼なんてケチなものじゃねぇ。
おそらく、もっとバカでかいなにかだ。
「ハンター? 背中から武器が生えた化け物の仕業か?」
「そうじゃ」
「さっきの咆哮、俺が襲われた魔物よりも図体がでけぇんじゃねぇの?」
ハンターだかなんだかしらねぇが、こいつはヤバいぜ。
「お前も見たじゃろ? 凶暴な魔物を」
「ああ、生き物ではなかったな」
「あれは古代人が造った帝国を守る魔物じゃ。今となってはプログラムが暴走して姿まで変えて厄介なことになっておる」
「古代人の置き土産か――」
「そのとおりじゃ。いつしか禁断の森に侵入した者を狩るハンターとなってしまった」
「お前も、その遺産ってやつじゃないのか?」
「あんな雑魚と一緒にされては困るのう……だが、あいつら、ちっともワシを認識せん。困ったことになったわぇ」
ディーネが音のする方を指さして、頭を抱えている。
「あいつら共食いしてたぜ? ありゃ意味あんのか?」
「仲間を喰うことで、力が増すことを覚えたのじゃろ。仲間を取り込み、自らを強化しておる」
「俺が襲われたやつより、図体がデカいのが相手となるとヤバいな。それで、このバリアはどれくらい持つんだ?」
「解らぬ。今のところ持っておるが……」
「なにか、いい方法はないのか?」
「うーむ。どうにかして、ワシをあやつらの仲間だと認識させればいいのじゃがのう……」
ディーネをハンターってやつらに認識させる?
そうすりゃ、追いかけてこないのか?
「ハンターってのは、プログラムで動いているんだろ? そのプログラムを変更できないのか?」
「おお、そうか! 認識させずとも、権限を書き換えてしまう手もあるの!」
「マジでそんなことができるのか?」
「……」
彼女が黙って俺のクリスタルを指した。
「これか?」
「それは本来王族が持つものじゃ。それを使えば、強制的に権限を上書きできる――はず」
「なんだが、怪しいな……」
「仕方なかろう! ワシの記憶もいまいち不鮮明なのじゃ!」
ディーネが俺の前から離れると、木のウロからなにかを担いできた。
彼女が持ってきたのは黒革ベルトに挿した金の剣。
肩掛けの鞘に収められたのは俺の剣だ。
「これは?」
「これは、主殿にワシからのプレゼントじゃ」
ありがたくいただく。
「作戦は簡単だな。ハンターってやつらに、俺のクリスタルを使い主だと思わせる」
「そうじゃ」
「あの化け物が仲間になってくれるなら百人力ってやつか。相手が軍隊でも蹴散らせる」
「本来の力があれば、ワシがやってもいいのだがのう」
「まぁ、婆さんは黙って見てな」
「誰が婆さんじゃ!」
俺は、もらった剣を腰に差した。
「よし!」
「あやつらを味方につけることができたら、お前を本当のオーヴの主と認めよう」
「え? ハンターがいれば、別にいらねぇが……」
「なんじゃと! あのような雑魚と一緒にするな!」
ディーネが俺に詰め寄ってきた。
どうやらこだわりがあるらしい。
「解った解った、上手くいったあとに考えるよ」
そのとき、地響きが腹に響いて、俺の身体が跳ねあがった。
俺は青白いドームを見上げて亀裂の状態を確かめる。
「そろそろ、やっこさんも本気みたいだぜ? 仲間でも呼んできたんじゃねぇの?」
「そうじゃな――」
彼女の身体が光に包まれると、それが次第にドラゴンの形へと変わっていった。
「おおおお!」
ディーネの言っていたことは、どうやら本当らしい。
この幼女は、本当に俺を助けたドラゴンだった。
ちょっと物理法則を無視しているのが気になるが――まぁいい。
立っている者は親でも使えって言うからな。
ドラゴンだって使ってやろうじゃないの。
彼女の白い鱗を這い上がり、俺は小山の頂点に腰掛けた。
「ディーネ、いいぞ」
「いくぞぇ!」
白く大きな翼が羽ばたくと、ふわりと巨体が宙に浮かび上がった。
どう見ても、体重と翼の面積が合ってないような気がするのだが、俺はそいつを飲み込んだ。
とりあえず使えればなんでもいい。
森の木々を下に見て大空の中に飛び出すと――俺の耳に、甲高い鳥の様な泣き声が聞こえてきた。
「なぜ、このような目に遭わないといけないのですかぁ! 主よぉぉぉ!」
右手を見ると――ちょっと離れた場所に小さい竜が飛んでいるのが見える。
声の主は、竜に乗った黒いローブらしい。
黒い布に隠れていてよく解らないが、声からして女だろう。
