第908話◆弄ばれるアベル
だいたいことは笑って済ますカリュオンでさえ苦笑いをして目を逸らし、そのまま遠い目をするほどのもの。
ラト達はどんだけ気合いを入れたものを用意してくれたんだ!?
目を逸らしたカリュオンから視線を移動させるとまず目に入ったのは、カリュオンのすぐ横でペペロンチーノ風の味付けをしたキノコパスタをツルツルと啜りながら、俺達の話を聞いてこれでもかというくらいのドヤ顔になっている苔玉ちゃん。
そんな苔玉ちゃんの方を見ようとしないカリュオン。
その光景には不安しかない。
次に俺が視線を移したのはラトと三姉妹、こちらも苔玉ちゃんに負けないくらいの非常によいドヤ顔である。
幼女のドヤ顔は普段なら可愛いしかないのだが、今日は不安になってくる
ラトのドヤ顔は普段から不安しかないけれど、やはり今日も不安しかしない。
しかしユウヤの強さを考えると、彼らがドヤ顔になるくらいでちょうどいいのかもしれない。
苔玉ちゃんやラト達と三姉妹達の表情に不安を覚えた後は、きょとんとした表情のジュストに心が癒やされる。
そして最後はサラマ君――え?
え? 何でサラマ君はカリュオンみたいに明後日の方向を向いて遠い目をしているの!?
その表情なんだか不安になるんだけど、俺がタルバの所にいっている間に何があったんだ!? 沌の魔力やユウヤ対策をどれだけがんばったんだ!?
カリュオンすら遠い目になるラト達の本気は、楽しいランチタイムの後じっくりと見せつけられることになった。
「これはすごく元気になるポーション」
「キッ!」
「こっちはすごくすごく元気になるポーション」
「キキッ!」
「こっちはすごくすごくすごく元気になるポーション」
「キキキッ!」
「こっちは究極に元気になるポーション」
「キッキッキッキエーーーーーッ!」
「いやいやいやいや、これって明らかに鑑定結果を偽装してるよね? 魔力的な意味での偽装の痕跡は全くないのに、原材料は全く見えないし名称も雑すぎて偽装ってバレバレだよ!! え? この程度も見抜けないとはもっと目を鍛えるクサーーーー!! うるさいよ!! 俺の究理眼をナチュラルに弾くような奴が、グランの家に集まりまくってることのがおかしいんだよ!! キエエエエエエエッ!!」
昼食の後、リビングのローテーブルの上に並べられる数々のユウヤ対策用謎アイテム。
それを究理眼で覗いては片っ端からツッコミを入れているアベルは、すっかりリアクション芸人状態である。
そのリアクションが満足いくものだったのか、苔玉ちゃんは超ご機嫌そうにブロッコリーみたいな短い尻尾をピコピコと振りまくっている。
「ゲッゲッゲッ!」
「そっちも見ろって? 溶岩ポーション? ちょっとおおおおおお!? それも偽装されてて雑な名称しか見えないけど、明らかに瓶を割ると溶岩が溢れるとかっていうグラン系ポーションでしょ!! それは危ないから家の中で出さないで!! ていうか、それはグランに渡さないで! へ? この程度も見抜けぬとは修行が足らないから、鍛え直すために他のものも鑑定するがいいトカゲ? だから、君達が出してくるものがだいたいおかしいんだよ!! 何なの君達!?」
「ふむ、ではこれならどうだ?」
「私の槍も見て見てー!」
「ヴェル、いきなり槍を出すのは危ないですよぉ。それにグラン達の中に槍使いはいないようですからぁ、その槍は時が来るまでしまっておいてくださいぃ」
「武器はすでに良いものを持っているようなので、防具やお守りにしましょうって言ったでしょお? というかヴェルはその槍を出したかっただけでしょう? それとラト、それは魔法薬ではなくてただの珍しくて貴重なお酒ですわ」
「あああああああああーーーー!! 視力検査じゃないんだから、次々鑑定できないものを出してこないで!! 俺の究理眼で遊ばないで!! どれもこれも強力な偽装がしてあって究理眼で見えないから鑑定をする意味がないじゃん!! もう全部君達で説明して!! って、グランは何で諦めた顔で腹筋をしてるの!?」
ああ~、アベルが究理眼を弄ばれすぎてキレちゃった。
ラト達が用意してくれた対ユウヤ用のアイテムを確認していたはずなのだが、いつのまにか謎のアイテムお披露目会になっていた。
アベルの究理眼すら弄ばれるアイテムの数々、当然俺の鑑定スキルでも偽装された雑な名前しか見えないので、早々に自力で鑑定するのは諦めてアベルが弄ばれている横で腹ごなしの腹筋をしている。
苔玉ちゃんが得意げにテーブルの上に並べているのは、苔玉ちゃんが作ったすごいポーションかなぁ?
