第942話◆大波乱の朝

 コチョコチョの刑のせいで息があがりまくりだわ、誰も助けてくれないわ、というか昨夜留守番組からのお説教を後回しにして寝たせいでお説教もされるわ、朝食前に大波乱だった。


 しかし波乱はそれだけでは終わらない。


 よってたかってコチョコチョの刑にはされたのだが、それは俺を心配してのことで、コチョコチョが一段落したら苔玉ちゃんが緑色のちっこい琥珀が付いたネックレスをくれた。

 俺だけではなくアベルとジュストも。

 そして同じものをすでに持っているカリュオンは、それに苔玉ちゃんが更に力を込めていた。


 カリュオンの話によるとこれは苔玉ちゃんの力、風属性の落下制御の付与がされたネックレスで落下ダメージを大幅に軽減してくれるらしい。

 軽減する度に魔力を消費するので何度も落っこちていたら効果が消えるらしいが、一回くらいならめっちゃ高い所から落っこちても大丈夫かもしれないとのこと。

 落下だけではなく吹き飛ばし系の衝撃も軽減してくれるらしく、ようは何かにぶつかりそうになった時に風のクッションで衝撃を吸収してくれる効果みたいなもののようだ。


 へー、すごい付与だなー。

 風の落下制御や衝撃吸収系って魔力消費が大きいんだよなぁ。こんなちっちゃい緑琥珀にそれだけの付与をするってどうやってやるんだろうー。

 何かすっごい秘密があるなら教えて欲しいなぁ? ダメェ? 後でこっそりでもいいよぉ?

 苔玉ちゃんは昨日のワラビィ餅にかけてあった緑の粉が気に入っていたみたいだけれど、今度二人っきりの時にこっそりお抹茶パーティーをしながらどうかな?


「カーーーーーーッ!!」


「キエエエエエエッ!!」


 と苔玉ちゃんを口説いていたら、カメ君がどこからとも出してきた貝殻を苔玉ちゃんに投げつけた。

 そこから始まる貝殻と木の実の投げ合い。


 しまった。みんなの前でこっそりお抹茶パーティーを持ちかけたから、そりゃ戦争になるな。

 ごめんごめん、お抹茶パーティーはみんなでいる時にやろうね。

 でも苔玉ちゃんにはこっそり賄賂を渡すから、その不思議な付与を俺にも教えて?


「……モッ? モギャッ!?」

「ゲゲーーーーッ!!」


 カメ君と苔玉ちゃんの争いを横目に、お腹のポケットから何かを出そうとした焦げ茶ちゃんをサラマ君が突然ぶん殴ったからここでも取っ組み合いの戦いが始まった。


 コラーーーー! ケンカをしていないで朝食にするぞーーーー!!

 今日はお客さんがくるんだから! しかも予定よりお客さんが増えそうなんだから!!

 ケンカばかりしている悪い子はコチョコチョの刑にするぞーーーー!!!


 朝から平和な戦争は可愛いけれど、今日は忙しくなりそうだからダメー!!

 カメ君と苔玉ちゃんが投げ合って床に転がりまくっている貝殻と木の実は俺が片付けておくから、ケンカはその辺にして朝ご飯にするぞーーーー!!

 それから焦げ茶ちゃんが何を出そうとしたかは後でこっそりと教えて?


 ん? 三姉妹とラトがヒソヒソ話しているけれどどうしたんだ?

 大丈夫大丈夫、もうすごく反省して気持ちを入れ替えたし苔玉ちゃんにすごそうなネックレスを貰ったから、そんなに心配しなくても大丈夫大丈夫。



 それでカリュオンの奴がサラッと当日になって言いやがったけど、タルバとアミュグダレーさんがうちで作業するって!?

 タルバと一緒にくるってことは地下通路からくるんだよな?

 倉庫の地下室も一階の作業場も散らかり放題で、カリュオンのお父様に俺が片付けのできない子だと思われてしまう!!


 って、なんでカリュオンの親父さんがうちにくることになったんだよ!

 今日が改装初日だからアベルとカリュオンが改装に立ち会うから魔導具作りは欠席するっつったら、苔玉ちゃんも焦げ茶ちゃんも改装に立ち会いたいってなって、そしたらアミュグダレーさんが相手が妖精なら初日が肝心だから悪戯とかしないようにエルフの長老として顔を出してやろうってきてくれることになった?


 ああ、うん……それはありがたいかも。でもいきなりすぎるだろー! って、アベルもジュストも一緒だったはずなのになんで三人揃って忘れてるんだーー!!

 え……ワラビィ餅から更に箱庭で俺落下事件で三人揃ってすっかり忘れていた? そうだね、そういうこともあるね!! 俺も落っこちたしね!!


