第977話◆俺VSつまみ食い常習犯
ジュワアアアアアアアアアアアアアッ!!
サイズの大きい揚げ物用鍋にタップリ張られた油。そこに投げ込まれる焼き上がって粗熱が取れたばかりの楕円形のパン。
投げ込まれた直後プカプカと浮き上がってくるそれをトングで向きを変えながら表面が満遍なくパリッとするまで揚げて、油から引き上げしっかりと油を切る。
キッチンに設置された大型のオーブンに加え、アイランド型キッチン台の足元にある小型のオーブンからはパンが焼き上がる香ばしい匂いが漏れ出してきて、キッチンとキッチンと繋がる食堂の中を満たしており、換気用に開けている窓や、扉の僅かな隙間からキッチンと食堂の外へも漏れていっていることだろう。
そしてその香りのせいで昼飯にはまだまだ早い時間だというのに腹が飯を求め始めていた。
キッチン台の上には煎ったソジャ豆を挽いた粉――きな粉の広げられたバット。それ以外に荒目の黒糖のバットとココアパウダーのバットもスタンバっている。
ピザパーティー二連の翌日は朝食の後からキッチンで揚げパンを作っていた。
昨日ピザを食べすぎたせいで、やや重たくなっている胃の辺りをさすりながら。
胃はちょっぴり重たいがそれでも食べたい揚げパン!
あの日、食べられなかった揚げパン!
必ず作ると心に誓った揚げパン!
俺と同じく揚げパンを食べられなかったラトと三姉妹、チビッ子達にも作ると約束した揚げパン!
ついでに箱庭勢にも差し入れるつもりの揚げパン!
今日のおやつは揚げパン!!
そして昼飯はせっせと焼いているパンでホットドッグかな!? 以前作ったそばもどきを焼いて焼きそばパンもいいな!
そうだ、いろいろな料理とパンを並べて好きなように挟んで食べる、おかずパンバイキングにしよう!
カリュオン親子とタルバ、三姉妹、サラマ君以外のチビッ子達はリビングで魔導具作りの追い込み。
サラマ君は今日は朝ご飯の後フラリとどこかに行ってしまって、今日のチビッ子は三色だけ。
ラトもリビングにいたけれど手伝ってんのかなぁ? 最後の追い込みくらい番人様も参加するのかなぁ?
……邪魔してないといいけど。
昨日俺達が干物にされた甲斐あってか、今日中にはあの何かすごそうな魔導具が完成するらしい。
最後くらい魔導具作りに参加したかったけれど、もはや俺の分からない言語で付与が行われているし、細工もハイレベル過ぎてにわか職人の俺にできることはなさそうだったので素直にご飯を作って応援することにした。
うん、ある程度まではなんとなくでできるけれど、専門的なハイレベルなことになるとついていけなくなるのはまさに器用貧乏な俺って感じ。
いいもんいいもん、揚げパンとおかずパンをいっぱい作るもん。
ジュストは今日も昼には帰ってくる予定で冒険者ギルドの仕事をすると言ってピエモンへ。
そしてアベルは――。
「こら! つまみ食い禁止! チュペも! ちゃんと味見分は用意するから、手伝うならつまみ食いはダメ!! ていうかパン一個はつまみ食いってレベルじゃねーだろ!!」
「だってぇ、このパンの焼ける匂いはズルいよ。ほら、チビ炎だってちょっとくらいいいだろって言ってるから、チビ炎と半分こならいいでしょ? そのソジャ豆の粉と黒い砂糖とカカオの粉それぞれ一つずつ、チビと半分こでいいからさー」
「ケーッ!」
「それぞれ一個ずつって、半分こしても三種類だとパン三つじゃねーか! お前等いつも煽りあってんのに、何でこういう時は妙に意気投合してんだよ! ほら、パンが焼き上がったからオーブンから出して次のパンを焼いてくれ。どんどん焼いてどんどん作ればたくさん食べられるぞー。たくさん作れば、試食もたくさんできるかもしれないからがんばれー」
手伝うと言ってキッチンに居座って、俺の作業の邪魔ばかりをしている。途中から出てきたチュペと一緒に。
油が切れたパンから粉にまぶす作業を任せようとしたらこれ。
しかもいつもは俺の肩の上にいるチュペがアベルの肩の上に乗って、つまみ食い共闘を始めようとしている。
こらーー! 隙をついてつまみ食いをしようとするのはやめろーー!!
俺だってつまみ食いをしたいのを我慢してるの!! てか、その量はもうつまみ食いじゃねーだろ!!
プーッと頬を膨らましてもダメ。
三姉妹だったら可愛くてつまみ食いを許していたけれど、男がプーしても何も可愛くないからダメ!
チュペもアベルの真似をして膨らんでもダメ! てか、日々のつまみ食いと昨日のピザ祭りで前よりふっくら……でかくなってないか!?
隙あらばつまみ食いをしようとするアベルとチュペのコンビをあしらいつつ上手く口車に乗せ、俺がパンを揚げている横で次々にパンを焼いたり、揚げ終わったパンに粉をまぶす作業を任せている。
チュペはもっぱら火の当番。
パンが焦げないように、そしてふっくら焼けるようによぉく見張ってるんだぞー。
今日のパンは小麦粉とバターと塩とミルクだけで作られたシンプルな長細いパン。
バターとミルクはアミュグダレーさん……ではなく苔玉ちゃんがフンバババターとフンババミルクを提供してくれた。
そっか、苔玉ちゃんはカリュオン達と仲良しだからフンババとも仲良しなのかな?
任せてくれ! 貰ったフンババミルクとバターは美味しく料理しちゃうぞー!
というわけで、フンババパンが大量生産されているナウ。
量産されたフンババパンは揚げパンにするものと昼飯用とで半々にして、揚げパンにしない分は昼ご飯用に。
揚げパンを作り終わったら、次はパンの間に挟むおかずを作るからなー。
ホットドッグ用のパリッとウインナーを焼く以外にも焼きそば、コロッケ、卵サラダ、トマトソースのスパゲティーもいいし、唐揚げもいい。
昨日のハンバーガーと少し似ているな。
そう、ハンバーガーもおかずパンも何を挟んでもいいんだ。
だから今日の昼飯は、自分で好きなものを好きなだけトングで掴んでパンの中に挟んで食べるおかずパンパーティーだ!
パンの中に挟むおかずが全部できあがったのはもう昼直前。
恥ずかし屋のチュペがソウル・オブ・クリムゾンに戻る前に、せっせとパンに好き勝手おかずを詰め込み揚げパンも一種類ずつ抱えている。
そこには元となった存在の威厳が微塵も感じられないが、うちで伸び伸び過ごしている分にはこのくらい緩い方が俺も緊張しない。
チュペがせっせとパンの間に詰め込んでいるのは、植物性の灰を与えて育てたスライムのゼリーを利用して作ったアシュ麺という黄色味を帯びた麺をキャベツやボア肉と一緒にソースで炒めたもの。
前世の焼きそばにだいたい似ているものだ。
結局おかずを作っている時にアベルと一緒になってつまみ食いをして焼きそばがとても気に入ったようで、せっせとパンの間に挟んでソウル・オブ・クリムゾンの中に持ち帰ろうとしている。
……なぁ、前々から気になってたんだけどさ、ちょいちょい俺が料理している時に出てきてササッと食い物を取ってソウル・オブ・クリムゾンの中に戻っているけれど、その中はどうなってんだ?
ソウル・オブ・クリムゾンの中に食べ物のゴミとか散らかってないよな? やっぱ分解して魔力になって吸収されてたりするもんなの?
……やだな、ソウル・オブ・クリムゾンの中にチュペルームがあって、散らかりまくっているのは。特に食べ物系の生ゴミ。
食べ物をソウル・オブ・クリムゾンの中に持ち込むのはいいけれど、ちゃんと綺麗にしとけよ!!
ソウル・オブ・クリムゾンはシュペルノーヴァに貰ったというか貸してもらっているようなものだろうから、いつか返す日が来る時に食べ残しが散らかっていたら俺が呆れられそうだから!!
ってチュペに気を取られていたら、唐揚げ大好きマンのアベルが唐揚げを食べまくってる!!
こらーーーーー!! 昼飯の分が減るだろーーーーー!!
チュペがパンを抱えながらソウル・オブ・クリムゾンに戻り、パンとおかずを食堂に運んでいると玄関が開く音がして聞き慣れた元気のいい声が聞こえてきた。
それが合図になったかのように、リビングにいた者達が動き出す気配がした。
そのタイミングで昼を知らせる壁掛け時計のベルが鳴る。
呼びに行く必要もなくゾロゾロと食堂にみんなが集まってきていつもの席に。
それじゃあ始めようか、おかずパンなランチパーティーを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます