第946話◆物作りが得意な神様の加護

 昼食が終わるとみんな午前中の作業の続き。俺は昼食の後片付けとおやつ作り。


 いつもは片付けを手伝ってくれる三姉妹は魔導具作りに夢中。もちろんアベルやカリュオンも魔導具作りだし、ラトに片付けを手伝ってもらうと仕事が増えそうなのでラトはお断り。

 ジュストが手伝うと申し出てくれたのだが、ジュストこそ職人の魔導具作りを間近で見て学んで欲しいと思い魔導具作りの場にいかせた。


 ま、片付けっていっても生ゴミは汚物処理用のスライムにひたすら食わせるだけだし、焼き鳥に使った炭は冷めるのを待って分解して消臭材や肥料用にするために収納にポンして、後は洗い物をして終わり。

 その洗い物もアミュグダレーさんが浄化魔法でやってくれたのでピッカピカ。


 カリュオン曰く、魔法が得意なハイエルフは生活と魔法が密着しており何でもかんでも魔法でやってしまうらしい。もちろん家事も。

 つまりアミュグダレーさんは千年級の皿洗い浄化魔法のプロだということ。

 なるほど、確かに指パッチン一つで皿の汚れどころか経年のくすみまで綺麗になってピッカピッカだ。



 思ったよりもあっさり昼食の片付けが終わって、三時のおやつ作りをしながら夕食の仕込みをしておこうかと思ったところで、三人いるペッホ族君のうちの一人が風呂の改装が終わったと俺を呼びにきた。

 俺が風呂の出来上がりを確認している間に他の二人は次の箇所に取りかかっているそうだ。


 アベル達はリビングで作業中だし、改装後は前より広くなるとはいえ全員でゾロゾロいくとさすがに狭いし、また全員が確認した後に不都合があれば直すこともできるというので今は俺だけ。

 それにチビッ子達がすぐに威嚇を始めちゃうからなぁ、確認は俺だけでしておこう。


 そして目にした我が家の新たな風呂場は――。


「うおおおおお、すっげー!! 超すっげー!! すっごい、理想の風呂!! 浴室!! バスルーム!!」


 マジすごかった。

 すごすぎて思わず叫んでしまった。

 元々この家に住んでいた人達が使っていた風呂場――悪いものではないが年季が入っていたものを、俺が越してきた時に頑張って小綺麗に見えるくらいまでには修理したが、よぉく見ると老朽化が分かる状態だったものが、ピッカピカで落ち着きのある薄いグレイと白の統一感のある内装になり、以前は俺の体格だと足が伸ばしきれなかったバスタブもすんごく広くなって余裕で足が伸ばせそうなほど。

 それどころか洗い場もかなり広く取られており三姉妹が三人一緒に入ってもゆったり過ごせそうな広さだ。


 えへへ、将来俺が結婚して子供ができたら子供と一緒に入っても余裕のある広さで夢が膨らむなぁ。

 まずはお嫁さんどころか彼女を作るところからだけど。


 そして森側には大きな窓があり、現在は明るい光が差し込んでいる。

 この窓、実は魔法の窓で中から外は見え光も差し込んでくるが外側はただの壁になっていて、この窓自体も内側から壁に切り替えると外を見えなくすることもできるらしい。

 うんうん、昼間は明るい光が差し込んでいて綺麗な森が見えているけれど、夜の森や悪天候の日は開放感のある窓は恐いかもしれないからね。


 そしてこの魔法の窓は壁だけではなく天井にも取り付けられており、天井を窓に切り替えると頭上に本物の空が広がる。

 うわぁ……そういうことができるっていうから頼んだのだけれど、実物を見るとやっぱすっげーなぁ。

 晴れた夜は天然のプラネタリウム風呂だよ!!


 でもこれはものすごく居心地よくてラトが酒を持ち込んで居座りそうだから、酒は持ち込み禁止にしておかないと。

 シャモア姿でも入れそうな広さだが、シャモアも禁止にしておこう。


 すっかりピカピカの新品になった風呂場の隅っこに置かれた、今まで使っていた桶や椅子や風呂蓋が明らかに浮いているのでこれは近いうちに新しくしよう。

 自分で作るかなぁ、それとも大きな町のお洒落な店で買うか……いや、明日は家庭教師の日だから宿屋の経営をしていてバス用品には詳しそうなリリーさんに聞いてみてもいいかもなぁ。