 過ぎてしまったことを言っても仕方ないので朝食の後は、ペッホ族に加えアミュグダレーさんをお迎えする準備だーーーー!!


 とりあえず朝食を済ませて、倉庫の地下室と一階の作業場を急いで片付けよ。




 そんなわけで朝食が終わったら洗い物はキッチンに放置して、アミュグダレーさんがうちにきた時真っ先に見られそうな倉庫の掃除へスーパーダッシュ。

 カメ君は今日はお出かけしないの? サラマ君も? じゃあ倉庫の片付けを手伝ってくれない!? もちろんお礼はするよ!

 あ、苔玉ちゃんと焦げ茶ちゃんも手伝ってくれるの!? ありがとう、チビッ子達!!


 アベル達は母屋の方で待機してペッホ族君達が来たら教えてくれ。

 改装するにあたって家の中のものはそのままでいいらしい。ただし魔法を弾くものや特殊な魔導具や危険なものは避けておいてくれとか言っていたから、そっちはいつも通りで大丈夫!

 なんか空間魔法で建物以外のものを隔離してやるとかなんとか……ペッホ族すげーな!?

 特殊な魔防具とか危険なものはないと思うけれど箱庭がちょっと恐いから箱庭だけ避難させておこうか。


 そんな感じで早ければ三日程度、かかっても一週間もあれば改装が終わるそうな。

 とんとん拍子で改装が決まってあまり実感がなかったが、当日になってみるとなんだかワクワクしてきたな。


 おっとそれより倉庫の掃除掃除。

 そこまでは散らかってないんだけど、よく使うものは作業机の周囲に置きっぱなしだからゴチャゴチャしていて散らかって見えるんだよね。


 そっか、片付けるのが面倒くさいものは収納に突っ込んじゃえばいいのか。

 それでパパパーッと掃除してー……あ、一階の作業場は問題ないけれど、地下室はスライムがいるから浄化魔法はダメダメダメダメ。


 スライムはね、周囲の環境にすごく影響されやすいんだ。そうちょっとした魔力でも影響を受けてしまうからね。

 水槽は周囲からの魔力をある程度遮断できるものを使っているけれど、魔法を使っちゃうと水槽の遮断機能を突き抜けちゃうかもしれないから、このスライム部屋は魔法禁止なんだ。

 ここのスライムには料理に使うものもあるから、魔力の影響で美味しくなくなったらいやだろぉ?

 今日の朝食のデザートだったパイナップルゼリーもスライムゼリーから作った粉が使ってあるし、毎日フッカフカのパンが食べられるのもスライムのおかげなんだ。

 スライムが魔力の影響を受けて予想外の変質をしてしまったら、明日のパンがカチカチになってしまうかもしれないぞぉ?

 だからスライムには優しくしてあげような。


 というわけで少し手間がかかるけれど、箒でサッサッって掃いて雑巾でキュッキュって磨くんだ。高い所はとりあえずハタキで埃を払えばいいかな。

 埃を被ったらいけないからハンカチを三角巾代わりに捲いてあげるね。

 や~、みんな三角巾がよく似合って可愛いなぁ~。

 よっし、じゃあカリュオンの親父さんが来る前にパパッと片付けと掃除だー!!



 こうしてチビッ子達に手伝ってもらって、地下室がだいたい片付いた頃――。



「もーっ! おはようだもー! 相変わらずスライムだらけの部屋もね」


 地下通路へ繋がる扉がガタガタと音を立てた後バーンと開き、タルバがヒョコッと顔を出した。

 その後ろにはアミュグダレーさんの姿も見える。


「カリュオンから話を聞いていると思うが、今日はこちらで作業をさせてもらう。急なことですまない、これは息子が世話になっている礼だ。料理が得意だとカリュオンから聞いた、皆で召し上がって……は? …………………………どうして一箇所に偉だぃ――ぐお!?」

「キエッ!?」


 タルバの後ろから地下室に入ってきたアミュグダレーさんからお土産の袋を受け取った直後、アミュグダレーさんの顔が引き攣って急に口ごもった。

 チビッ子達に協力をしてもらって結構綺麗に片付けたと思っただけれど、やっぱまだゴチャゴチャしてますよねぇ? 大急ぎで片付けたのわかっちゃいました?

 ああ~、カリュオンのお父様に片付けのできない子だと思われてしまったかも~。


 って、思ったら苔玉ちゃんがピョーンとしてお父様の顔に張り付いたー!!

 苔玉ちゃんが頑張って誤魔化してくれてるのかな!? もう手遅れだと思うけどな!!

 急な訪問だから少し散らかっているのは仕方ないって許してもらおう。


 お父さん、ようこそ俺の家に!

 ゆっくり寛いで……じゃなくて、作業をしていってください!

 作業場は汚いので、母屋のリビングへどうぞ!!

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