第904話◆†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†
†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†
それが俺が考えた最強のラスボスの真名。
あそこにいたのは、俺が考えた最強のラスボスが具現化したものかもしれない。
もちろんあの赤い目はアベルの究理眼を弾いたようなので、このこっぱずかしい名前は知られていない。
アレがアベルの究理眼を弾く程の存在だからなのか、それとも俺が正式な名前をメモに書かずにスゴロクをラト達に渡したからか、その理由がその名を絶対に知られたくないと俺が思っていたからか。
いや、ラト達がスゴロクを弄くり回していたのなら、俺の考えた最強のラスボスとは全く違うものになって名前も変わっているかもしれない。
というか、変わっていてくれ。頼む。絶対に。
深夜テンションでものを作るのはよくないし、名前を付けるのもよくない。
どうせ表に出ない設定ならバレやしないだろうなんて、俺の考えた最強でちょっぴり恥ずかしくてかっこいい名前なんて付けるんじゃなかった。
俺は今、大いに反省し、大いに後悔をしている。
夜食中アベル達に詰められそうになったが、スゴロクにボスを作ったことだけ白状し詳しいことはラト達と確認してみるとこの話は一旦打ち切った。
うむ、ラスボス君の名前バレはなんとか回避できた。
後は眠い中どういう設定のラスボスを作ったのかは、スゴロクのルールを書いたメモを見れば思い出せるだろう。ついでに弱点も思い出せるだろう。多分。
と思って箱庭帰り、ゆっくりとスヤァした翌朝の朝食の席。
「え? スゴロクに付いてたメモ? 私は過去のことを思い出すのは苦手なのよね。ウルは覚えてる?」
「ええ、はっきり覚えてますわ。ラトがスゴロクを片付けた時に一緒に畳まれてましたわ」
「あらぁ……それだと箱庭の中ですねぇ」
揃って首を傾げる三姉妹は可愛いのだが、その答えは絶望的である。
「ふむ、最後のマスには確かにスゴロクというゲームの主がいることが書かれていたな。そのマスに書かれていたことと渡されたメモに書を参考にしながら、其奴のコマも作っておいたぞ。ついでに少し主の風格を足してやった」
そしてラトのこの追い打ちである。
「カッ!」
「キッ!」
「ゲッ!」
「モッ!」
それに続いて得意げに挙手する。
昨夜いつも通りやってきたサラマ君は、箱庭に入った俺達のことを心配してうちに泊まったようで、今日は珍しく朝食にその姿が。
その挙手とドヤ顔の感じ、チビッ子達も協力したんだね。
そんなん絶対やべー奴になってるじゃん。
メモ用紙も一緒に取り込まれたのなら、俺が寝落ちしながら考えた最強のラスボスの設定も反映して、箱庭の中でラスボスが具現化されていそうだ。
「その主は真名が隠されているようだったので、我らで仮の名を考えて与えておいたぞ。主が名無しなのはよくないだろう。ふむ、それが箱庭で具現化されていそうだと……」
うおおおおおおい、ラトオオオオ!! 無駄に余計な仕事をするんじゃねええええ!!
名付けなんかしたら更に強くなっちまうだろおおおお!!
いや、でも真名がバレるよりいいのか? バレるよりいいな?
「ええ、真名が隠されていたので真名が弱点になるタイプの主かと思いまして、そういう設定でコマをゴーレム化しましたわ。複雑な付与になって難しかったですけど、そこは付与が得意なクルががんばりましたの。ですから強そうに見えても弱点がありますわ」
ん? 真名が弱点?
「はいぃ! すごくがんばりましたよぉ。真名を大きな声で叫ぶと、一時的に魔力節約モードに入るように設定しました。節約モードは一時的なので、時々真名を大きな声で呼んであげないと全力モードに戻りますよぉ」
おい?
「真名はすごく強そうで長かったけど、ちゃんと覚えて戦いながら呼べるの?」
え? ラスボスの名前は書いて板にもメモにも書いていなかったのに、もしかしてバレてる?
なんか女神様の末裔だからとか、森の番人様だからとか、謎のチビッ子だからとかって理由で俺がこっそり付けていた名前まで見抜けちゃう?
人知を超えたすごい鑑定スキルなら、マスを鑑定したらラスボスの名前もわかっちゃった?
「しかしその名が遥か昔に忘れられた元神の名と同じとは、奇なる偶然もあることよの。堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー、二つ名もそやつに近いところを突いておって驚いたぞ」
ギエエエエエエエエエ!! バレてるうううううううう!!
ていうか、声に出して呼ばないでええええええ!!
元神と同じ名とかびっくり情報もあるけれど、そんなことよりその恥ずかしい名前を声に出して呼ばれたことの方が予想外すぎいいいい!!
しかもボスを弱体化するために、その恥ずかしい名前を大きな声で連呼しないといけないなんて!!
やだ、すごく恥ずかしいからもうこの場から消えてなくなりたい。
きっとこの名前にはみんな微妙な顔をして、俺の厨二病を生温かい眼差しで見ているはずだ。
やめろ、そんな目で見るな! 男の子なら誰だって最強で最悪だけどかっこいいラスボスに憧れるのだ!!
