第910話◆俺様の加護・ちょっぴり本気
「もー、そうやって採取に夢中になって一人で迷子になったり、変な魔物を連れて来たりしないでよ。それにポシェットはグランの収納ほど容量はないはずだから、採取は程々にしておいてよね。ってなんで小石をポシェットに突っ込んでるのおおおおおお!!」
「ミ゛ッ!! ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ッ!! ミ゛ィ゛ーーーーーーーーーーーミ゛ッ!?」
「ギャッ! 蝉が落ちて来た! っちょ、頭の上で暴れないで!! ギャアアアアアアアア、マントの隙間に入った!! ギャアアアアア……エ゛ッ!?」
おぉっと、マントの下に肩からかけている可愛いキノコポシェットを開いて中身を確認しながらブツブツ言い始めたアベルの頭の上に蝉が落ちてきたぞぉ。
正確には蝉の魔物で、大きさは俺の拳より少し大きいくらいで魔物にしては小型の部類ではあるのだが、日本の蝉を知っている俺から見るとでかく見えてしまう。そしてでかいぶん鳴き声もでかい。
ま、そのミンミン鳴く種類のセーミィ君は生態はほぼ蝉で樹液を啜るだけの人には無害なセーミィ君なので、頭にピトッてくっ付いても全く害はないので慌てる必要はない。
落ちてきた蝉はもう寿命が近いみたいであまり元気がなさそうだけど、アベルが手で大騒ぎしながら払いのけようとしたから寿命が近そうな蝉君も最後の力を振り絞ってアベルの頭の上で暴れ始め、そしてすぐに力尽きてアベルの頭の上から胸元あたりにコロンと転がり落ちた。
その転がり落ちた先がアベルの羽織っているマントの胸元、ちょうど前側の合わせで布が重なっている部分。
ジュッ!
アベルの頭からマントの上に転がり落ちた蝉が、短い断末魔と共に焦げ臭いにおいを出しながら一瞬で黒ずみになって崩れ、その残りカスがボロボロとマントの隙間に吸い込まれていった。
ああ……もしかして出がけにサラマ君が振りかけていた火の粉の効果か?
ポロリとアベルの胸元に転がり落ちたセーミィ君を外敵認定して、サラマ君がアベルの装備にかけた守護魔法の効果が発動して消し炭にしてしまったのかな。
不幸すぎる事故だった。
消し炭になったセーミィ君も、消し炭になったセーミィ君の燃えかすがマントの内側に入ったアベルも。
「うおぉ……炎だからサラマッ子の加護かぁ……えげつねぇなぁ……服の中に蝉の破片は嫌だなぁ。うちの苔玉はきっと大丈夫だと思うが……思うが……信じてるぞ、苔玉」
「うわぁ……蝉が一瞬で真っ黒焦げの粉々に……そしてアベルさんの服の中に……僕も焦げ茶さんにローブに魔法をかけられましたけど大丈夫かな……」
あまりの一瞬の出来事に変な声を出したあとポカーンと放心するアベルと、ドン引きした表情のカリュオンとジュスト。
俺の予想ではきっとカリュオンもジュストも大丈夫じゃないんじゃないかなぁ。苔玉ちゃんも焦げ茶ちゃんも気合いが入っていたし。
「ぁ……あああああ……蝉ぃぃぃぃぃ!! 蝉が、蝉の破片が、蝉の燃えかすがマントの中にぃぃぃぃ!! あああああああ……マントの隙間だけじゃなくてアンダーウェアーの隙間にも入り込んでる!! やだああああああ、気持ち悪いぃぃ!!」
あ、放心していたアベルが戻って来た。そして、うるさい。
マントの下に蝉の破片が入って気持ち悪いのはわかるが、森の中で服を脱ぎたくないなら我慢しろ。樹液が主食の蝉が燃えたカスならそんなに汚くないはずだ。
それにしても強烈な防御系魔法っぽいけれど、一瞬で消し炭になるのは面白いし凄いな。
きっとカリュオンやジュストの装備にも苔玉ちゃんと焦げ茶ちゃんがかけた強烈な防御魔法がかけられていそうだ。
…………どんな効果があるか気になるな。
ん、こんなところに蝉の死骸が落ちているぞ。
そうだな、自分の装備にどんな効果があるか確認をしておいた方がいいよな。
まずはカリュオン。
「よっ!」
「おっとぉ? 俺も苔玉が何をやったか気になってたからなぁ、避けないぜ」
俺が地面に落ちていた蝉の死骸を拾ってポイッとカリュオンに投げた。
カリュオンは俺の意図にすぐ気付いたらしくそれを避ける素振りを見せず――。
「……ジッッ!」
パァンッ!!
カリュオンに蝉がぶつかる直前に、森の香りのする風の魔力がカリュオンの鎧の周りで渦巻きそれに触れた蝉の体がバラバラに切り刻まれた。
しかも蝉君は死んでいるようで死んでいなかったみたいで、最後に小さな断末魔が聞こえた気がする。
ゴメン……間もなく寿命を迎える運命だったとしても、なんかゴメン。
生まれ変わった君の生が幸せに満ちあふれた生になることを祈っておくよ。
生きものはきっと生まれ変わる、俺はそれを知っているから。君の転生に多くの幸せがありますように!!
「苔玉ぁ……ちっこい蝉だから破片程度だけど、大きめの動物だったら間違いなく返り血を浴びるやつだし、バラバラにしたらグランに素材がーって怒られるだろぉ。というわけですまんな、グラン。蝉が回収できなくなっちまった」
「あ、いや……蝉はいらないかな? 食べたら意外と美味いらしいが、俺は食べないかな。食べたいなら獲って帰るけど……」
蝉はさすがに食べない。
意外と美味いらしいが、多分俺の転生開花には蝉の美味しい食べ方の記憶はないと思う。もし食べるなら蝉料理のプロの店でにしたい。
カリュオンがどうしても食べたいっていうなら頑張るけど……。
「俺は蝉より肉がいいかな……肉食獣人はおやつ感覚で食うらしいが」
あー、そういえば獣人系は昆虫食の種族は多いし、猫系はわりと動物性タンパク質なら何でも食べそうなイメージがあるな。
猫系獣人といえばリヴィダスだが、あまり虫を食っているところは見たことはないな。
でもリヴィダスって蝉獲り名人なんだよな。
…………さすが猫獣人。
さて、残るはジュストのローブなのだが、死骸だと思って投げつけた蝉が実は生きていたら、爪の先くらい心が痛いからどうしたものか。
苦しまずに次の生に導いてやったと思えばそうでもないから、やっぱその辺の死にかけの蝉でも投げみるか。
「え? 僕もですか? わっ!?」
「ちょっと、グラン。グランがそういうことを始めるとだいたい碌でもないことに……あっ」
近くに落ちていた蝉を拾い狙いを定めるようにジュストの方を振り返ると、ジュストの表情が強ばって後ろに後ずさりをした。
アベルのお小言も聞こえてきたが、装備の性能くらい把握しておかなければダメだろぉ?
そして――わっ? あっ?
あ、後ずさりしたジュストの足が木の根っこに引っかかって後ろにこけた。
その先には蝉の鳴き声がミンミン聞こえる木がー。
その木にドスンと音と立てて背中からぶつかるジュスト。
ジュストがぶつかった衝撃でグラッと揺れる木。
その後は――。
ミ゛ッ!?
ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ッ!!
「うぉあっ!?」
「うわぁぁぁぁぁ……って、うわああああああ……」
「うぉっとぉ!? って、は!? 苔玉ああああああああ!!」
「ふ、ふえええええええええ!?」
木の揺れに驚いて飛び立つ蝉々。
その数はびっくりするほど多い。
飛び回る大量の蝉。
蝉達の驚き混乱した鳴き声と、飛び回る羽音。上空から降ってくる言葉にしたくないの水分。
混乱して飛び回り俺達にぶつかりそうになる蝉。
ああ~~~~~~~!!
アベルにぶつかった蝉はジュッとなるし、カリュオンにぶつかりそうになった蝉は風の刃でバラバラにされるし、ジュストに近付いた蝉は――うわあああああああ……ジュストの周りにタケノコにみたいに岩の針が生えているぞおおおおお!!
ジュストにぶつかりそうな蝉に反応しているみたいだが、たかが蝉に確実な過剰防衛だああああああ!!!
火に風に土、本人達は何もしていないのに装備に付与された防御魔法のせいで、蝉相手にひっどいことになってるなぁ。
ははは、みんなすっごい効果を装備に付けてもらって羨ましいなぁ~。
過剰防衛すぎて、マジで他人事でよかったぜ。
俺の装備といえば、ラトや三姉妹達が念入りにキラキラと何か魔法みたいなものをかけていたが今のところ平気である。
いやー、マジで他人事でよかった。
「ミ゛ッ!」
おっと、蝉が一匹俺の方に突っ込んできた。
ヒヤッ!
ん?
右耳がなんかヒヤッとしたな?
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
まるで大きな滝の傍にいるような音が耳元で……と思った瞬間。
グオオオオオオオオオオッ!!
それはそれの咆吼か、それとも水が風を切る音か。
スピリット・オブ・カレントから水でできた鮫が飛び出して空中を泳ぎ、飛び回る蝉を鋭い牙が無数に見える口の中に吸い込みシャクシャクと全てかみ砕いてしまった。
あ、うん……なるほど、俺様の加護・ちょっぴり本気。
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