第973話◆カメカメコックさん
動けるほどに魔力が回復して、意識がはっきりとした時はおやつタイムを過ぎていた。
ハンバーガーを作ってくれるというカメ君が心配で、何度も手伝いにいこうとする夢を見ていた。
手伝いにいこうと起き出あがるけれど実はそれは夢で、俺はずっと床に倒れて寝ている、という夢を何度も何度も。
だってあんなに小さいカメ君が料理をするなんて、心配で心配で。
いつも水を手のように操って料理を手伝ってくれていたけれど、やっぱり心配じゃん?
三姉妹と一緒にやるみたいだけれど、そうしたらカメ君だけじゃなくて三姉妹も心配じゃん?
大丈夫? 新しいキッチンの使い方はわかる?
コンロが以前のものより火力が高くなってるから火傷をしないようにね。
足元のオーブンを使うなら、見えにくい位置でオーブンが熱くなるから気を付けて。
それからシンクの給水器は右にレバーを回すと水が出るけれど、左に回るとお湯が出るから気を付けて。左に回せば回すほど湯の温度が上がるから、これも火傷をしないようにね。
それからそれから――と色々気になるし心配すぎて、何度もキッチンへ向かう夢を見てしまったようだ。
繰り返す夢を終わらせてくれたのはカメ君。
グルグル繰り返す夢を断ち切ってくれたハンバーガー。
パンの間にはボリュームのあるハンバーグが二つ挟まったそれは、魔力枯渇でグーグーと鳴っている俺の腹にシューッと吸い込まれて、無意識に言葉が漏れた。
「めちゃくちゃ美味しい! おかわり!」
出てきたおかわりも夢中で食べてすぐにおかわりと言ってしまった。
それは他の干物勢も同じようだったみたいで、みんなすごい勢いでハンバーガーを食べていた。
アミュグダレーさん用にコカトリスカツが挟まれたものが用意されているなんて、カメ君は気遣いができる亀だなぁ。もしかして一緒にキッチンにいった三姉妹のアドバイスなのかなぁ?
カリュオンのはでっかいハンバーグが四枚も挟まっていて面白いことになっているが、それを普通に食べているカリュオンも面白い。
カメ君が作ってくれたハンバーガーは俺達干物組によりすぐに食べ尽くされてしまい、カメ君がカメカメとため息をつきながらキッチンへ向かっていった。
その足取りが妙に軽やかでスキップをしているようにも見えた。
カメ君のハンバーガーのおかげで動けるようになったし、俺も手伝いにいこうかなーって思ったら苔玉ちゃんと焦げ茶ちゃんとサラマ君に寄って集って木の実とか石ころとか溶岩石とか渡されて、何だろうって鑑定しているうちにカメカメハンバーガー第二弾が出てきた。
第二弾は第一弾より肉の大きさが揃っていて、パンも焦げることなくほどよく温まっていて、カメ君のハンバーガースキルが急上昇していることが感じられた。
はぁ~、うちのカメ君はハンバーガー作りの……いや、料理の天才かなぁ~?
将来はすっごいカメカメコックさんになって、カメカメレストランの店長さんかなぁ~?
そんな日がきたら俺がお客さん第一号になるんだ。
いけない、まだまだ魔力枯渇状態で眠気が残っているからハンバーガーを食べながら、非現実的な夢のようなことを考えてしまった。
むしろ腹が満たされてきたせいで睡魔がだんだん強烈になってきてスヤァ……。
たくさん食べてぐっすり寝るのが魔力の効率的な回復方法だから仕方ないスヤァ……。
体もそれを知っているから、空腹感が落ち着いてくると寝ようとするスヤァ……。
先ほどの魔力チューチューの時とは違って心地の良い睡魔に襲われ、瞼が自然に落ちてきてゆっくりと視界が狭くなっていく。
その視界が閉じる前に見えたのは、すごい勢いでハンバーガーを食べているカリュオンが二人――正確には片方はアミュグダレーさんなのだが、そっくりな顔とやたらシンクロする動きでカリュオンが二人いるように見える。
ん? カリュオンが二人?
あれ? アミュグダレーさんが囓っているハンバーガーがコカトリスバーガーじゃなくて、俺達と同じブラックドラゴンとアーマードボアの合い挽きハンバーグのやつでは。
もしかして腹が減りすぎて気付かずいっちゃった!? アミュグダレーさん、大丈夫なのか!?
しかしそれを伝える余裕もなくスヤァ……。
でもトイレも改装して数が増えたので、トイレの妖精になってもトイレは渋滞しないので問題ないスヤァ……。
そして再び意識が飛んでいってしまい、今度は夢すら見ないほどに。
それからどのくらい過ぎたのだろうか、再び意識が浮上したのは鼻をくすぐる甘ぁ~い香りのせいだった。
ハッとなって目を開けるとデジャブ、ハンバーガーの時と同じ光景。
シナモン香るアップルパイを一切れ載せた小皿を、床に倒れる俺の前に置こうとしているカメ君。
やっぱりカメ君は将来カメカメレストランの店長かな?
いてっ! 何で氷をぶつけたの!?