「なんだ?」
小さな竜は、二匹の翼竜に追われているらしい。
そいつも身体が変化して、メタルボディと背中から武器を生やしている。
俺たちを襲ったハンターってやつだ。
他の魔物と同じように、背中から生えている武器をぶっ放している。
黒いローブが後ろを向くと、掌から炎の玉を発射した。
「あれって、魔法か?」
ローブが乗った小型の竜とハンターがドンドン離れていく。
「ディーネ! やつを追いかけるぞ!」
「やれやれじゃのう――」
彼女は乗り気ではないらしい。
それとも、ディーネの故郷であるこの森が騒々しくなってしまったことに呆れているのだろうか。
その時、地響きとともに向こうから咆哮が聞こえた。
地上を見ると、森の木々がなぎ倒されて、大型の恐竜のようなハンターが暴れている。
口から大砲が伸びて火を噴くというとんでもない代物だ。
こんなのが街に出てきたらとんでもないことになるな。
こいつらがディーネのバリアを破ろうとしていたやつらか。
こんなやつらでも、俺の持っているクリスタルを使えば、仲間にできるかもしれないってか?
それが本当なら強力な戦力になるどころか、俺がこの大陸の支配者になることも可能だぞ?
どうやら、俺にもツキが回ってきたってことになるな。
俺がハンターの使いみちを考えながらニヤついていると、下からの砲撃がやってきた。
「おっと!」
口から伸びている大砲で、こちら撃ったらしい。
砲弾が近くを通りすぎる。
対空用の近接信管じゃなけりゃ、そんなものは怖くねぇ。
下にいるデカいハンターも気になるが、まずはさっきの女らしき声がしていた黒ローブだ。
俺は下で暴れている恐竜たちを無視して、女のほうを追いかけることにした。
それにしても古代人とやらは、とんでもないものを残していったもんだぜ。
「すぐに追いつくわぇ!」
ディーネが加速を始めると、俺の背後で翼竜の甲高い泣き声が聞こえた。
後ろを振り向くと、三匹のメタリック翼竜型ハンターが見える。
相変わらず目を赤く輝かせ、俺たちのあとを追ってくる。
「よっしゃ! 早速、俺の力とやらを試してみようじゃないの!」
「どうするのじゃ?!」
「やつらの背後を取れるか?」
「お任せておれ!」
ハンターが背中に装備されている兵器を発砲したのだが、ディーネが宙返りでそれを躱した。
「うわぁぁぁ!」
まさか宙返りするとは思わなかったので、俺は必死に白い鱗にしがみつく。
「ほれ! 奴らの背後じゃ!」
彼女が言うとおり、ハンターたちの背中が見える。
「ほんじゃ、いくぜ!」
俺は、胸のクリスタルを握りしめた。
青白い光が辺りを包む。
ハンターたちの背中も青く染まると、変化が現れ始めた。
いつも赤かったやつらの目が、青いサファイアのようになったのだ。
ディーネの目と同じ色だ。
ははぁ――こいつらも、もともとはこういう目だったのかもしれない。
「おおっ!」
やつらの目が変わったことに、ディーネも驚いたようだ。
「どうだ? 約束どおりに、ハンターたちを味方につけたぞ?」
「ぐぬぬ……やむを得ん、そなたを正式な主と認める……」
「なんだ嫌々っぽいな。別に無理しなくてもいいんだぞ?」
「そ、それは困る!」
「なぜ困る?」
「他の者どもが、お前の配下になるのに、ワシだけ仲間外れになるじゃろうが……」
ハンターたちも、もともとはディーネと同じ仲間らしいからな。
大きな群れができて、その仲間から爪弾きにされるのが嫌なのだろう。
「そういうもんかねぇ……」
ドラゴンやハンターたちの矜持は解らんが、これで強力な戦力を得たぞ。
3頭の翼竜型のハンターが、ディーネを挟むようにして編隊飛行をしている。
もともと、仲間と共闘するようなプログラムが組まれているのだろう。
これで完全に仲間になったわけだ。
4頭で並んで飛んでいると、右手から大きな黒い影が近づいてきた。
翼竜ではなくて、そのシルエットはどう見てもドラゴン。
「おい! あれは?!」
警戒する間もなく、黒いドラゴンがあっという間に近づくと俺たちの横についた。
敵対しているハンターは目が赤い――というパターンからすると、こいつの目は青い。
敵意はないってことになる。
「お姉さま! 助太刀に来ましたわ!」
突然、黒いドラゴンがしゃべり始めたので、俺は驚いた。
それにも驚いたが、お姉さまとか言わなかったか?
