第967話◆ショッピングの締めはランチタイム
「いやー、色々お安くしてもらったうえに、お昼ご飯まで頂くことになってすみませんね。しかもチビッ子達も一緒で」
「さっきまで爆睡してたくせにランチって聞いたらすぐに起きて、まったく食い意地の張ったチビ達……熱っ! 冷っ! 君達、屋内で攻撃魔法は危ないからやめなよ! 我々は偉大なので狙った相手以外に燃え移らないようにしているトカゲ、偉大な俺様達ならそのくらい昼飯前カメー。キッ、そんなとこで超高等技術の無駄遣いをしないで!!」
「トカゲーッ!」
「カメーッ!」
「あの……亀がカメーと鳴くかはわたくしの知るところではありませんが、トカゲはトカゲーなんて鳴かないと思いますし、そもそもトカゲではなく子サラマンダーでは? 設定はしっかりして下さいませ!」
「ははは、世界は広くて俺達の知らないことがたくさんあるから亀がカメーと鳴いたり、サラマンダーがトカゲーッて鳴いたりしても気にしない気にしない。サラマンダーだってトカゲーッて鳴きたい日もあるんだよ。そうだろ。サラマ君?」
「トカ……サラーッ!」
「いや、さすがにサラーッ! は苦しいだろ!? すみませんね、ちょっと芸達者な子達で初めて会う綺麗なお姉さんにテンションが上がってるのかな!? それよりランチのメニューは何かなー、楽しみだなー」
「ほほほ、もうすぐ来ると思いますわって、ちょうど来たみたいですわ」
ショッピングが一段落して、リリーさんのお誘いでリリーさんが所有する庶民向けレストランでランチを頂くことになった。
リリーさんのお店で生活用品をたくさん買ったので、ランチをご馳走してくれるということで。しかもチビッ子も同伴でも大丈夫な個室で。
昼前に帰宅する予定だったのだが、家を出る時にクルが昼ご飯は用意しておくけれど予定の変更があって昼に戻ってこられなくても気にしなくていいと言っていたので、リリーさんの言葉に甘えて昼飯をご馳走になることにした。
というかショッピングの途中から俺の膝と肩の上で爆睡をしていたサラマ君とカメ君がランチという言葉に反応して起きてしまったし、空気を読まない俺の腹も鳴ってしまったから。
家庭教師の日はいつもリリーさんの家でお昼ご飯を頂いているのだが、さすが侯爵家のランチだけあってマジで美味い。
そしてそのリリーさんが経営するレストランでランチとなるとやっぱり食べてみたくなるじゃん? って思ったら、俺が言葉で返事をするより早く腹が返事をした。
そしてやってきたレストランで料理がくるのを待ちながらこの騒ぎ。
アベルはすぐにチビッ子達を煽るから、そうやって反撃をされるんだよ。
つーか、反撃されるのが考えなくてもわかるのにそれでも煽るのをアベルは、反撃をされることが嬉しいドMなのでは?
それともチビッ子達を煽って毎回反撃されているうちに、新しい扉を開いちまったか?
ま、そういうのは個人の自由だからな、アベルのそういう趣味はそっと見守っておいてやるぜ。チビッ子達と仲が良さそうなのもなりよりだし。
でもアベル弄りにテンションが上がりすぎたサラマ君の鳴き声が、サラマンダーらしからぬ鳴き声になってリリーさんが困惑しているぞぉ?
咄嗟にごまかしてしているけれど、それは誤魔化しきれてないぞ!!
もー、しょうがないから俺が誤魔化しておいてやるから次からは気を付けるんだぞぉ。
ま、この世界は不思議に満ちているので子サラマンダーにちっこい翼が生えていようとトカゲーとかサラマーと鳴こうと気にしたらダメなんだ。
サラマンダーだって妙な鳴き方をしたい日もあるのだ。
そうそう、世界は不思議に満ちているからサラマンダーと亀が器用にカトラリーを使いこなしてもきにしないで。
チビッ子達用の食器やカトラリーを纏めて注文したら、さすがにリリーさんに驚かれてしまった。
人間のサイズではないのでもちろんオーダーメイドになるのだけれど、そういう注文は時折あるらしくチビッ子用品も作って問題なく注文することができた。
家に住み着いた小さな妖精と仲良くなって、妖精のためのものを注文にくる人もいるらしい。
妖精は人間と価値観が違い気まぐれで恐ろしい面もあるが、善意には善意で応えてくれる者も珍しくないからな。
うちに住み着いているチビッ子も妖精さんみたいなものだから気にしないで。
その妖精さん用の食器やカトラリーを四セット……予備も入れて十二セットくらいを注文。
オーダーメイドなので柄や装飾の指定も融通が利くので、青い亀マークと赤いトカゲマークと緑の植物マークと茶色い宝石マークを入れてもらった。
ちょっぴり高くなるけれど、うちの可愛いチビッ子のために今日の俺は財布の紐を緩めちゃう。
アベルに目を細めて呆れられても気にしない!
というか自分達のものもついでだからたくさん買った。
自分達のことになるとアベルも張り切りだしたので、そりゃあもうたくさんカタログを見せてもらってお店に在庫があるものは実物も見せてもらった。
こちらはよくいる普通の大人が使うものなのでオーダーメイドではない既製品だったので、チビッ子達のものよりずいぶん安かったのでついたくさん買ってしまった。
ああ~、また散財しちゃったからお金を稼がないと~。
それよりサラマ君がテンション上がりすぎてうっかり変な鳴き声を出しちゃったから誤魔化すのが忙しい。
はぁ~ん、ランチのメニューはー何かな~?
サラマ君がまた変な声で鳴かないように、リリーさんに怪しまれないように、料理が出てくるまで俺が誤魔化しきらないと~。
と思ったらチリンと部屋に置いてあるベルが鳴って、料理が運び込まれてきた。
料理を目にして俺の目がまん丸になった。
「せっかくですので、アベル様とグラン様との共同事業になるレストランで取り扱おうと思っている料理のご試食を兼ねたメニューにいたしましたわ。どうでしょう、ゴーゴン肉のパティをこんがり焼き上げたパンにレタスと一緒に挟んだプルミリエ風サンド! プルミリエ家出身の冒険者ギルド長ハンブルクおじ様の名前にちなんでハンバーガーという名で、発売以来フォールカルテで人気上昇中の品ですわ! 手で持てるサイズにすれば包み紙で包んでテイクアウトと食べ歩きも可能! むりにパンに挟まず皿にパンを広げてその上に肉と野菜と盛れば大ボリュームでの提供も可能。そしてそれに添えるのはパタイモのフライ!! ただのパタイモのフライに塩を振っただけのシンプルな料理でありながら至高のパタイモ料理!! 皿に山盛りにしてもよし、テイクアウト用の包装にして食べ歩きしてもよし!! そしてパタイモのフライを一度食べた人ならこの揚げたての香りで食欲を駆り立てられ、香りでつい食べたくなってしまう悪魔の料理!! そしてそれと飲み物をセットにして――……」
ものすごく早口。
早口すぎて言葉が耳の中をすり抜けていく。
いや、早口じゃなくてもきっとすり抜けていた。
だって出てきた料理が俺の記憶にあるハンバーガーそのものだったから。
そして横に添えられているパタイモのフライも懐かしさを感じたのはその組み合わせのせいだけではない。
食べやすく、そして揚げやすく細長くカットされたが形状が懐かしさを加速させた。
それらから漂う香りが転生開花を刺激してその味が俺の頭の中で連想されしまい、喉の奥からそれらを渇望する感情と空腹感が込み上げてくる。
しかも出てきたのものには定番の肉とレタスのもの以外にも、スライスチーズが入っているもの、トマトが入っているものや、肉ではなくフィッシュフライが入っているものも。
その全てに転生開花が反応しまくって、リリーさんの話が耳の中を通り抜けていく。
まぁいいや、大事なことは全部アベルが聞いて覚えていてくれるはず。
俺はこの驚きと懐かしさの感情に身を任せ、しばらく呆然とすることにした。
しかしこれは――ジュストを連れてきてやればよかったあああああああああ!!
俺もハンバーガーもどきみたいなものは今までにも作ったが、やはりあの表面に独特の光沢のあり茶色くててっぺんに丸みのあるパンを上手く焼くのが難しくて、サンドイッチに近いものになっていた。
リリーさんが出してきたのは俺が諦めたあのパン!
それが再現され、中にほどよい厚みのパティがレタスと共に挟まれハンバーガーとなって目の前にある。
ハンバーガーって名前にはビックリしたけれど、なるほどハンブルクギルド長!!
確かに王都のギルド長を務める最強ギルド長だから料理の名前になっておかしくないな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます