第947話◆俺のキッチン

 改装後のキッチンはアイランド型。

 キッチンを今まではキッチン外の納屋だった部分まで広げ、すっかり広くなったキッチンにドーンと設置された土台部分がレンガでできているアイランド型の調理スペース。

 作業スペースにゆとりができまくって、これからは三姉妹やジュストが料理を手伝ってくれても狭く感じないし、アベルやカリュオンがキッチンにつまみ食いをしにきてもちょっとしか邪魔にならなさそうだ。

 でもラトは酒やつまみを探してウロウロしてついでに余計なことをするので、やっぱキッチンは出禁にしておこう。


 元々俺が既製品を改造して作ったクッキングヒーター型コンロや小型のオーブンは、新たなものに取り替えられコンロの数は三つから四つに増えて、コンロの横には広々した作業と大きな洗い物にも困らないゆとりのあるシンク、小型オーブンは以前と同じようにキッチンの土台部分に嵌め込まれ、オーブン以外の場所は上段には浅めの、下段には深さのある引き出し状収納スペースが複数並んでおり、こちらは俺が自分で好き勝手付与できるように付与向けの素材で作ってもらっている。


 えへへ、この収納スペース部分の一つは浄化を付与して食器洗いスペースにして、残りのとこは空間魔法や時間魔法を付与してキッチン小物や常温保存の食品置き場にするんだ。

 空間魔法と時間魔法はまだまだ練習中だから、もう少し練習しないとなぁ。三姉妹だけではなくてアミュグダレーさんにも教えてもらえないか聞いてみようかなぁ。


 ああ~、キッチンを自分好みにカスタムすることを考えるとワクワクが止まらなくなってきたぞー。

 それに気付いたアベルに肘で小突かれるが、今の俺は超有頂天でアベルの存在を気にしている暇はない。 


 それから元々この家に残されていた大型のオーブンはパンを焼くために使っていたのだが、それは新しい大型オーブンに取り替えてもらっている。

 前より一回りくらい大きくなってるから、これからもたくさん美味しいパンを焼こうね。


 そして元々キッチンにあった食器棚や冷蔵箱や冷凍箱や作業机。

 この家に元からあったもので使い込まれて古びていたり、俺のお手製であまり見た目がよくなかったりするそれらは、改装の終わったキッチンの隅っこにとりあえずという感じで置かれている。

 せっかくだからこれも新しいものに取り替えたいなぁ。

 改装工事で金が飛んでいくかと思ったら、ペッホ族に依頼したため支払いが物納になり収納の素材は減ったものの金は減らなかったので財布の紐が緩くなりかけている。


 しかし冷蔵や冷凍機能の付いた食品保存箱は高い。

 食器棚もおやつを入れて置けるように時間停止まではいかなくても停滞が付与されたものがいいのだが、そういった機能が付与されている食器棚も当たり前のように高い。

 うーんうーん……付与しやすい素材の家具を探して自分で付与するかー、でもせっかくだからお洒落なのがいいなぁ。

 それにそういう家具を売っている店の善し悪しなんてさっぱり知らないからなぁ。家具なんて買う機会なんて今までほとんどなかったしぃ。


 チビッ子達が念入りにキッチンの仕上がりをチェックしているのを横目に、今まで使っていた家具の前に立ち悩む俺。

「俺の実家が季節毎に家具を入れ替えるから貰ってこようか?」

 その様子でアベルが察したようでありがたい提案をしてくれたのだがその内容がお貴族様感覚すぎて俺はポカン。

 いやいやいやいや、服の衣替えじゃねーんだから季節毎に家具を入れ替えるって意味がわかんねーぞ、お貴族様!!


「意味がわかんないって、全部表情に出てるよ。お金を使って経済を回すのも貴族の義務なんだよ。さすがに厨房みたいな使用人エリアの家具の入れ替えは少ないけど、それでも劣化が目立ち始める前に入れ替えてるからね。ものによってはオークションに出すこともあるけど、全部がそれで捌けるわけじゃないしずっと残してても保管に経費もかかるから捌けないものはどうせ処分されるし、兄上の側近の人にお願いすれば二つ返事で譲ってもらえると思う。いざとなったらちょっと書類を誤魔化してもらおーと。ついでに食堂のテーブルとか、リビングのソファーも新しくしよっか」

 う、さすがアベル。

 俺の考えていることなんかお見通しだぜ。

 そう言われるとアベルの言葉に甘えたくなるなぁ……お兄様の側近さんにお願いするって大丈夫? 書類を誤魔化すって言っているけれど無茶振りとかじゃない?

 でも貰えるもんなの欲しいかも。きっと高級家具だろうし、捨てるものなら貰いたい。


「グランんちが綺麗なったっつっても、さすがにアベルんちのものは浮かないか?」

「大丈夫、できるだけ地味なのを選んでくるから」

 う、確かにカリュオンの言う通り貴族様の家にあるような家具は、いくら改装して綺麗になったとはいえ庶民の家では浮きそうだなぁ。

 その辺大丈夫? キンキラキンの装飾ゴテゴテ系はさすがに……っていうかそういうのは俺の趣味じゃないから、シンプルで落ち着いたデザインのがいいなぁ。

 貰う分際で我が儘かもしれないけれど、派手すぎなくて上品でお洒落なのがいいな!!



 家具の相談をしているうちにチビッ子チェックも無事終わり、ペッホ族君達は次の箇所の改装へと散っていき、アベル達も対ユウヤ用の魔導具作りに戻り新しくなったキッチンには俺だけになった。

 とりあえず棚や食品保存箱は一旦邪魔にならない場所に置いておいて、調理台が広くなったおかげでいらなくなった作業机は収納の中に回収。

 そのうち処分する予定だが、もうしばらく残しておいて使い道がないか考えておこう。そのうちいつかもしかしたら使い道を思い付くかもしれないから。


 それが終わると調理器具の作動チェックも兼ねて、新しいキッチンで少し料理をしてみるかなぁ。

 そうだなぁ……ペッホ族君達とタルバやアミュグダレーさんに渡す手土産にもできて、夕飯のデザートにもできて、キノコ君やガーディアン達にもお裾分けできそうなもの。

 アミュグダレーさんのことを考えると動物性の食材は避けて植物系かなぁ。


 インベントリ・リストで一覧を流しみて、ちょうどよい食材を見つけた。

 ルチャルトラにいった時に採ってきたり、サラマ君が手土産としてちょいちょい持ってきてくれたりする椰子の実――から絞り出したココナッツミルク。

 これを使ってココナッツプリンを作ろう。


 コンロは以前のものと同じ魔石を利用したクッキングヒーター型。

 キッチンのスペースが広くなったことでコンロ同士の間隔にゆとりができて大型の鍋やフライパンも使いやすくなっている。

 もちろんコンロの火力の上限も以前より上がっており、高火力が必要な料理もできるようになっているし、火力調整の段階も以前俺が改造したもよりも細かく調整できるようになっている。


 これはペッホ族が森に住む妖精や獣人、亜人とも交流があり、彼らの中には魔導具作りが得意な者もいるので、そういうところに頼んで作ってもらったのだそうだ。

 改装費用にはちゃんとそのあたりの外部発注の費用も含まれているとのこと。

 それはキッチンだけではなく風呂もトイレも同じで、自分達でやるより他に頼んだ方がよいものはそちらにお願いしているらしい。

 その辺人間の業者とあんま変わらないんだなぁと謎の感心をしてしまった。


 俺んちで作業をしているのは三人のペッホ族君達だけだと、きっと俺の知らないところでこの改装には色々な森の住人が関わっているんだろうな。

 どんな存在に頼んでいるのかわからないが、チビッ子達が念入りにチェックをしていたからきっと大丈夫だろう。


 そして使ってみても使い心地がいい。

 シンクも作業台も広くてものの置き場に困らない。

 今はまだ手を付けていないが、近いうちに足元の収納スペースにものを移動して作業動線も効率的になるはずだ。

 この収納用スペースに何を付与してどう使うか考えているだけでも楽しい。


 それに加え今日はまだだが、キッチンの外側には新たな納屋が設置され、その地下に食糧保存庫も作られる予定だ。

 食糧保存庫はキッチンの下にしようかなと思っていたんだけど、地下への出入り口のせいでキッチンが狭くなるので納屋から出入りするようにした。

 こっちもすごく楽しみだなぁ。

 キッチンはこの家の中でも俺が一番使う場所だから、俺好みに変わっていく様も、どう変えるか考えている間もすごく楽しくて心がピョンピョンしまくる。


 そうやって心はピョンピョンしまくっているうちにココナッツプリンを容器に分けるところまで終わって冷蔵箱に入れていると、アベルが三時のおやつはまだかと呼びにきたので午前中に作っておいたコーヒーゼリーを冷蔵箱から出しておやつタイム。


 もっと弄くり回したいけれど、次はまた夕飯の準備の時に。


 今日はすごく夕飯のメニューが豪華になりそうな気が今からしている。













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