「フィーネかぇ! 久しいのう! お前も目覚めたのかぇ? 記憶が曖昧じゃが、妹は忘れてなかったみたいじゃのう」
2頭が話していると、後ろから3頭の翼竜ハンターが現れた。
「よし! ハンターたち、奴らを迎え撃て!」
俺の命令で、次々と翼竜たちが旋回を始めた。
ディーネの言葉が確かならば、やつらは仲間を食ってパワーアップをする。
仲間同士で戦わせて、強い個体を生み出せば、より強力な戦力を得ることができるって寸法だ。
3対3の戦闘で、2頭が生き残った。
「お前ら、落ちた肉を食いに行っていいぞ! 食い終わったら、俺たちの所に戻ってこい!」
命令を聞いたハンターたちが、急降下を始めた。
これでいい。
「主殿、ワシたちは黒いローブを追うのじゃな?」
「そうだ! まだ追えるか?」
「大丈夫じゃ、においがまだ残っておる」
「お姉さま、なにを追っておられるのですか?」
「翼竜に乗った人間じゃ」
「人間……重要人物なのでしょうか?」
妹の問いに俺が応えた。
「重要かは知らん。声からして、多分女だろうから助けるだけだ」
「承知いたしました」
妹は、ディーネよりは聞き分けがいいらしく、最初から俺を主と認めているようだ。
俺たちは目標へと急いだ。
目の前に、数頭の翼竜型のハンターが見えてきた。
その先には、そいつらに追われている小さな竜に乗ったローブが見える。
「ディーネ、ハンターの後ろにつけてくれ」
「承知した」
「攻撃するのですか?」
フィーネは俺たちがなにをするのか、訝しんでいる。
「いや、後ろにつけるだけだ」
「承知いたしました」
後ろから接近する俺たちに、ハンターたちはまったく気づいていない。
「また、3頭だな!」
俺は再びクリスタルを握った。
青白い光が放たれると、翼竜どもの目が赤から青に変わる。
「こ、この光は、王の光?!」
「お前の姉は、俺を主と認めたぞ?」
「やむを得ぬだろう!」
「確かに、この光を使えるということは、私たちの主として相応しいお方」
「そうだろう」
やはり、この妹は姉より聞き分けがいいらしい。
目が青くなった翼竜たちを従えて、逃げていた竜の横につけたのだが、ここまできてあることに気がついた。
竜は立派な装備をしており、それに跨った黒いローブには、王都ガランの王家の紋章が刻まれていた。
こいつは王族なのか?
なぜ、こんな所に?
俺とディーネは、黒いローブの横につけた。
「おい、大丈夫か!? 助けに来たぞ!」
竜に乗っている黒いローブは顔が見えなかったが、俺の声に気がついたのか、こちらを向いた。
「きゃぁぁぁぁっ!」
黒いローブは、高い悲鳴を上げると急加速した。
そりゃ、いきなり横にドラゴンが2頭とハンターが3頭が並んだら驚くか。
それにしても、顔はローブで見えなかったが――あの悲鳴は、やっぱり女だな。
逃げた女を追いかけようとしたのだが、突然下の森から、白い筋が上がってきた。
ミサイルかなにかだ。
「あ!」
俺がなんとかする暇もなく、そいつが逃げた竜に命中すると、真っ逆さまに森に落下した。
「きゃぁぁぁぁっ!」
悲鳴が遠ざかり、森の中に消えた。
「あ~あ、やっぱり助けてやらんと駄目かなぁ――ディーネ、落ちた地点に向かってくれ」
「承知した」
俺たちは、落ちた竜を探しに森に降りた。
落下する場面を見ていたのだから、おおよその地点は解る。
女はすぐに見つかり、森の中にうずくまった竜と一緒にいた。
攻撃を受けて墜落した竜は酷い怪我を負っており、もう動けないようだ。
皆と一緒に近くに着陸した。
女はローブを脱いでいて、金髪が木漏れ日に光っている。
こちらを見るすこし厳しい青い視線――俺はその女の顔に見覚えがあった。
騎士団の閲兵式で、並んだ王族の中に、その女はいた。
「きゃぁぁ!」
俺たちをみて、また女が悲鳴を上げた。
「悲鳴をあげるな! 俺たちは敵じゃない!」
「そなたたちは、なに者なのです!」
「俺の名前はカイト。元騎士だが、今はなに者でもない」
「騎士?! 騎士が、なぜ魔物と一緒にいるのです?!」
「このドラゴンと翼竜は、俺の仲間だ」
「仲間ですって?! 魔物と契りを結ぶなど、この邪徒め!」
「はは、随分な言われようだなぁ。あんた王族のルエラ姫だろ?」
「……」
俺の言葉に彼女は黙ってしまった。
「あんたを連れて王宮に行けば、謝礼がもらえるな」
「だれが、邪徒などと一緒に行きますか!」
「それならそれで構わないが、その竜はもうだめだぞ?」
「……」
女が、自分の竜をチラ見した。
翼がズタボロで、胴体からも大量の血を流し瀕死の状態だ。
「この森には、あんたが襲われたような魔物がうようよいる。このまま放り出されて、生きて森から出られるかな?」
「……」
俺は踏ん切りつかないお姫様に近づくと手を取ろうとした。
「無礼者!」
「おっと!」
彼女が俺の顔を叩きにきたので、そいつを捕まえると彼女の背後に回って腕を極めた。
「あうっ!」
「元騎士とはいえ、お姫様の攻撃を食らうかよ」
「くっ!」
彼女の身体を背後から抱く。
柔らかくていいにおいがする。
「こいつが、王族の身体かぁ」
「この卑劣漢め!」
俺が彼女の尻を蹴飛ばすと、お姫様はもんどり打って倒れた。
「きゃぁ!」
「そういえば、あんたの姉貴が行方不明とか、ニュースで見たな」
「……」
「こんな森に護衛もつけずに1人で――ってことは、ここに姉貴を探しにきたってことか?」
「あなたのような無礼者には関係ないことです!」
コケたお姫様が、俺を睨みつけた。
「そういうことなら、俺が探してやらんこともないぞ?」
「誰が、そなたのような者と!」
「そうか? 俺の仲間を見てみろ」
俺はドラゴンとハンターを指した。
「……」
「こいつらなら、森の隅々まで探せる」
「ほ、本当に探せるのですか?」
「ああ――そういえば、森でキャンプをしているやつらも、もしかしてそれが目的か?」
「……」
お姫様は迷っているようだ。
「まぁ、別に無理強いはしないぜ? ここで魔物に食われるのもあんたの自由だ」
お姫様が決めあぐねていると、森の中から赤い目が現れた。
「ひぃ!」
「おら、森の中には、こういう連中がうじゃうじゃいるんだ。内臓をむしゃむしゃと食われたいのか?」
「わ、解りました!」
「よし決まったな! フィーネ、お姫様はお前のほうに乗せてやってくれ」
「かしこまりました」
「ど、ドラゴンが、しゃべるなんて! きゃぁぁ!」
フィーネの発する言葉にお姫様が驚いていると、掴まれて背中に乗せられた。
「それで主殿、これからどうするのじゃ?」
「とりあえず、キャンプしている連中をぶっ潰して、俺の幼馴染たちを助ける」
「承知した」
「さて、出かける前に――」
俺のクリスタルの光を浴びせると、集まってきた狼たちの目が青くなった。
「魔物たちの目が……」
「これで、こいつらは、俺の仲間になったってわけだ」
「そ、そんなことが……」
驚くお姫様を尻目に――ディーネの背中に乗ると、俺たちは空高く舞い上がった。
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