第970話◆干からびた俺、再び
「うおおおおお……魔力が吸われるうううううう!! こらあああああ、何かやる時は先に言えええええええ!! 親しき仲でも報・連・相! 報告! 連絡!! 相談!! ぎええええええええ、魔力が吸われるうううううう!! ちくしょう、絡みついた蔦からチューチューと、ナナシみたいなことをしやがって!! あ、ナナシはそこで対抗心燃やしてチューチューすんなよマジで!! この勢いで魔力を吸われたら干からびちゃうううううう!!」
「ちょっとおおおおお!! 俺っていう通訳がいるんだから、事情はちゃんと説明して!! え? なかなか悪くないできの魔導具だが、さすがに偉大な僕達のちょっぴり本気魔力には耐えられそうにないから、代わりにお前達の魔力を使って付与をするクサ。あそこで干からびてる奴らの魔力だけではちょっぴり足らなかったので、足らない分はお前達の魔力をちょっとチューチューして代わりに偉大な付与をしてやるテツ。ちょっとおおおおおお、そういうことは先に言って確認と許可を取ってやるもんでしょ!! あああああああ、めっちゃ魔力を吸い上げられてるううううううう!! あ……でも魔力をたくさん使ったら、魔力量が増えるからありっちゃありかも?」
「ん? 確かにアベルの言うことにも一理あるな。魔力は増やせるだけ増やしたい! 大は小を兼ねる!! いいぞ、もっと吸え!! ナナシは余計なことをすんじゃねーぞ!!」
「カメーッ!」
「ん? カメ君、もしかして心配して助けにきてくれた? それとも俺が苔玉ちゃんに魔力を吸われてヤキモチかな? ははは、カメ君はもしかしなくても俺のことが大好……ぎえええええええ! 体の中を綺麗な水が流れるようなこの感覚! そして水となって魔力が流れ出して筒みたいな魔導具に吸い込まれてるうううううう!! カメ君ってば俺を助けにきたんじゃなくて、苔玉ちゃんに協力しにきたの!? ぎえええええええ、さすがに魔力の消耗速度速すぎいいいいいい!!」
「ゲエーッ!!」
「ぎゃ、チビトカゲがこっちにきた! やだ、やめて! 茶色の子だけで十分だよ! あっつ! ああああああっついいいいい!! ちょっと、炎を纏わり付かせて魔力を吸い上げるのはやめてえええええ!!」
シュルシュルと左腕に絡みついた蔓が俺の魔力を吸い上げ、白い筒状の魔導具へと流し込んでいるのがわかる。
直前まで完全に油断をしていたところに急激な魔力吸収をくらい膝がガクガクと笑い始め腰が抜けそうになったのをなんとか踏ん張り、腕に絡みついている蔦を引っ張って外そうとするがガッチリと俺の腕にくっついていて引っ張ってもビクともしない。
その間にもどんどん魔力を吸われて、蔦を引っ張る手にも力が入らなくなる。
いやいやいやいや、カリュオン達の惨状を見た後だから苔玉ちゃん達が何をやりたいかなんとなくは察したけれど、アベル通訳で報告連絡相談はちゃんとして!! 気持ちの準備をする時間もちょうだい!!
ていうか今ならバレないと思ってどさくさで魔力をチューチューしようとしている気配が腰の辺りから感じる。
ナナシ、テメーは大人しくしてろ!! ソジャ豆が手に入ったから、近いうちにお豆腐を切るという重大な任務をお前に与える予定だからそれまで大人しくしてろ!!
俺の横ではアベルが焦げ茶ちゃんによって魔力を吸い上げられながら、彼らの意図を通訳してくれるがもう遅い!
そっかー、苔玉と焦げ茶ちゃんが本気を出しちゃうと魔導具の方が耐えられないかー、すごい魔導具っぽいけれど苔玉ちゃん達もすごいんだなー。
それよりどんだけ魔力を使って付与をするの? でも、このままでは俺達までカリュオン達みたいに干からびちゃうぞー!
てか、カリュオン達もきっとこうして干からびたんだなぁ、って納得している間にもどんどん魔力を吸われちゃうー!!
しかし確かにアベルの言うとおり魔力を限界まで使い切るのは魔力の総量を増やす最も効率の良い方法で、俺やアベルのように魔力がアホみたいに多いとなかなかそれが難しいので、この状況は魔力を増やすチャンスだといったらチャンスなのだ。
よっしゃ、魔力を吸い取っていいぞ!!
でもこの後箱庭に行く予定があるからなー、魔力は増やしたいけれど箱庭にも行かないといけないからほどほどで……あっ、ナナシ! 今どさくさで魔力をチューチューしただろ!? 少しだけなら気付かないと思ってチューチューしただろ!?
