第1061話◆それは受け止めない
ウウウウウウウウ……ウンウンウンダッダダッダカラカラカラカラカラ、クルックルックックックックルルックルシメタ……クルシンダ……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴメンンナサイ……ゼンブゼンブゼンブ、ワタワタワワワワワワタシノノノノセイ。
ワタワタワタワタシシシシシガイナケレバ、ワタシガマチガエナケレバ……クルシメナカッタ。
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ、フウニウンデゴメンナサイ。
ウミタイ……ウミウミウミウミ……ウミタイイウワガママ……ゴメゴメゴメゴメゴメンナサイ。
――デモ、ヤッパリ………………ヤッパリヤッパリヤッパリ……………………ウマレテキテクレテ、ウレシカッタ。
頭の中に響き渡る、怒濤のような後悔と懺悔。
そして深い悲しみと、それでもやはり決して消えることない我が子への想い。
何をそんなに悲しんで、そんなに後悔し懺悔をしているのかわからないが、ただひたすら我が子を不幸にしたのは自分だと謝り続ける声が聞こえてきていた。
自分が望まなければ、生まれてくることを望まなければ不幸にしなかったという叫び。
自分のせいで我が子が苦しんでいるという、地獄のような自責と慟哭。
ナナシを通して押し寄せてくる感情の激流に翻弄されそうになりながら、俺はその慟哭を――。
「うるせぇ!」
思わず突っぱねた。
手の中でナナシが意外そうにガタタと揺れるのを感じながら、リュウノナリソコナイの体に突き立てたナナシを感情にまかせて薙ぎ払うと、切り裂かれたリュウノナリソコナイの体から嫌なにおいのする返り血がビチャビチャと俺に降りかかった。
聞こえてきた声を突っぱねたせいかナナシの効果が薄かったようで、リュウノナリソコナイは切り裂かれた部分をグチャグチャと無秩序再生させ体積を増やして俺の上にのしかかってきた。
さすがに抱え込むにはきつい大きさと攻撃性、そして酷い悪臭。
一度人らしさを取り戻しかけた体も無秩序な再生により再び人とはかけ離れた姿になり、体の表面にボコボコと現れた口が俺に噛みつこうと口を大きく開き、歯を剥き出しにして迫ってくるが、もう少しで噛みつかれそうというタイミングでリヴィダスがかけたくれた防御魔法が迫りくるリュウノナリソコナイをバチンと弾いた。
このまま突き放してしまいたい衝動を抑え込み、防御魔法に弾かれ仰け反ったリュウノナリソコナイの体に、一度振り抜いたナナシを再び突き刺した。
「グラン、極力援護はするけど無茶したらダメよ!」
ナイスなタイミングで防御魔法をかけてくれたリヴィダスの声も、頭の奥で響くリュウノナリソコナイの声によってすぐに掻き消され、俺はリヴィダスに応える余裕もなくリュウノナリソコナイの叫びと再び向かい合った。
ウマウマウマウマレレレレレレ、ウレシレシレシレシレシレシレシカッタッタタカラ……タイセツナナナナナナ、ワタシノコドモ。
ワタシガワワワワワワタシワタシガ、ワルイワルワルワルイワルイワルイワルイ。
ノゾンデノゾンデノゾンデ……コココココドモ……コドコドコドコド……ウミタカッタ……シアワワセワセセセセナカテ……ィイィィィィ。
ウンダカラ……クルシムクルクルクルクルクルシムコトニナッタッタ、アノコアノコアノコアノアノアノアノアノアノ――アルベルトトトトトトトッ!
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……ッ!
相変わらず理由はわからないが、ひたすら産んだことを謝り続けるリュウノナリソコナイ。
産んだから不幸にしてしまったと、産まなければ不幸にならなかったと、アルベルトという人物にひたすら謝っている。
ただただ生まれた我が子の人生が不幸だと嘆き、自分が産んでしまったことで子が不幸と背負うことになったと後悔し、それでも我が子に会いたかったことが自分の我が儘だと懺悔する。
幸せな家庭に憧れていたはずなのに、どうしてこうなったのかと悔いる叫びと、無限に湧いてくる罪悪感。
その気持ちは痛みとなって俺の心に刺さり、心の痛みは体の痛みとなる。
だけどやっぱり、それは受け止められなんだよ。
「それは後悔することでも謝ることでもねーんだよ」
理由までは見えてこないからわからない。
だから俺が何か言える立場じゃねーし、本当に生まれてきたことを恨むほど子供が不幸を抱え込んでいるのかもしれないが、それでもやっぱり親ならばそこは謝るとこじゃないだろ! 後悔することじゃないだろ!
子供がそんなに愛おしいなら、後悔しないでくれ。謝らないでくれ。
「子供の幸せも不幸せも親が決めることじゃねーんだ。だからそれは、ちゃんと本人と向き合って話した方がいいと思うぜ?」
悪いな、俺はこういう時に気の利いた嘘をつくのが苦手なんだ。
心にもない優しいだけの言葉をかけるのは苦手なんだ
だからその懺悔は受け止めない。その懺悔は間違っているってはっきり言うよ。
うるせぇぞナナシ。
そんな不満そうに、そして不思議そうにガタガタしてもダメだ。
生まれてくるってことは可能性の塊なんだ。だからその懺悔は受け止めたらダメなんだよ。
確かになあまりに不幸だと一度くらいは産んだ親のことを恨むかもしれねーけど、生きているうちに楽しいことがあって好きなものも増えて、自分が生きてい良かったと思える時がきたら、それはこの世に産み落とされたからなんだ。
だからその可能性を産んだことを悔やまないでくれ。産んだことを否定しないでくれ。産んだことをなかったことにしないでくれ。
せっかく生まれてきたのに否定されるのはすごく辛いんだよ。
こんなにも子供のことを想っているなら、産んだことを後悔しないでくれ。
今は不幸でも、これから幸せになるかもしれないから、その可能性を否定しないでくれ。
だから俺は、お前の懺悔を受け止めないよ。
でもな、何でそんなに後悔するほど子供の不幸を嘆くのか、ちゃんと子供と向き合った方がいいと思うぜ?
お前がどんなに懺悔を吐き出しても、俺がそれを聞いてどんな言葉をかけても、本当に解決できるのは当事者だけだから。
お前のこの嘆きを本当に解決できるのは、お前とお前の子供だけなんじゃないかな。
だってお前はこんなにも子供のことを愛おしいと思っているのだから。
そのためには……な?
だから、戻ろうか……人に。
ただ気持ちを押しつけるだけじゃなく、わかり合える言葉が交わせる姿に。
あまりにも重く強烈な親が子を思う気持ちに気圧されそうになりつつも、そこまで想われる子供のことを少し羨ましいと想う感情を芽生えさせながらナナシを更に深く”彼女”に突き立てた。
ハナハナハナハナハナシタイ、デモハナシタクナイ……アイアイアイアイアイイイイイアイタイアイタクナイアイタイアイタイアエナイ。
マタクルシメメメメメメメメメメメ……アアアアアアアアアアア……………………アイタイ。
コンナ……アエナイ……。
受け止めたわけじゃないが声に応えたからか、叫びのような声が少しずつ静まり始め、代わりに会いたい気持ちと自分に対する絶望で揺れ動く感情が流れ込んできた。
少しずつ声に落ち着きが戻り、それに同調して無秩序に再生しながら広がっていた体も動きを止め、ドロリと表面が溶けて流れ落ち再び人の姿に近付き始めた。
「ああ……話せるといいな。こんなに子供のことを想っているのだから。子供の気持ちは子供にしかわかんねーけど、こんなにも子供のことを想っているということには変わりないから。ただちょっとあんま押しつけると、子供も困るんじゃねーかな。だからちゃんと話すためにも人に戻ろう」
彼女の懺悔は受け止めることはできないけれど、彼女が子供を心から愛していていることにはわかるよ。
だからその気持ちは俺がちゃんと知っていてやる。子供との間に溝があって簡単に伝わらなくても、その強烈な気持ちに偽りはないと。
強烈すぎて一方的な感情になっているかもしれないのは、本人に会えた時にちゃんと話し合ってくれ。
そしてその時は、産んでごめんなさいじゃなくて、生まれてきてくれてありがとうって言ってやってくれ。
気休めの言葉や楽観的な未来は語れないけれど、いつかともしもに明るい未来があるかもしれないことは否定しないから。
その日のために今は人として生き延びてくれ。
今度こそ確実にドロドロと溶け落ち始めたリュウノナリソコナイの中からはっきりと人の姿が現れ始めた。
その顔立ちは、今日会ったばかりのいけ好かない優男系ハンサムにどことなく似ていた。
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