第985話◆ユウヤ戦直前ブートキャンプ

「カメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメ」


「ゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレゲレレレレレレレレレレレ」


「キエキエキエキエキエキエキエキエキエキエキエキエエエエエエエ」


「ズモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモモ」


「偉大な俺様は全てお見通しカメ~、軟弱者達は大人しく仲間と仲良く協力するカメ~。己の力を過信する小童どもは、身の程を思い知らせて根性から鍛え直すトカゲ。後先を考えず感情任せに行動するクソガキどもはお仕置きクサ。犬コロと一緒にぐっすり寝ていて祭りに乗り遅れたイワー、だがお説教とお仕置きには参加するイワー、良い子で寝ていた犬コロは勘弁してやるイワー。うっわ、何をするつもり? というかお説教面倒くさ……冷たっ! 熱っ! 痛っ! 痛ぁ!!」


「通訳しなくてもお説教されているのは何となくわかるから通訳しなくていいぞ。鳴き声の方がそのまま聞き流せ……ぎえっ! ぐえっ! あたっ! んえっ!」


「わかったわかった、俺達が安易だった。もう反省してっから……ぐお!? わかった、わかったからポコポコ殴るな。俺にはそんな攻撃は効かな……ぐおおおおおお!!」


「もっとやっちゃっていいと思います! みんなで一緒に行くって話してたじゃないですか! 僕だけ置いて行くなんてひどい!」


「アッ! ジュスト、ごめん! ジュストだけ置いて行こうとしたわけじゃなくて、一人で行こうとしてリビングにきたら俺と同じことを考えてたアベルもカリュオンもいて……いてっ! いてててててててっ!」


「一人で行こうだなんてもっとだめじゃないですか! グランさん達がいくら強くてもどうして一人でなんとかしようとするんですか! チビッ子の皆さん、もっとやっちゃってください!!」



 三人揃って同じことを考えて一人こっそりリビングへいって捕獲されてしまった俺達三人は、床に座らされ猛烈にチビッ子達に説教をされている。

 説教の途中に朝練に起きてきたジュストと焦げ茶ちゃんも追加して。

 途中で朝のお勤めに出ていく前のラトがリビングを覗いたが、珍しく素面の顔で反省するが良いと言って出かけていってしまった。


 そして怒濤のお説教。

 お説教される俺達の後ろでは、アミュグダレーさんがソファーでウンウンと頷きながらその様子を見守っている。


 謎の鳴き声でお説教をされても、お説教されているのがわかるくらいで内容まではわからないので何となく聞き流していたら、アベルが通訳を始めやがった。そして面倒くさいなんてポロリとしてチビッ子達に色々投げつけられている。


 馬鹿だなーアベルは、お前はいつも一言多いんだよ。

 俺みたいに適当に聞き流しておけば……ていうか、鳴き声なら聞き流しやすいのに通訳すんな!

 しまった! アベルに釣られて俺までポロリをしてしまって、チビッ子達がこっちにきてしまったー!


 ごめん、ごめんなさい! 反省した!! すごく反省したから、ペチペチと蹴る殴るはやめて!! 防具の上からなのに思ったより痛いからやめて!!

 ほら、カリュオンも適当に聞き流して全く反省していなさそうな顔をしているから、俺よりカリュオンにいけってば!

 そうそう、カリュオンなら金属の鎧を着ているからいくら殴る蹴るをしても大丈夫だよ。って、鎧の上から殴られたカリュオンが怯んでる!?


 そんなチビッ子達のお説教とお仕置きより堪えるのが、泣き出しそうなほどの困り顔で拗ねているジュストから浴びせられる非難の視線。

 う……別に示し合わせて俺達三人が集まったわけではないのだが、素直に寝ていたジュストだけ仲間外れにしたような形となり、ジュストの表情と視線がチクチクと心に刺される。

 ああ~、ジュストがチビッ子達をけしかけたからチビッ子達のお仕置きが更に激しくなった~。

 ごめん、ごめんってばぁ~。


 ジュストにプリプリ怒られながら、チビッ子達に色々ぶつけられたりペチペチと蹴ったり殴ったりのお説教をされた後は、チビッ子達に引きずられて庭に連れ出された。

 マジで物理的に引きずられて。 

 床に座らされてお説教を聞いていた体勢から、カメ君にフードを掴まれ庭に引きずっていかれた。

 カメ君ってば小さいのに力持ち~~~~!!