そして俺の方にはカメ君が、アベルの方にはサラマ君がピョコッとやってきて助けてくれるのかなと思ったら、更に魔力を吸収される勢いが増した。
ああー、体の中をひんやり心地の良い水の魔力が駆け巡って、それと一緒に俺の魔力が魔導具に向かって流れ出していくー。
カメ君が追加されて魔力の消耗速度が二倍二倍ーーーー!!
アベルの方もサラマ君の炎に纏わり付かれてギュンギュン吸収されてそうだなぁ。
これですっごい魔導具が完成して箱庭に平和が訪れて、俺達の魔力も増えるなら良いことしかないのでは?
まさに一石二鳥、一岩二竜!!
――そして俺もアベルも無事干からびた。
「おお……グランとアベルよ、この程度のことで干からびてしまうとはなんと不甲斐ない」
うるせぇ、酔っ払い酒カス番人は黙ってろ!
床にうつ伏せで倒れる俺とアベルを、ソファーの上にゴロゴロしながら見下ろしてくる酒カス番人ラト。
てめぇ、後で覚えとけよ!! 胃袋を握っているのが俺だということを必ずわからせてやる!!
「グランもアベルもお疲れさまですわ。おかげで魔導具はほぼ完成ですわ」
「後は最後の仕上げをすれば明日には完成しそうですよぉ」
「後は安心して私達に任せてちょうだい!」
お、おう。俺達すごく頑張った、めちゃくちゃ頑張って魔力を吸われたから褒めて褒めて。
頑張ったから優しいお姉様にヨシヨシされたい。可愛い幼女のヨシヨシでもいい。
三姉妹は見た目は幼女で中身は年増で、幼女とお姉様の両取りでお得感!!
俺達が頑張ったおかげで明日には完成!?
やったー、俺達は魔力すっからかんで干物みたいになったけれどすごく楽しみだなー!!
でもヴェルに任せてちょうだいとか言われるとちょっぴり不安になるな。
「キキー?」
「モ?」
「カメェ?」
「ゲ?」
床で干からびている俺達を、生存確認するようにツンツンと突いているチビッ子達。
生きているから脇腹をツンツンするのはくすぐったいからやめろ。くすぐったくても抵抗する気力が残ってないからやめろ。
君達も後で必ずわからせてやるからな、ちくしょうめぇ!
「グラン達もやられちまったか……馬鹿だな、苔玉は。グランを動けなくすると、今日の飯に関わるっていうのに……ちくしょう、腹が減った」
「キエッ!?」
相変わらず床で干からびてゴロゴロしているカリュオンの言葉に苔玉ちゃんがハッとした表情になった。
そうだぞぉ、こんなに魔力を消耗して干からびちまうと飯を作る気力はないからなぁ。
ああ~、せっかくリリーさんのとこでハンバーガー用のパンをたくさんお裾分けをしてもらってきたから、今夜はハンバーガーパーティーにしようと思ってたんだけどなぁ。
いや~、こんなに干からびちゃうとご飯を作る気力がなくて、魔力が完全回復するまで寝ちゃうかもなぁ~?
それにしても腹が減ったなぁ~、何かめちゃくちゃたくさん食べたら元気が出て今夜の夕食も作れるかもしれないんだけどなぁ~?
その前に箱庭も行きたかったけれど、この感じだと今日のデイリー箱庭は全員無理かぁ?
ああ~、空調でひんやりした床が気持ちいいからこのまま寝ちゃいそう~。
「カメ……」
床にベタンと倒れた体勢で意識が飛びかけた時、カメ君が申し訳なさそうにチョンチョンと頬を突いて意識が戻ってきた。
うん、大丈夫。俺達の魔力で対ユウヤ用の魔導具が完成するならそれでいいよ。でも今日はちょっと休ませて欲しいな。
「カメメ……」
瞼が重くなり再び意識が飛びそうなったところで、またチョンチョンと頬を突かれた。
どうしたのかな? 俺は語学はめちゃくちゃ苦手なのでカメ語はわからないカメよ。
オーケー、アベル! カメ語を翻訳して!
アベルの方と振り返ると俺の求めることを察して微妙に面倒くさそうな顔をされた。
もしかしたらカメ君がすごく重要なことを伝えようとしているかもしれないから頼む!
「え……何? 魔力を消耗しすぎて究理眼を使うのも辛いんだけど……あ、お腹空いた……そしてそれ以上に眠……え、何々? 金髪のお姉ちゃんに貰ったパンを寄こすカメ? 料理の天才の俺様がハンバーガーという料理を再現してやるカメ~。ええ!? カメごときが料理ができるっていうの!? 冷たっ!!」
すごく重要なことだった。
そしてこんな状況でもカメ君を煽ることを忘れないアベルがいつもの水鉄砲を浴びせられている。
え? マジ!? カメ君、ハンバーガーが作れそうなの!?
頼む!! 今の俺達は魔力枯渇で肉々しいものを腹の底から欲してるんだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます