第905話◆最強には最強を

 ユウヤって誰!?

 超大昔の知り合いでかなり変わった人間の名前から取った?

 黒いものがとにかく好きで夏のクソ暑い時も真っ黒なロングコートを着ていて、適性が低いのに闇とか沌の魔法ばかりを使っていて、魔王とか邪竜とか堕ちたる神とかいないのかって森に押しかけてきた変な旅人?

 人間なのにわざわざ手作りの黒い翼を背中に付けて鳥人の真似をしていたり、怪我をしていないのに眼帯をしていたり左手に包帯を巻いていたり、とにかく変わった奴で、ユウヤって名前なのにルシファーって名乗って、ルシファーさんが実在する元神様でトラブルになったこともある?

 俺の作った最強のラスボスを見てそいつを思い出したからユウヤにした? 

 ああ、うん……何だかその人に妙な親近感を覚えるわ……うん、仮の名前はユウヤでいいかな?

 多分倒しちゃうことになるけど……うん、俺の付けた長い名前より呼びやすいしユウヤでいいね。

 仮の名じゃなくて真の名にしていいんだけど、もう変更は無理かな? もう手遅れ? やっぱ無理? ですよねー!


 こうして†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†君はユウヤ君と呼ばれることとなった。

 やっぱ名前は呼びやすい方がいいもんね。

 それにクルがユウヤ君に致命的な弱点を設定してくれていたおかげで、苦戦をしたとしても何とか倒せる希望が見えてきた。

 まぁそのためにはあの長い名前を連呼することになりそうなのだが。

 ……弱点がわかったとしてもこれは厳しい戦いになりそうだ。俺の精神的な意味で。


 厳しい戦いになりそうなので、準備を過剰なまでにしていこう。

 できるだけ速く決着を付けて、あの真名を呼ぶ回数を減らすために!!




 朝食の後は、それぞれユウヤ君対策を開始。

 俺は予定通り焦げ茶ちゃんとタルバの所へ向かうことにした。

 今日はお出かけしなかったカメ君と、同じくしばらく仕事を休んで箱庭に集中するというアベルも一緒に。


 アベルが王都に行かないからカリュオンもうちにいる。

 俺達がタルバの所に行っている間に、カリュオンとジュストはラトや三姉妹、苔玉ちゃん、そして今日はうちにいるつもりのようなサラマ君とユウヤ君対策の準備をしている。

 面子的にやりすぎてとんでもないものを準備してしまいそうなのだが、ユウヤは強敵そうなので心置きなくやりすぎてくれ。


 アベルもあの面子を残して出かけるのは不安だと言っていたのだが、俺と焦げ茶ちゃんだけでタルバの所に行かせる方が不安だとこちらについてきた。そしてカメ君も。

 いやいや、どう考えてもやっべーものを作り出しそうのはラト達の方だろ!? カリュオンも火に油を注ぐタイプだからストッパー役がいないぞ!?

 間違いなく非常識のたらい回しで、予想の斜め上を遥かに飛び越えた事態になってもおかしくないぞ?

 ああ、でもアベルも非常識のたらい回し仲間だっ――いてっ! いきなり、氷をぶつけんな!


 ところで箱庭に集中するのはいいけれど、冒険者の仕事大丈夫?

 え? どうせドリーはペトレ・レオン・ハマダの土竜の寝返りと荒野火災の調査と報告で忙しい?

 お、おう……土竜の寝返りに比べたら荒野火災なんか些細なことなので、土竜の寝返りの方をしっかり調べるようにアドバイスをしておいてくれ。

 ああ、ペトレ・レオン・ハマダのダンジョンで環境が変化する階層が続出したんだっけか。それからミミックも大発生しているみたいだし、調査が大変そうだなぁ。

 土竜の寝返りの前兆が発生していた現地にはいたけれど、今回は本当に俺達は何もしていないからなぁ。


 土竜――古代竜マグネティモスが寝ぼけて少し身じろぎしただけでダンジョンの環境が変化して人間は大騒ぎになるなんて、さすが古代竜はスケールが桁違いの超巨大存在だぜ。

 ん? 焦げ茶ちゃん、どうしたの?

 ああ、焦げ茶ちゃんはミミックの干物が大好きなもんな。

 うんうん、なくなる前にペトレ・レオン・ハマダのダンジョンでミミックをたくさん倒してまた干物を作ろうね。


 ん? カメ君はため息をついてどうしたの?