って、あれ?
なんかみんなすごく神妙な顔をしてない?
「グラン、何てものを作ったの……堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーなんて、名前だけでもめちゃくちゃやばい感じ出てるよ。神の化身とか邪竜とか魔王とか伝承の中にあるやばい存在の集合体じゃない」
あれ?
う、うん……伝承に出てきそうな強い奴の欲張りセットにしちゃった。
あ、でもその名前読み上げないで。俺のガラスのハートにダメージが入る。
「今でこそ全世界を見ても魔族の国は少なくて平和的な国ばかりだが、大昔は強い勢力を持つ国が他国を侵略して戦争を繰り広げ、その国の王は魔王とも呼ばれていたって話だからなぁ。邪竜もなぁ、邪とは限らないが小さな存在のことを全く気にしないバカでかい竜が好き勝手活動すれば災厄みたいなもんだからなぁ。あそこにいたのが、堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーが具現化して、名前の通りのものだったら間違いなくやべーなぁ……主様や苔玉達が手を加えてるならなおさら」
あ、あれ?
うん、ごめん。俺歴史はさっぱりわからないんだ。
竜は、そうだな……古代竜を近くで見る機会があったからわかるよ。少し迂闊だったかもしれない。
そうだよなぁ、ラト達が手を加えているなら確実にやばい奴だよなぁ。
でもやっぱ堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーを音読しないで。
「すごい……堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーってすごく強そうでかっこいい。さすがグランさんの考えたラスボスだけありますけど、戦う相手になるのならどうしたらいいのか……まさにラスボス」
あれれ?
ジュストはこれをかっこいい思ってくれるか!?
だよなー! そういえば中学生くらいの年頃だもんなー!
まさに厨二病真っ最中の時期だもんなー! うわーい、仲間!!
でも声に出して読み上げないで!
俺の予想とは全く違う反応を示すアベル達。
あ、そっか。
前世の俺にとっては創作の中の存在だったが、この世界では神も竜も存在する。世界を滅ぼすような邪悪な存在ではなく、魔族の国の王というだけだが魔王と呼ばれる者もいる。
そうだった、日本では非現実的な存在もここでは現実なのだ。
ルシファーは知らない。ただ堕天使という厨二的かっこいいの象徴だから付けただけ。
「しかし、まずいな。名は体を表すもの。グランがアレを知ってアレを模して付けた名だとは思えぬが、偶然とはいえアレとあそこまで一致してしまうとは、アレのようにはならぬとしてもそれなりに力のある名を貰ったが故に力のある存在になって、箱庭の中で具現化していそうだな」
ギエエエエエエ!! ルシファーもいたああああああ!! しかも名前のせいで強くなっているかも!?
この世界にも同じ名の神様がいたなんて予想外だぜ。
まぁ神様ならどこかで繋がっていてもおかしくないか……前世でいた世界とこの世界がどこかで繋がっていて転生者や転移者の痕跡はたくさん残っている。
そして俺やジュストがそれが起こりうる事象だと証明している。
しかもラトのこの深刻な表情。
あの……ラトにそんな真面目な顔をされるとすごく怖いので、いつもの威厳全くなしの酔っ払い番人に戻ってくれませんかね。
ラトが酔っ払っているのは平和の証。酔っ払いの番人こそ平和の象徴。
そんな重要なことに気付いてしまった。
「でもクルが真名を呼べば弱くなる仕組みにしてくれているから、貴方達なら大丈夫よ。たくさん名前を呼びながらがんばって倒して。私も一緒に戦いたいけど、箱庭に入れないから残念ね」
お、おう。女神の末裔にそう言われると多分倒せるんだろうなって思うけれど、あの名前を連呼するのは俺もダメージを受けそうだ。心が。
「私達は中に入ることができないので、グラン達が堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーに負けないようにしっかりと準備をしましょうぅ」
それはめちゃくちゃ心強いのだけれど、その名をフルネームで読み上げないで。
「そうですわね、昨日急いで用意したものでは足りなかったみたいですし……堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー、やはりかなり力を持った存在みたいですわね」
昨日用意してくれたものおかげで、濃い沌の魔力の中でもめちゃくちゃ痒いだけで活動できたけれど、あれ以上先に進むのは厳しそうだった。
しっかり準備をして進まなければ、戦いにすらならないだろう。
元は俺が考えたものとはいえ恐るべし相手、堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー。
できれば必要以上にその名を呼ばないでくれ。
「ところで仮の名を付けたってどんな名前を付けたんだ? 真名は長いし、言葉の力強そうだからそっちで呼ぶ方がいいんじゃないか?」
とりあえず堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファーを連呼されないために仮の名を聞き出そう。
「うむ、そうだな。確かに真名が強すぎるし長すぎる故に、仮の名は皆で考えて害がなく呼びやすいものにしておいたぞ。その名は――」
その名は?
「ユウヤ」
誰だよ!!
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