第921話◆カリュオンの意外な一面
「は? なんでアンタがここにいるんだよ」
これは俺ではなくカリュオンの発言。
俺は今、彼と知り合って以来ほとんど見たことのないカリュオンの心底嫌そうな表情を間近で見ている。
そして心底嫌そうな表情のカリュオンの視線の先には――カリュオンがもう一人!?
と、思ってしまうくらいのカリュオンのすごくそっくりさんが。
絵に描いたような綺麗な顔立ちと少し細めだからバランス良くスラリと細い体型は、この世の美を煮詰めたよう。
アベルとはまた違ったタイプの美形。
だがそれがカリュオンとほぼ同じなのである。
白みの強い透明感のある肌、切れ長の目、エメラルド色の瞳、少し白みの強い落ち着いた輝きの長い金髪。
その全てがカリュオンにそっくりどころか、同じといってもおかしくないほどである。
まるで生き写し。カリュオンとの付き合いがそれなりに長くなければ、服装と髪型以外では見分けがつかなかっただろう。
過去にハイエルフは何度も見たことがあるが、皆白味のある金髪でひょろりとした体型に長い耳をしているが見分けがつけないほど似ているといいわけではない。
ここまでそっくりということは、カリュオンの血縁者であろうと見た瞬間に察した。
しかしカリュオンと付き合いがそれなりに長ければすぐに大きな違いにだけでなく細かい違いにも気付くだろう。
見た目でわかる大きな違いは装備。
全身を重厚な金属製プレートアーマーを着込んでいるカリュオンに対し、そっくりさんは布の服に急所部分だけレザー系プロテクターを装備しているだけの軽装。
持っているものもカリュオンがくそ重そうな金属の大盾と鈍器ならば、そっくりさんは取り回し重視の細身の木製弓。
金属と非金属、そっくりなのに対称的な装いである。
髪型はどちらも長髪を後ろで一つに纏めているのだが、カリュオンは三つ編み、そっくりさんは高い位置でポニーテールになっておりそこから長く垂れる髪はゆるくウェーブしている。
カリュオンも三つ編みを解けばゆるい巻き毛なのだが、これは三つ編みの癖がついてしまっているものだと思っていたが、そっくりさんの巻き毛を見ると元からの髪質なのかもしれない。
他にも細かい違いは見れば見るほど見つかる。
そっくりさんの方はハイエルフらしく耳がピョーンと長く尖っており、人間のそれより少しだけ尖って長いだけのハーフエルフのカリュオンと異なっている。
カリュオンもそっくりさんもハイエルフらしく色白なのだが、こうして向かい合っているのを見るとカリュオンの方が日に焼けて肌の色が濃いし、肉をよく食べるせいか血色もいいし体付きも筋肉質でがっちりしている。
そして決定的な違い。
しかしこれはカリュオンという人物を知らなければ気付かぬ違い。知っていればこれだけで別人だとわかる違い。
それは身に纏う雰囲気――肌の色の微妙な違いや血色の良さ、体格の違いなどもその要因となっているのだが、それよりなにより二人の雰囲気の決定的な差は表情。
今でこそ険しい表情をしているが普段はニコニコと温和な雰囲気のカリュオンとは対称的に、眉を寄せ眉間に深い皺ができているそっくりさんからはすごく厳格で恐そうなオーラがでている。
眉間に力一杯皺を寄せすぎて跡がついて、そうでもない時でもとっつきにくい表情になっていそうなタイプ。
そして表情から感情が読み取りにくいのが表情の理由がわからず、恐そうでとっつきにくい印象の原因だろう。
一方カリュオンは珍しく眉間に皺を寄せ心底嫌そうな表情になってもはっきりと感情が滲み出しているため、理由が気になるだけで恐いとかとっつきにくいという印象は一切ない。
ところでこのそっくりさんは誰!?
こんなにそっくりってことはカリュオンのお兄さんかとかかな!?
ここはモール達の集落、タルバの工房。
箱庭でユグユグちゃんの下を訪れた翌日、俺達は朝食を済ませた後タルバの工房を訪れていた。
今日から本格的に開始するラグナロックの加工作業に焦げ茶ちゃんも参加するので、俺達はその保護者として付いて来た。
俺達――俺、アベル、カリュオン、そして苔玉ちゃんだ。
カメ君もついてこようとしたのだがサラマ君に熱烈に誘われたみたいで、サラマ君に尻尾を掴まれて一緒に出かけていってしまった。
いやー、青と赤で仲が良さそうで微笑ましいなぁ。
ジュストは、今日の午前中は冒険者ギルドの仕事があるといってピエモンへ。
午後には戻ってくるらしいので、俺達にも昼にはタルバの工房から引き上げてジュストが戻ってきたら箱庭へいく予定だ。
そしてやってきたタルバの工房にカリュオンのそっくりさんがいて、世にも珍しい険しい表情をしたカリュオンの顔を見ることになった今現在。
険しい顔で睨み合うそっくりさんを見比べながら状況が把握できずにポカンとしている。
「お前こそ何故ここにいる。人間の町で冒険者をしているのではないか――って、そこに御座すのはテム……ぐおっ!?」
「キエエエエエエエエッ!!」
そっくりさんを見て先に口を開いたのはカリュオンだった。
その口調からあまり仲の良い相手ではないように見えるが、そっくりさんもすぐにカリュオンに反応した。
しかしその言葉が終わる前に、カリュオンの肩にいた苔玉ちゃんがピョーンと跳んでそっくりさんの顔にベタッと張り付いた。
苔玉ちゃんとも知り合い? カリュオンとは何か確執がありそうな雰囲気だけれど苔玉ちゃんとは仲良しな感じ?
苔玉ちゃんがそっくりさんの顔に張り付いて、ブロッコリーみたいな尻尾の生えたお尻を振りながらめっちゃキエキエ鳴いているなぁ。
「親父……長老は相変わらず空気が読めねーな。俺は相変わらず人間だけじゃなくて色んな種族の仲間と楽しく冒険者生活をしてるし、今は森の近くに住んでいる友人の家に世話になっていて、今日は用事があってモールのとこにきただけだ。それとそれは好奇心旺盛で悪戯好きのただの苔玉だ。空気が読めねー奴にはちょっと厳しいだけの苔玉だ。で、森引き籠もりのアンタがなんでこんなとこにいるんだよ」
険しい表情から飛び出す、いつものカリュオンからは考えられない刺々しい口調の言葉。
しかしそこから感じられるのは、嫌悪の感情よりも苦手意識のような拗ねているような、なんだかんだでいつもは大人な態度を保っているカリュオンからは想像できない子供っぽいような空気。
そう、そっくりさんと目を合わせることはなく唇を尖らせるその表情は反抗期の青少年のような雰囲気。
ははは、カリュオンのそういう子供っぽい表情はなんだか新鮮だなぁ。
この感じだとそっくりさんとは血の繋がった関係っぽいし、見るからに厳しそうな感じの人だし、大らかだけれど大雑把で適当でなるようになる系のカリュオンとは真逆っぽい雰囲気だし、嫌いというより苦手ってやつっぽいなぁ。
え? って、親父? 長老って言い直したけれど親父!?
つまりファーザー? 要するにカリュオンパパ? わかりやすくいうとお父さん!?
そっか、ハイエルフは人間なんかよりずっと寿命が長くて、身体能力が最も高くなる年齢で老化が止まって、そのまま寿命が近付くまでは若々しい姿で生きるんだっけ!?
つまりお父様でもカリュオンと同じくらいお年頃の見た目!! そっくりさんでも全く不思議じゃない!!
ヒ、ヒエ~~~~……見た目はそっくりさんなのに、フリーダムなカリュオンと違ってめちゃくちゃ厳しくて恐そう。
やっべー、ちゃんと挨拶できるかな!? 収納の中に何か菓子折り代わりになりそうなものはあったかな!?
とととととととりあえず挨拶をした方がいいかな!?
お父さん! カリュオンさんとは非常に良いお友達付き合いをさせて頂いている冒険者のグランと申します!
最近Aランクになって収入も増え、持ち家もあります!! 特技と趣味は素材を溜め込むことです!!
こんな感じで挨拶をして、菓子折りの代わりはレアキノコセットとかでもいいかな?
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