うんうん、四段階の元気になるポーションかー。
ユウヤ戦はきっと総力戦になりそうだから、その時にありがたく使わせてもらうよ。
んあ、サラマ君が出してきた赤黒い色のポーションが、火の魔力をボーボーと出していてすごく気になったんだけど、アベルがしまえって言うからナイナイされてしまった。
ていうかちっこいサラマンダーっぽい何かなのに、ナチュラルに収納スキルを使っているのだよなぁ。ま、深いことは気にしない気にしない。
でも本当に溶岩が溢れるポーションだと家の中で出すと危ないので、箱庭に入る直前にアベルにばれないようにこっそり俺に渡してほしいな。
やべ、アベルが察したのかこっちをチラッと見た。はー、腹筋に集中しとこ。
あーあーあーあー、苔玉ちゃんとサラマ君がアベルで遊んでいるからラトと三姉妹もアップを始めたぞ。
ラトが何か聖属性溢れる小瓶を出したと思ったら、ヴェルが銀色に輝くめちゃくちゃ綺麗な長い槍を出してきたぞ。
うわぁ……明らかに女神様の槍って感じ。もしかしなくても神話級の槍だったりする? グングニルとかガラドボルグとかブリューナクとかロンギヌスとかいう名前じゃないよね?
クルとウルに注意されて収めちゃったけれど、ちょっと振ってみたかったなぁ。
でも俺は槍スキルは低いから上手く扱えないだろうなぁ、どこかで槍スキルを上げてくるから今度貸してもらえないかな。
って、ラトの出してきた小瓶はポーションじゃなくて酒かよ!!
でも何かめちゃくちゃ聖属性が溢れているし、気配とか鑑定とかじゃなくて俺の勘だけれどめちゃくちゃ酒精が強そう。
小型のウイスキー瓶くらいのサイズだけれど、ヤマタノオロチくらい一発で酔い潰せそう。
え? ヤマタノオロチ? おいコラ、転生開花ーーーー!!
ラト達の持ち出したものに理解とツッコミが追いつく気はしないし、転生開花が余計なことをしても困るし俺は大人しく腹筋をして、鑑定やツッコミ役はアベルに任せよう。
ユウヤは確実に強敵だから少しくらいやりすぎなくらいでちょうどいい。だから、細かいことは気にしない気にしない。
今日はこの後、お腹が落ち着いたら箱庭にいくことになったから、俺は準備運動の腹筋に集中だ。
「ところでラグナ・ロックはどうすることになったんだ? そっちもやべーものを計画してんじゃねーの? ま、箱庭の中ならやべーくらいでちょうどいいと思うけどな」
「ああ、こっちは沌の魔力を吸い込んで他の魔力に均等に変換する魔導具。モールの話だと効果が出るまで時間がかかりそうって話だったんだけど、チビカメが焦げ茶の子に本気を出されば即効性のある魔導具くらい作れるだろって言うからその方向で計画してる。ただ焦げ茶の子はずっと寝てたから、魔導具の原案自体は俺とモールとチビカメで作って、明日から作業に取りかかれるようにモールが準備してくれてる。何か複雑な魔導具に詳しい人がドワーフのとこに来てるみたいだから、午後から話を聞いてくるって言ってた」
「へー、そりゃタイミングがよかったなー、あの沌の魔力はやっべーもんなー。でもあの範囲であの濃さを、拳大のラグナ・ロックでなんとかできるのか?」
「モッ!」
「明日から超本気を出すから安心して私に任せるがいいロック? 君、そういって今日も寝てたじゃない! 大丈夫!?」
おっと、話がラグナ・ロックを利用した魔導具のことになった。
アベルとタルバが話し合っている時はうっかりウトウトしちまったから。今度は腹筋をしながらちゃんと聞いておくぞ。
焦げ茶ちゃんが明日から本気を出すなら俺もついていって、その本気とやらを見せてもらおうかな。
それにしても夏の暑い日でも、空調の効いた室内は涼しくて気持ちがいいなぁ。
昼食後の満腹感のせいで更に気持ち良く感じるし、一定リズムで腹筋をしているうちに程よく筋肉に疲労が溜まり始めて睡魔がやってきたぞ。
いやいや、少し休んで箱庭にいく予定だし寝てはいけない。
ついさっき立ったまま寝たばっかりだから、ここでまた腹筋をしながら寝落ちをしたらアベルにチクチク言われてしまう。
でも今は矛先が焦げ茶ちゃんに向いているから少しだけならー。腹筋をしながらなら少しスヤッてもばれないはずー。
唸れ、俺の器用貧乏!! 腹筋をしながら仮眠だ!!
「って、グラン!? 起きてる? さっきからずっと腹筋をしているけど、実は寝てない!? 寝るくらいなら箱庭にいく準備を始めて!」
チッ、付き合いが長いだけあって無駄に勘のいいアベルだぜ。
少しウトッたところで、俺の腹筋をしながら寝落ち計画はばれてしまった。
仕方ないから箱庭にいく準備をするかー。
ラト達が色々ユウヤ対策をしてくれたのだが、ラグナ・ロックを使った魔道具が完成するまでは、ユウヤのいる割れ目は避けて一日一回の箱庭観光になりそうだ。
※明日と明後日の更新はお休みさせて頂きます。土曜日から再開予定です。
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