 洗剤を入れるボトルもお洒落なものにしたいし、どうせならいい匂いのする入浴剤とかも用意しておきたいし、三姉妹用にお風呂で遊べる玩具も作っちゃおうかなぁ。

 あ~、考えているとワクワクしてニコニコしちゃう~。


 そしてバスルームだけではなく、風呂場の手前にある脱衣所もすっかり改造が終わっており、脱衣所からは風呂場に隣接する個室状の二つのシャワールームにもいけるようになっており、これなら汚れて帰ってきた時に風呂やシャワーの取り合いにならなくていい。




「ちょっとグランー、改装が終わったら俺達にも声を掛けてくれてもいいじゃん!! って、へぇ……悪くないじゃん」

「ん? どれどれ……おぉう、すっげー広くなったなぁ。泳ぐのは無理だけど、これなら足を伸ばして入れそうだな」

「む、確かにこれならシャモアの姿でも湯につかれそうだ」


 俺が思わず叫んだからか、俺が風呂場に移動する気配を察したからか、リビングで作業をしていたアベル達が気がついて風呂場にやってきてしまった。

 うおおおー、でかい三人が先頭を切ってやってきたら狭いぞおおお!!

 ていうかカリュオンは風呂で泳ごうとするな!!

 ラトはシャモア禁止! 家の中ではシャモア禁止!! うちにはシャモアは入れません!!


「ラトもアベルもカリュオンも見たらどいてくださらない?」

「そーよそーよ、私達も新しいお風呂を早く見たいわ」

「今日からお風呂がもっと楽しみになりそうですねぇ」

「新しいお風呂! 僕もお風呂を見たいです」

 でかい男三人を押しのけるように三姉妹がヒョコッと顔を出し、その後ろではジュストが背伸びをしているのが見えた。


 でかい奴らめ、俺が風呂場に移動したことに気付いて我先にと来やがったな。大人げないでかい奴らめ。

 そこは三姉妹やジュストに譲ってやれよ。

 ほらぁ、一番後ろにいるアミュグダレーさんの分かりにくい表情がちょっぴり険しくなってるぞぉ。


「ふむぅ、さすがペッホ族もね。装飾がすくないシンプルな内装だけどよくできているもね」

 お、ちっこいタルバはでかい奴らの足の隙間から覗きにきたか。

 そしてやはり職人だけあって風呂場の仕上がりを興味深そうに見た後、俺を風呂場に連れてきたペッホ族君と楽しそうに話し始めた。


 もちろんチビッ子達もやってきて――と思ったら念入りにチェックを始めたぞおおおお!

 監査員かなんかかな!? いや、これは小姑か!?


 チビッ子達の念入りなチェックが終わる頃に、もう一人のペッホ族君がトイレと洗面所の改装も終わったと呼びにきたので今度はトイレへ。

 うわぁーい、洗面台とトイレを増やしてもらったから朝の順番待ちがなくなるし、二階にもトイレを作ってもらったから夜中にトイレにいきたくなっても大丈夫!

 もうそれだけで嬉しくなっちゃう!

 これからはトイレに篭もって本を読んでいてもアベルにドンドンとドアを叩かれない! よっしゃ、トイレに本棚を兼ねた収納棚を置いちゃうかなー!


 しかも用を足した後ボタン一つで浄化効果が発動してトイレもお尻も綺麗にしてくれる魔導具を設置し、年中便座をほどよい温度に保つ付与もしてある。

 いやー、トイレも新しくてピカピカだと気持ち良いなぁ。

 前に百物語をした夜にすんげー恐い夢を見て思わずトイレをピッカピカにして以来、トイレは綺麗に保つようにしていたけれどやっぱ新品は格が違うぜ。


 トイレは不浄のものが溜まりやすい場所だから、トイレが綺麗になると家も浄化されたような気分になるな。

 だからトイレはこれからも気持ち良く使おうな。

 なんならトイレ掃除当番を決めても……って俺以外みんな浄化魔法で簡単に終わるやつじゃん! ずるい! 魔法ずるすぎる!!


 そしてトイレもチビッ子達が念入りにチェックを始めそれが終わる頃、最後の一人のペッホ族君がキッチンも終わったとトイレの前に集合している俺達を呼びにきた。


 ひょえー、空間魔法を使って空間を複製してそこで弄り回して上書きみたいなことをいってたっけ?

 だから俺がキッチンを離れて風呂とトイレを見ている間に、すでに完成したものに書き換えちゃったって妖精の魔法すげー!!


 書き換えるから一瞬で終わったように見えるけれど、複製された空間で作業してたんだよね。

 それでも一日足らずで風呂とトイレとキッチンの改装が終わるのはやっべー速さだけど。


 すべては物作りが得意な神様の加護のおかげ? ああ、そういえばいってたね赤毛の神様だっけ?

 俺も赤毛だからなんか親近感が湧いてくるな。


 それじゃキッチンを見に行こうか。


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