第933話◆閑話:闇のガーディアンの中の人?

 視界の向こうでキノコがこちらを見上げ困惑した表情で見上げ、キノコ語で捲くし立てている。

 キノコなのに表情だけではなく言葉――アウローラちゃんは、月華美人という花の妖精の魔力から生まれた存在なので、植物の表情も言葉がわかるのだー。

 キノコは植物じゃないけれど、大らかな性格のアウローラちゃんは、何故キノコ語がわかるかなんて細かいことは気にしない。


 そもそもこのキノコ、キノコなのに傘と柄の境目のすぐ下に顔があるから表情もよぉく見えるし、キノコなのに柄の部分に短い手足が生えているいるからキノコかどうかも怪しい。

 怪しいけれどアウローラちゃんは意識が芽生えたばかりで世界のことはわからないことの方が多いから、これがキノコなのかそうではないのかはわからないからやっぱり気にしない。


 キノコが困惑した表情で捲くし立てているのを、アウローラちゃんのいる体が聞き流している。

 体が聞き流しているので、心であるアウローラちゃんも聞き流している。

 困るとかヤダとかというキノコ語を聞きながら、視界が面倒くさそうに横にずれて白くて大きなフワフワ綿毛が目に入った。

 綿毛語はわからないが綿毛が頷くように揺れ、アウローラちゃんの視界も頷くように揺れた後、視線がキノコへと戻った。


 キノコが困惑をする顔、だけどアウローラちゃんの体の主導権を持つ存在は要求が通るまでキノコに圧力をかけるのをやめるつもりはないようだ。

 それは隣の綿毛――光のガーディアンも同じく。


 キノコは必死に反論をしているが、そう待つことなくこちらの要求は通るだろう。

 いいじゃん、みんなが美味しく楽しくなるだけだから、赤毛達の空間系の魔法やスキルを解禁して美味しいものを食べよ?

 大丈夫大丈夫、きっとキノコが心配しているような大惨事にはならない――と思うよ? 多分? きっと? おそらく? キボウテキカンソク?

 だから、赤毛達を信じてあげよ?


 え? 信じる者は巻き込まれる?

 大丈夫大丈夫、巻き込まれてもきっとなんとかしてくれるよぉ。

 きっと最後はハッピーエンドって、アウローラちゃんの魔力にある記憶が教えてくれたから。

 アウローラちゃんはハッピーエンドだけを信じてる。



 アウローラちゃんは闇のガーディアンの中に込められた魔力の一つ、月華美人という妖精の魔力が闇のガーディアンに込めた魔力から生まれた心だ。

 月華美人の体の一部を素材にして作られた月華美人のような姿をした闇のガーディアンの体の中には、アウローラちゃんと同じように心のある魔力が四つある。


 その四つの中で一番強いのはディールークルム。

 四つの魔力の中で最後に闇のガーディアンの中に入ってきた魔力だけれど、一番強い力を持っていて、一番物知りで頭の回転も速いので、闇のガーディアンの体の主導権はディールークルムが握っている。

 ディールークルムは男性で自信家、アウローラちゃんの魔力にある記憶によると”俺様系”という性格だ。


 赤毛に名前を貰う前からはっきりした自我を持っていて、闇のガーディアンの主導権を持っていた魔力だ。

 自信満々の俺様系で闇のガーディアンの中では一番強いけれど、詰めが甘くて自信満々でうっかり者なので、あの沌の生きものにケンカを売って負けた。


 闇のガーディアンの中にある四つの性質の違う魔力が沌の魔力のせいでグチャグチャに混ざって新しい自我が生まれて、赤毛に名前を貰う前から自我のあったディールークルムもそのグチャグチャに混ざった魔力に飲み込まれたんだって。

 それとどうやらルシファーが苦手らしいけれど、これはディールークルムが記憶を隠しているのでよくわからない。


 名前を貰うまでは自我が薄かったのであまり覚えていないけれど、ディールークルムが赤毛に名前を貰った後、闇のガーディアンの中にいるアウローラちゃん達に名前を付けてくれたので、記憶も意識もはっきりとして体は一つでも自分という心ははっきりとした。

 アウローラという名前はディールークルムと同じ意味らしくて、アウローラちゃんの魔力の元である月華美人の名前に似せてあるんだって。

 ディールークルムはうっかり者の俺様系だけど、センスは結構いいみたい。


 アウローラちゃんと同じようにディールークルムに名前を貰った魔力にモルゲンデンメルンダというのもいる。

 これは月華美人と仲良しの黒いフクロウちゃんの魔力。

 ものすごく好き嫌いがはっきりしていて嫌いなものはとことん嫌いだけれど、好きなものはすごく好き。ちょっと反抗的だけど寂しがりで甘えんぼ。

 でもフクロウちゃんは月華美人よりずっと長く生きているから、モルゲンデンメルンダはアウローラちゃんのお兄ちゃん気取りでアウローラちゃんのことをいつも気にかけてくれる。

