第976話◆迫る戦いの前に

「ピエーーッ!」


「…………ッ!」



 フンババチーズをたっぷり使ったピザ祭りな夕食を終え、当初の予定からすっかり遅くなってしまったが箱庭にやってきたら、別荘を出た所で白いモフモフとイケメン立ちをする植物に熱烈歓迎をされた。

 そりゃあもう、帰宅した主人を熱烈歓迎する犬のように、クンクンと。


 ん? クンクン? もしかして俺ってばにおう!?


「うわ、毛玉がこっちにきた! なんで!? 俺はグランみたいに変なにおいはしないよ!!」


 ナチュラルに俺から変なにおいがするみたいなことを言うな。

 俺は良いにおい! 特に今日はピザを焼きまくったからフンババチーズの香り!

 でもピザ窯の前で汗だくになったから結構汗臭い? ピザを焼き終わったらちゃんとシャワーを浴びたはずなのに?


「え? 僕にも? ディールークルムさんの蔓の動きが食べ物を探してるワンチャンみたいですねぇ」


 俺をクンクンしまくった後、ケサランパサラト君はアベルの所へいってクンクン、ディールークルムはジュストの方へ蔓を伸ばして念入りにジュストをチェック。

 確かにジュストの言うように飼い主の持っている食べ物を探している時の犬を連想させる動きだ。

 夕飯がピザだったからアベルもジュストもピザのにおいがするのかな?


「ははは、フンババチーズのにおいが気になるんだろうなぁ。フンババは神の眷属だけあってミルクは魔力が豊富だし、チーズに加工すれば魔力が圧縮されるからな。昼間にあんだけ魔力を枯渇させたのにすっかりピンピンなのはフンババチーズのおかげだ。ピザの美味そう残り香に加えてその魔力が気になるんだろ? しかも親父が持ってきたやつはフンババの王フンババロードかそれに近い奴らにもらった高品質なミルクからつくったチーズだろうなぁ。ははっ、グランはそんなショックを受けた顔をしなくても大丈夫だぜ? フンババは木と同じで強くなればなるほどでかくなって、でかいから強い奴ほどミルクもたくさん採れるんだ。おっと、次は俺かぁ? ピザならグランが隠し持ってるぜ」


 確かにフンババのチーズには良質の魔力が豊富に含まれていて、それはピザとして焼き上げてもしっかり残っていた。

 ミルクから圧縮された濃厚な魔力が含まれていながら、味にはあまり強い癖がなく非常に食べやすく胃にももたれない。

 しかもチーズにたっぷり含まれている良質の魔力が、魔力枯渇から立ち直ったばかりの体に染み渡り残っていた気怠さも気付けば完全に消えていた。


 さすがハイエルフの長老が持ってきたすんげーチーズだなぁって思っていたらフンババロード!? 何それ強そう! しかもそのミルクなんてめちゃくちゃレアそう!!

 もしかして俺ってばそのすごくレアですごそうなチーズを容赦なくピザに使いまくって、もったいないことをした!?


 と、微妙にショックを受けたのが表情に出ていたのか、カリュオンが苦笑いしながらフォローしてくれた。

 へー、上位のフンババになるほど採れるミルクは増えるのかー。

 俺もフンババと仲良くなればミルクを分けてもらえるかなぁ……いや、やっぱ恐いからやめとこ。

 ダンジョンで見かけるフンババは縄張りに入った者に容赦なく、捕まえた者を文字通り千切っては投げ千切っては投げするからな……こわいこわい。

 天然物のフンババは森を荒らさなければいきなり襲いかかってきたりはしないとアミュグダレーさんが言っていたが、ダンジョンのフンババのイメージが強すぎてやっぱこわいこわい。

 俺だってさすがにチーズより命のが大事である。


 っておい! 俺がピザを持っていることをカリュオンがバラしたから、ケサランパサラト君とディールークルムが俺の所に戻ってきたじゃないか!

 おいこら、やめろ! 綿毛や蔓でコチョコチョと俺の装備をチェックしても、ピザは収納の中だから俺が出さないと出てこないぞ!

 こらっ、関係ない所までコチョコチョするのはやめろ! お前等のピザはちゃんと持ってきているからコチョコチョ禁止!!






