第963話◆買い物についていく権利
めっちゃ揚げパンが食べたい!
新しいオーブンでふっかふかのパンを焼いてジュワッと揚げて、きな粉だけじゃなくて砂糖やココアパウダーとかのも作って味比べをしたい。
朝食の時にアベル達に揚げパン自慢をされ、朝食の後に綺麗な薄黄色に成熟したソジャ豆が詰まった袋を渡され心はもう揚げパン。
今すぐこのソジャ豆をきな粉にする作業に取りかかりたいし、揚げパンにするためのパンも焼きたい。
きな粉があれば先日作ったワラビィ餅もきな粉を掛けて食べられる。
――のだが、今日の午前中は予定がある。
昨日、リリーさんと約束したお買い物の予定が今日の午前中に入っているのだ。
カリュオンは魔導具作りを手伝いで参加、ジュストはキルシェと冒険者のギルドの仕事を一緒にする約束があるようで、今日はアベルと二人でリリーさんのところに行く予定になっている。
それが終わって帰ってきたら午後は箱庭に行く予定だし、揚げパンはとりあえず保留。
明日は家にいる予定だから、明日かな?
やっぱりスローライフって、何だかんだでやることが多くて忙しすぎる。
そして朝食と出かかる準備を済ませ、出発の時間が近付いた我が家の玄関先では……。
「カメーッ!」
「ゲレゲレゲレゲレ」
「キエエエエエッ!」
「モモ……」
「買い物は偉大なセンスの塊である俺様に任せて草と石は留守番をしてるがいいカメ。今日の日中は暇なので超偉大な俺も付き合ってやるトカゲ。偉大な僕はこの結果に納得がいかないのでジャンケンとやらは三回勝負にしてやり直しを希望するクサ。偉大な爪が長すぎてグーとやらが出せなくて負けたツメー。そろそろ出発の時間だから、これ以上揉めるなら全員おいていくよ! ついてくるのはチビカメとチビトカゲでいいね? 緑のモコモコと茶色い子はお留守番! ていうか、俺を便利な通訳係扱いしないで!!」
カラフルなチビッ子達が、俺が教えたジャンケンで真剣勝負をしていた。
そしてそのチビッ語を通訳するのは、いつものようにアベル。
その勝負の理由は――今日の買い物についてくる権利。
俺達が家で使うものを買いに行くという話をしたら、チビッ子達もついてくると騒ぎ始めてしまったのだ。
そうだね、チビッ子達のものも買う予定だし、ものによってはオーダーメイドにもなりそうだし誰かついてくるのはありだな。
しかし魔導具作りのためアミュグダレーさんとタルバがうちにきているので、買い物についてくる組と残って手伝う組に分かれることになり、玄関先でいつものチビッ子達の万歳魔力比べが始まりそうになったのだが、周囲の環境にも影響が出るからジャンケンを教えて平和に勝負をしてもらった。
そして始まるチビッ子達の仁義なきジャンケン勝負。
でも魔導具もそろそろ完成が近いって聞いているし、主役の焦げ茶ちゃんはジャンケン関係なしに魔導具作りの担当じゃないのかな?
ま、なっがーい爪が邪魔でパーとチョキしか出せなくて最初に負けたみたいだけれど。というか語尾がツメになって鉱石ですらなくなっているよ!
こうしてチビッ子達の仁義なきジャンケン勝負の勝者はカメ君とサラマ君に決まり、彼らがドヤ顔で俺達に同行をすることになった――のだが。
リリーさんとの待ち合わせ場所は、家庭教師の日にも待ち合わせ場所として使っているリリーさんがオーナーの宿屋。
カメ君が俺の肩に、サラマ君がアベルの肩にピョンと飛び乗った直後にアベルの転移魔法が発動し、転移魔法特有の浮遊感と共に視界がうちの玄関から、最近すっかり見慣れた宿屋の前に変わった。
港町フォールカルテの街並みは、気候や文化の違いから内陸部の田舎町ピエモンのそれとはぜんぜん違う。
フォールカルテの建物はピエモンに比べ明るい色が多く使われており街並みも非常にカラフルで、待ち合わせ場所の宿屋もそう。
「ゲ? ゲェ?」
宿屋の前に出た直後、アベルの肩の上でサラマ君がキョロキョロと周りを見回しながら首を捻りまくった。
そういえば買い物の行き先までは言ってなかったっけ?
ははは、フォールカルテのカラフルな街並みが珍しいのかな?
「今日お世話になるお嬢様がオーナーの宿屋なんだ。変に威嚇したり悪戯をしたりしてお店の人やお店を紹介してくれるお嬢様に迷惑を掛けたらダメだぞぉ? 今日買い物の案内してくれるのは、この辺りを治める領主様のとこのお嬢様なんだ」
「ゲッ!? ゲゲゲーーーーッ!?」
キョロキョロと周りを見ているサラマ君だったが、今日お世話になるのが領主様のお嬢様だと話すと、アベルの肩の上でピョンと跳び上がって驚いた。
ははは、さすがは人の言葉も理解しているサラマ君だなぁ。人間の身分のことも理解しているのかな?
「おっと、これから会うのが身分の高いお嬢様だからびっくりしたのかな? でもフォールカルテの町はピエモンに比べて広いし人も多いから、勝手にウロウロしたらダメだぞぉ」
「ギエエエッ! ギエエエッ!」
ピョンと跳び上がったついでにアベルの肩から飛び降りようとしたサラマ君をパシッと掴んでメッとする。
サラマ君はカメ君のお友達だからきっと賢くてすごそうだから迷子にならないとは思うけれど、だとしてもフォールカルテにはフラワードラゴンとかいうトラブルの妖精もうろついているから今日は自由行動はなしだ。
帰りに美味しいものを買ってあげるからそれで我慢してくれよぉ。
俺の手の中でバタバタ暴れてイヤイヤしてもダメ、ついてきたんだから大人しくいい子にして――。
「あちっ!」
じたばたと俺の手から抜けようとするサラマ君を逃がさないようにしっかり掴んでいたら、突然ボッと小さな炎を吐いて威嚇をされた。
こらー! 危ないじゃないか!
「あらあら、外が賑やかだと思いましたらご到着されていたのですね。とりあえず中で今日の予定を……ふぇあっ!? シュッシュッシュ朱色のサラマンダァアェー!?」
「ゲッゲゲゲゲゲゲゲゲエエエエエエッ!!」
あー、宿屋の入り口前で騒いでいたから中からリリーさんが出てきちゃったよ。
ほらぁ、そんなに驚かなくてもリリーさんは優しくて面白いお嬢様だから安心していいぞぉ。
リリーさんはカメ君とは何度も会っていると思うけれど、サラマ君と会うのは初めてですよねぇ。
真っ赤な鱗で明らかに火属性のトカゲ、サラマンダーっぽくてびっくりしちゃったよね。
なんとなくサラマンダーっぽいけれど人には害はないはずで、いつもは聞き分けのいいいい子なんです。しかもすごく賢くて人間の身分差もわかるようで、貴族のお嬢様に会うって言ったらびっくりして暴れ始めちゃっただけなんです!
「もー、宿屋の前で騒ぐと迷惑になるでしょ。リリーさんが出迎えてくれたからチビトカゲはもう観念して」
「ゲ……ゲゲ……」
この大騒ぎに呆れるアベルと、リリーさんが宿から出てきて観念したのかダランと脱力して大人しくなるサラマ君。
うんうん、いい子だね。後でご褒美に美味しいものを買って帰ろうね。
「え……えっと……そちらのシュ……朱色のサラマンダーはいったい何がどうしてこんなことに……」
「いやー、詳しいことはわからないけどカメ君のお友達みたいで最近よくうちに遊びにきてて、今日買おうと思ってる生活用品の中には彼らのものもあるのでできれば選ばせてあげようと思って。とっても賢くて無害で可愛い子達なので買い物に同席してもいいかな?」
大騒ぎしていたサラマ君にびっくりしたようで、表情が硬くなっているリリーさん。
ああー、サラマ君が危ないサラマンダーと勘違いされちゃったかもー。
ここはがんばって俺がフォローしてリリーさんに安心してもらわないと!
大丈夫です、もうこんなに大人しくなって脱力してます!!
人間の言葉も理解して、普段は大人しくていい子なんです!!
ちょっと騒いじゃったのは、きっと身分の高い人に会うとわかって緊張したからです!!
なのでもう大丈夫ですし、俺がちゃんと責任を持って抱えておきます!!
カメ君もいるので何かあってもきっと大丈夫です!!
というわけでお買い物! お買い物の案内をお願いします!!
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