 アベルはサラマ君にローブを掴まれ、カリュオンは苔玉ちゃんに蔓でグルグル巻きにされて。

 まったく、うちのチビッ子達は小さいのにパワフルだな。

 無罪のジュストだけは焦げ茶ちゃんを肩に乗せて、自分の足で俺達について庭へ。






 庭に連れ出され横一列に並んで立たされる俺達。

 すでに外はすっかり明るくなっている夏の朝は、すでに気温は高く立っているだけでもジワリとした汗が装備の下で流れていく。

 いつもならもう少し早い時間に朝練を始めているのだが、今日はチビッ子達にお説教をされたのでいつもよりちょっぴり遅い時間でその分気温も上がっている。

 そして夜明けと共に始まった森の蝉達の大合唱が夏の暑さを更に強く感じさせた。


 俺の左右にアベルとカリュオン。アベルの隣は自主的に並んだジュスト。

 鍛えられるのはこっそり一人で箱庭に行こうとした俺達なのにジュストも参加するの?

 え? 自分は一番弱いから早く強くなりたい? 強くなって俺達を止める側になるために?

 ……あ、はい。今朝はすみませんでした。


 俺達と向かい合ってチビッ子達も横一列に並び、揃って後ろ足で立ち上がって前脚で腕組みをするポーズになっている。

 その後ろではアミュグダレーさんも同じポーズをして無表情でウンウンと頷いている。

 チビッ子達もアミュグダレーさんもものすごくキリッとした顔のお説教モードなのだが、みんな同じポーズだし時々動きが動きがシンクロするしで、お説教をされながら面白くて表情が緩みそうになる。

 緩んだ瞬間、氷とか火の粉とか木の実とか小石が飛んでくるから我慢しているけれど。



「ゲッ!」

「カメッ!」

「キエエッ」

「ズモモモ……」


 ヘイ、アベル! チビッ語の通訳お願い!


「これより己の力を過信した身の程知らずの小童どもを鍛え直すトカゲ、二足竜の世話と朝飯は俺様に任せてじっくり鍛え直すカメ、来るべき戦いに備え体だけではなく性根も鍛え直すクサ、合格するまで朝飯はお預けスナー。ちょっと!? 結局昨夜はリビングにいたせいであんまり眠れてないんだから、戦いに備えるなら無茶な朝練はだめでしょ!? え? とりあえず庭の外周を十周走れ? ええ~、グランの家の敷地って結構広いのに十周も? せめて五周にしようよ……え? 文句があるなら二十周にするクサ~? やめて、十周走るから二十周にしないで!!」


 俺達の前に並んで腕組みをして、こわぁ~い顔になってチビッ子達が何を言っているのかと思えば――ははは、十周くらいなら毎朝五周以上している俺にとってはチョロいな。

 二十周はさすがにきついからアベルは余計なことを言うなよ。


「俺達だけじゃなくて苔玉達も走った方がいいんじゃないか? ほら、グランの家にきて腹がぽっこり出てきてるし、首も肉に埋まってなくなり掛けてないか? って、いてっ! 俺は真実を言っただけなのに木の実を投げるな! 氷も、火の粉も小石も! それと木の実はグランにはご褒美だからな! あと親父もついでに付き合えよ!!」

「いたっ! 俺を巻き込むな!!」

「あああああああ……カリュオンが余計なことを言うから苔玉の子が、一緒に走ってやるから二十周に増やすクサってなってるよ!! カリュオンは責任とって俺の二十周も走って!! 熱っ! え? ズルをしようとする奴は追加で十周増やすトカゲ、よってお前は三十周トカゲ!? ええー、ひどい!! 余計なことを言ったのはカリュオンだし、グランに餌付けされすぎて全員ポッチャリしたのも事実……痛ったぁ! 冷たぁ! え? 全員四十周!? そんなのもう数えられないよ!!」


 ういおおおおおおおおおい!! カリュオンもアベルも自爆するなら俺を巻き込むなあああああああ!!

 あ、アミュグダレーさんが気配を消してこっそり離脱しようとしたけど、苔玉ちゃんが蔓をヒュルッと伸ばして捕まえた。

 アミュグダレーさんも一緒に走っとく? 親子のコミュニケーションに丁度いいのでは?


 もちろん苔玉ちゃんが投げている木の実は俺が責任を持って回収しているけれど、四十周はさすがに朝飯までに終わらない気がするからちょっと負けてほしいな?

 ここは賄賂にきな粉ワラビィ餅を渡して……え、賄賂だめ? ズルだから更に十周追加で五十周!? ぎええええええええ!!

 せめて身体強化を使わせてくれえええええ!!



 こうして俺達はユウヤ戦を前にしてチビッ子達に鍛え直されることになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る