「ホント、厚かましいガーディアン達だね。食べた分はしっかり働いてよね」


「魔力がたっぷりなものをたくさん食べて力を付ければ、箱庭に溢れる力も制御できるようになるのでもっとたくさん力が付きそうなものが欲しいそうです」


「それって箱庭に溢れる魔力の制御は二の次で、ただグランの料理を狙っているだけでしょ!? 魔力を取り込んで力が付くのなら料理じゃなくて魔石でも囓ればいいでしょ!? あ、それ俺が食べようと思ってたやつ! ていうか植物の君さ、肉のやつばっかり食べてるでしょ? 野菜も食べなよ、肉と野菜はバランス良く食べろってグランがいつも言ってるよ!」


「ケーーーッ!」


「この欲張り炎トカゲ、二切れ纏めていきやがった! お前も肉ばっかり食べてるじゃないか! 野菜を食べなよ、野菜を!」


 結局ケサランパサラト君とディールークルム君のコチョコチョ攻撃に負けて、畑の傍らでスーパーピザタイムになってしまった。

 俺達は夕食の後すぐに箱庭にきたため畑仕事か箱庭探索をしてから軽食をーと思っていたのだがダブルコチョコチョ攻撃が執拗すぎたので、箱庭の畑や果樹園の世話を任せている彼らのための、お礼と差し入れを兼ねて用意してきていたピザでチーズがビヨーンとするピザタイムは、アベルのブーメランが絶好調である。

 そしてやっぱり出てきたチュペも加わって、すっかりお馴染みの箱庭メンツでビヨーン。


 昼間に魔力を枯渇させた俺達は夕食の直後でもまだまだ腹に隙間が残っているので、その隙間にピザを詰め込むことができる。

 でも夜に箱庭にきた日は夕食の後にさらにがっつり何かした食べているので、今日はピザを食べ終わったらしっかり体を動かそうな。

 畑には新たにソジャ豆やチャノキが育っているし、薬草も収穫時になっているし、果物もたくさん実っているからそいつらも収穫しようか。


 ガーディアン達がやたら食い気に満ちていると思ったら、ガーディアンとしての役割を果たす力を付けるためだったんだな。

 俺の料理がその助けになるならいくらでも差し入れを持ってこよう。料理で箱庭の平和が近付くなら安いものである。

 箱庭の安定を図るために食べた分だけ働いてもらうことになりそうだし。


「てゆーかよぉ、明日くらいには例の沌の奴――堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーの沌の魔力を振り払う魔導具が完成しそうなんだが、アイツのとこに突撃する前に他の属性のガーディアン達にも会いにいった方がいいのか? まぁ、苔玉達が本気出しすぎて四大元素に光と聖を加えたやっべー兵器ができあがりそうなんだけど」

 無限胃袋にひたすらピザを詰め込みながらも真面目な顔のカリュオンと、その言葉に何やら話し合っているように顔を見合わせるケサランパサラト君とディールークルム君。

 その間も皆ピザを食べる手を止めることがない。

 ピザは美味いもんな、ビヨーン。だがその名をフルネームで呼ぶのやめろくださいビヨーン。


「その兵器の製作に関わったのがガーディアンの産みの親達ならば、十分に沌を打ち破る力があるそうです。沌のガーディアンは、これ以上堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーの魔力が箱庭を侵食しないように暗躍しているようだから、もしかするとあちらから接触してくるかもしれない。他のガーディアンはおそらく堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーの沌の魔力で、己の魔力を侵食される危険があるのであの割れ目に近寄ると、ディールークルムさんのように沌に取り込まれてしまう危険があるので、ガーディアンの制作者の力が使えるならその方が安全とおっしゃってます」

 彼らの話し合いが終わればその言葉をジュストがビヨーンとしながら通訳してくれる。

 相変わらず便利すぎるジュストの自動翻訳、でもその名の連呼はやめてくれー。


 なるほど、じゃあ他のガーディアンに会いにいくのは、ユウヤ君を倒した後でいいな。

 そう、ユウヤ! 長い名前を呼ぶのは面倒くさいからユウヤ君って呼んであげて!!


「それから、兵器の使用は威力と常識を考えて正しく使うようにとのことです。やりすぎるとキノコさんから怒られるかもしれないので、やりすぎるなら怒られない程度で収まるようにちゃんと威力を調整して使ってくれだそうです」


 ああ……うん……俺はあの謎の兵器がどうなっているかあまり詳しく知らないけれどやばそうだからね。

 キノコ君に怒られない威力に収まるように製作サイドに伝えておくよ。


 通訳してくれたジュストの話を聞きながら思わず目が泳いだ。

 


 












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初夜にお前を愛することはないと言った夫が今さら機嫌を取りにきて超うざい【連載版】

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ついでに昔書いた短編もカクコンにエントリーよかったら覗いてみてください。

彼氏がPT内で四股かけてた事が発覚して私涙目www

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