 確かそういうのはシスコンっていうって、アウローラちゃんの魔力の記憶にあったよ。


 そして最後はドーン。

 彼もディールークルムに名前を付けてもらった魔力で、ワンコの獣人が闇のガーディアンに込めた魔力だ。

 ワンコ君は獣人なので眷属を作り出す種族でもなく、ゴーレム作りの経験もほとんどないのが影響してか、ワンコ君の魔力は力があってもほとんど自我はなかった。

 力だけがあっても統率ができないと不便で不安定なのでと、ディールクルムがワンコ魔力に名前を付けてようやくはっきりとした存在になった。でもやっぱり少し遠慮がちで自己主張が少なくて大人しい。

 ドーンはすごく素直ないい子なのだけれど少しどんくさい系で、天然とか弟キャラっていうやつっぽいから、ドーンは末っ子に決定! つまりアウローラちゃんの弟! つまりアウローラちゃんはお姉ちゃん!



 闇のガーディアンの中にはこの四つの魔力がいて、だいたい表には交渉も戦闘も得意なディールークルムが出ているけれど得意なことによっては入れ替わることがある。

 闇のガーディアンの体は月華美人なので、体の操作はアウローラちゃんが一番得意なのでアウローラちゃんが体を動かすのを手伝っている。

 それから植物のことに関しては圧倒的にアウローラが詳しいので、植物と話す時や植物を弄る時はアウローラちゃんが表に出ている。


 赤毛が出てくるあの森の中の家にある畑も、アウローラちゃんがこっそりお世話してあげることにしたよ。

 ディールークルムが、あそこで野菜や果物がたくさん採れれば赤毛が何か料理をするかもしれないっていっていたから。


 今も赤毛が料理をしやすくなるようにって、ディールークルムが光のガーディアンと一緒にキノコに交渉しているところ。

 キノコはこの世界の最初の住人だから箱庭を管理するための力を持っているようで、この世界の平和のためという理由で、外部からくる者が空間に干渉するスキルや魔法を使うことを制限している。


 ただでさえ外部からやっべー奴らが干渉して世界が魔力でパンクしそうなのに、外部から大量のものを持ち込んで物理的にもパンクをしたら手に負えないというのがキノコの主張だ。


 ???

 世界が埋まるほどものを持ち込めるわけがないでしょ?

 外部から色々持ち込みすぎてこの世界の環境のバランスに悪影響があるかもしれないともいっているが、世界の外から影響を与える存在がいる以上外部からの影響なんて今さらなのでは?


 というわけで、赤毛達が収納スキルか空間魔法を使えるようにしよう。

 外部から持ち込まれるものの恩恵はキノコにもあるはずだ。きっとこの世界を豊かにして楽しみも増やしてくれる。

 今はちょっと魔力大混乱を起こしているけれど、それは我々ガーディアンが頑張ろう。他のガーディアンの説得も任せるがいい。

 だから、赤毛の収納スキルを解禁しよう。


 とディールークルムがキノコを説得している。

 世界が豊かになって楽しみが増えるのはいいことだと、アウローラちゃんも思う。


 赤毛が外の世界からたくさんものを持ってくることができるようになったら、たくさん本を持ってきてもらいたいな。

 アウローラちゃんの魔力の持ち主は本が好きだったから、アウローラちゃんも本が好きなのだー。

 その中には記憶が途中で途切れているものもあるので、続きが読みたいのだー。


 モルゲンデンメルンダは甘いお菓子がたくさん食べたいみたいだし、ドーンはこの世界も外の世界も知らないことがたくさんあるから色々なことを知りたいみたい。

 うん、やっぱり美味しいものと本は必要だよね。


 あ、ほら、そろそろキノコが頷きそうそうだよ。

 圧力をかけてお願いしているだけじゃなくて、ディールークルムがちゃんとメリットを説明して説得しているから、そろそろキノコが頷くよ。


 ほぉら、頷いた。ちょっと渋々だけれど頷いた。


 クールなふりをしているディールークルムはそれを表には出さないけれど、闇のガーディアンの中で共存しているアウローラちゃんはちゃんと知っている。

 ディールークルムが心の中で、グッと拳を握りしめるポーズを想像したのを。

 そして同じようにアウローラちゃんも、モルゲンデンメルンダもドーンも心の拳をグッとした。

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