 ああ、この間すごくたくさんミミック肉の下処理して大変だったもんね。

 次はほどほどくらいでやろうね。



 うちの倉庫の地下室とモールの集落を繋ぐ地下通路をアベルと並んで進む。

 タルバがうちに遊びに来るために掘った穴だが、俺やアベルも通れる程の広さのある通路だ。

 この通路のおかげで気軽にタルバのとこに行って色々と作ってもらっている。もちろんしっかりと対価も払っている。


 通路に照明用の魔道具などは取り付けられていないのだが、ふわふわした淡い光を放つ小さなキノコがあちこちに生えており、暗い地下通路内を優しい明るさで照らしている。

 実はこの光るキノコ達、普通のキノコではなくこの地下通路に住み着いたキノコの妖精である。

 とくに害はないので放置しているのだが、おやつを与えるとモールの住み処まで俺の歩調に合わせて移動して、程よい明るさで通路を照らし続けてくれる。

 光っていること以外はキノコ君にそっくりなので、キノコ君と近い種類のキノコ妖精なのかもしれない。

 今日も持って来たクッキーを取り出すと、わちゃわちゃと集まってきて俺達が進む速度に合わせて一緒に移動し始めた。


 うんうん、いつも案内ありがとね。

 今日は君達にそっくりなキノコ君が住んでいる箱庭を救うためのアイテムを作りにタルバの所に行くんだ。

 君達はキノコ君とそっくりだけど、知り合いなのかな?

 キノコ君なら箱庭で元気に暮らしているよ。今はちょっぴり箱庭のピンチだけれど、必ず俺達が救ってみせるからな。


 などと話しかけながらクッキーを配っていたが、もちろんキノコ語は話せないし話しかけられていたとしても理解できないので、俺の独り言状態だ。

 今日の話題は今ピンチの箱庭とそこに住むキノコ君の話。

 君達もキノコ君と俺達を応援していてくれ!


 横でアベルが、また俺が変なものを誑し込んでいるとか、また餌付けしているとかブツブツ言っているけれど気にしない。

 これは近くに住む妖精とのご近所づきあいなのだ。





「君さ、よくわからない小動物なのに何かずっしり重くない? まるで石でも肩に乗せているみたい。っていうか、グランの方にいきなよ」

「モ……」

「カーーーーッ!!」

「カメ君、何もそんな威嚇しなくても」

 光るキノコに照らされる通路を、焦げ茶ちゃんを肩に乗せて歩きながら複雑な表情のアベル。

 俺の肩の上にはいつものようにカメ君が。

 空いている俺の右肩に乗ろうとしてカメ君に威嚇された焦げ茶ちゃんは、アベルの左肩に居座っている。

 アベルに俺の肩にいくように促されているが、カメ君が再び威嚇をしたのでアベルの肩にベッタリと張り付いてしまった。

 アベルは普段小動物に避けられたりおちょくられたりする体質だから、こうやって懐いてくれる焦げ茶ちゃんとは仲良くしておけよ。


 焦げ茶ちゃんはふかふかの毛のせいか、ややずんぐりとした体型。

 小動物だからぽっちゃりふっくら体型も可愛いね。見るからに重そうだけど。

 でも石みたいって……ま、土属性の生きものみたいだしそういうこともあるさ。


「ところで焦げ色の君さ、土魔法や鉱石に詳しいみたいだけどラグナ・ロックをどうするか考えてるの? すごくのんびりした子みたいだけど大丈夫? うっかり転がして暴発させたり、どっかに置き忘れたりしない? グランほどじゃないけど何となく不安だよ」

 カリュオンの保護者みたいな苔玉ちゃんが、焦げ茶ちゃんに任せればいいというのでそうすることにしたのだが、焦げ茶ちゃんはすごくのんびりした性格で少しどんくさそうなのでやや不安である。

 そしてアベルは、どさくさに紛れて俺の悪口を言うな。


「モッ!」

「なになに? 大地のことなら私に任せるがよい石? 昨夜ラグナ・ロックをどうするか考えておいた石? 考えている途中で寝てしまって何も考えてないが問題ない石? モールがいるならモールが何とかする石? グラン、この子連れてきた意味あるの? いたっ!」

「カー……」

 得意げに前足を上げる焦げ茶ちゃんと、その言葉を通訳しながらどんどん呆れ顔になるアベル。

 最後の一言が余計で、焦げ茶ちゃんに小石をぶつけられている。そこはそう思っても黙っておくのが大人ってもんだ。

 俺の肩の上ではその様子を見て不安そうにため息をつくカメ君。

 わかる、俺も少し不安になってきた。


 でも大丈夫、そんなこともあろうかと俺がラグナ・ロックの加工の候補を考えてきたぞ!


 相手が堕ちたる神なら、こっちは神殺しのアイテムゴッドスレイヤーだ。


 最強には最強。俺の考えた最強のゴッドスレイヤーでユウヤを倒すんだ!!












※カドコミ様でコミカライズ版グラン&グルメの五話(後半)が公開されてます。

ついに来ちゃった☆

ニコニコの方はページは復活しているのですが、更新は再開されていないみたいなので最新話はカドコミのみになります。

来ちゃった☆弾幕したい人生だった。

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