カメ君と目が合ってニッコリと笑顔を向けると、大きめの氷をゴツンとぶつけられた。
相変わらずテレ屋のカメ君だけれど、カメ君が俺に懐いているのはちゃんとわかっているぞ。
いてっ! こら、氷ぶつけすぎ!!
体を起こし床に座った状態で周囲を見回すと、俺と同じように今目覚めたような顔のアベルとジュストが食べやすいサイズにカットされたアップルパイをもそもそと食べていた。
カリュオンはすでに起きていたのだろうか、スッキリした顔でソファーに座ってお茶を飲みながらアップルパイをホールごとキープしている。
アミュグダレーさんは……姿が見えないところを見るとトイレかな……やっぱ、あれ竜と猪の肉のハンバーガーだったよね?
それにしても俺はどのくらい寝ていたのだろう。午後からは箱庭に行く予定だったのに。
窓から差し込む日差しはまだ眩しいが、少しだけ混ざる黄色味がだんだんと夕方が近付く時間であることを示している。
時計を見れば十五時からすでにかなり回ったところで……アーーーーッ! 箱庭! 箱庭に行く時間が!!
ぐぬぬぬぬぬ……今から行くと夕食の支度に支障が出る時間だから、今日も夕食の後か?
また今日もユグユグちゃんが起きている時間にいけないな。
ユグユグちゃんには、この間ディールークルム君の背中から落ちた時に助けてもらったお礼をちゃんとしようと思っていたのに。
明日! 明日こそちゃんと会いに行くよ!!
そしてカメ君、今日はありがとう。
ハンバーガーもアップルパイも美味しくて、すっかり魔力枯渇から立ち直ったよ。
だから今日の夕飯は張り切って作っちゃうぞー!!
と張り切っても、まだ夕食を作るには少し早い時間。
しかしこの空いた時間を無駄にするのはもったいないので、明日から始まる予定の二階の改装に備えて自分の部屋を片付けておこう。
部屋で装備の手入れをしたりアクセサリーを作ったりするから結構散らかってるんだよね。
今のうちにパパッと片付けちゃおっと。
せっかく改装でどんどん家が綺麗になっているので、これを期にちょっぴり散らかっている俺の部屋も綺麗にするんだ。
ちょっぴり散らかっているだけだから、きっとすぐに片付くさ。
ちょっぴり……だからね?
「うっわ……さすがグランの部屋って感じの散らかり具合。うっわ……チビカメはここで寝起きしてて気にならないの? ていうか、これ明日までに片付くの?」
「カ……カメェ……」
「よくわかんねー素材が山積みで、さすがグランの部屋って感じだなぁ。苔玉ー、勝手に弄るのは爆発物があるからやめとけー」
「キ、キエッ!?」
「わぁ、さすがグランさんの部屋! 見たことがないものがいっぱい!! アッ!」
「モモッ!?」
「ゲエエエエエッ!」
「手入れ途中の装備とか、作りかけの秘密兵器とか置いてあるから足元には注意しろよーって、何でお前等俺の部屋までついてきたんだよ!!」
明日のためにちょこっと部屋の片付けをーって思ったら、何でアベル達がついてきてんだよ! チビッ子達も!!
トイレの妖精と化しているアミュグダレーさんと、リビングで酔っ払ってひっくり返っているラトや、おやつの後のお昼寝の時間になった三姉妹はいないけれど、それでも大人数で俺の部屋に押しかけたら狭いだろ!!
そこのアベル! 勝手に部屋までついてきて、ハンカチで鼻を押させるのは俺に失礼じゃないか!
臭いものなんかないぞ、多分! 何かにおってもそれは、何かに使っている薬品だ!
カメ君は気にせず毎晩俺の部屋で寝ているのに!!
苔玉ちゃん、興味があっても触ると危ないものもあるから勝手に触らないでね。
爆発物はないけれど、まだ製作途中で効果が不安定な秘密兵器もあるから危ないよ。
って、アーーーーーーッ!! 床に転がっていたトレントの棒を踏んだジュストがすっ転びそうになったーーーー!!
だけどすかさず焦げ茶ちゃんが支え……きれてなああああい!!
一人と一匹で一緒に転がりそうになったところを、サラマ君がヒョイッと支えてくれた。
サラマ君、小さいのに力持ちー!
俺の部屋、俺的にはそこまで散らかっている気はしなかったんだけど、やっぱ人に見られるのは恥ずかしいなぁ。
カメ君はいつも俺の部屋で寝るから、もう気にしてなかったみたいだけど……。
普段よく使うものとか、使うかもしれないものとか、少し前に使ったものが机の周りに積み上げちゃってるからなぁ。
散らかっているように見えて俺はちゃんとどこに何があるか把握しているから、俺的には散らかっているとは思っていなかったのだが、やはり誰かに見られると恥ずかしい。
アミュグダレーさんがトイレに篭もっていてこの場にいなくてよかったなー、カリュオンのお友達が片付けが苦手な子だと思われちゃう。
ていうか、お前等も明日に備えて自分の部屋を片付けにいけよ!
俺はこれから効率良く部屋を片付けるんだ!!
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