第903話◆今さら後悔しても、もう遅い
「ねぇねぇ、グランはあの裂け目の中に見えた目の正体に心当たりはないの? この箱庭はグランが持ってきたものだし、スゴロクってやつもグランが作ったものでしょ?」
「え? あ? んんーー……とりあえず、夏も深夜になると肌寒いから温かい燻製肉のスープが美味いなぁ。いやぁ、まさかキッチンに食材まで置いてあるなんて思わなかったよ、キノコ君様々」
月の姿はなく小さな星の瞬きさえはっきりと見える夜空の下、持ち込んだ魔道具とアベルの出した光の魔法の明かりに照らされながら、別荘のテラスでお夜食タイム。
いやぁ~、テラスにテーブルと椅子が用意されているなんてさすがキノコ君だなぁー。
テラスに机と椅子が用意されていただけではない、夜食を作るためキッチンへいくとキッチンの冷蔵箱の中に野菜や果物が入っていて、自由に使っていいという張り紙がされていた。
どうやらその野菜や果物は俺が渡した種を育ててできたもののようで種のお礼だと書かれていたが、こちらこそ種を渡しただけで作物を貰ってありがとうだよ。
感謝の気持ちを込めて、ありがとうと張り紙の隅っこに書いておいた。
箱庭が落ち着いて毎朝の交流が再開したら、このお礼をしなきゃいけないな。今日作ったリュネゼリーも渡したいから早くキノコ君との交流が再開するといいなぁ。
そのためには箱庭の平和を取り戻さなければ。
で、別荘のテラスでの楽しい夜食タイムにアベルが何故か俺に疑惑の目を向けている。
あー、裂け目の目ー? うーんうーん……ま、今は夜食に集中しよう、そうしよう。
いや~、テラスなら大きさ的に別荘の中に入ることのできないケサランパサラト君やディールークルム君も一緒に食事ができて賑やかだな~。
やっぱ食事はみんなで食べる方が楽しいよね~。
「あっ、誤魔化した!! 絶対に何か心当たりがあるでしょ!!」
「う~ん、そうだなぁ……あ、肉はこの間の食材ダンジョンから持って帰ってきたクソデカマンモスの肉をうちで燻製にしたものだよ」
心当たり? 心当たりなぁ~……まぁ、ないことはないけれど確定したわけじゃないしなぁ~?
とりあえず、今は夜食夜食~っと。
や~、腹が減ったそのままガジガジするために持ってきたカチカチマンモスの燻製肉だけれど、スープに入れるといい味が出る上に程よい固さになるなぁ~。
キノコ君の好意に甘えてキッチンにあったタマネギとニンジンとキャベツを貰って、持ってきていたマンモスの干し肉を入れて簡単な野菜スープを作ったんだよなぁ。
なんと、少し前にキノコ君に胡椒の苗木を渡したおかげで粗挽き黒胡椒まで用意をされていた。
箱庭の危機だって時なのにこんな心遣いをしてくれるなんて、俺ちゃん張り切って箱庭を救っちゃうぞ~。
あ~、それであの目ね……うんうん、何とかしないといけないなぁ~。
「ちょっと、すっとぼけてないでちゃんと答えて! あの裂け目で変な目と見つめ合っちゃってゾクゾクしたから温かいスープは嬉しいけど、俺の質問にちゃんと答えて! それに何これ、飴? っぽいけど少し違うね、これも携帯食?」
「あ、これ? これは果物のジュースに色々加えて煮詰めて、プルプル食感用スライムゼリーパウダーを多めに入れて硬めのゼリー状みたいにしたんだ。使った果物がポーションにも使える類いのものだったから、キューブ型ポーションにちょっと近い感じになっちゃった。硬めにしたから水分はほとんどないから持ち運びしやすくて、多少腹の足しになって少し疲れが取れてちょっと魔力が回復する普通の携帯食だよ。あ、こっちのはドラゴンペアーのグミ……ブヨブヨゼリーだからアベルは食べない方がいいかも」
あーうんうん、俺もアレと目が合っちゃって背中がゾクゾクしているから温かいものが食べたかったんだよね。
はー、野菜とマンモス肉から染み出た味が混ざり合ったスープはおいしいなぁ。
ん? その飴っぽく見えるけれどブヨブヨしている携帯食?
ああ、なかなかいいできだろ? むかぁ~し食べたことのある菓子を思い出しながら作ったんだ。
一口サイズでかみ応えのあるブヨブヨで、味付けも甘めにしてあるから癖になるだろ?
リュネゼリー作った時のスライムパウダーが余っていたから小腹の足しになるかなって作ったんだけど、ポーションにもなる果物を使ったらポーションっぽくなったんだ。
ま、ポーションほどの効果がないから気持ち疲れの取れる携帯食かな。
ケサランパサラト君やディールークルム君はこの水分がなくて歯ごたえのあるゼリーが気に入ったみたいで、モクモクと摘まんでは食べている。
その横には砂糖の代わりにそのブヨブヨゼリーを入れた紅茶。
熱で溶けるから熱い湯の中に入れると溶けるのでこういう使い方もできるんだよね。
「携帯食の話ならちゃんと答えてくれるんだ。って、またこれ色々使ってポーション程じゃないけどポーションみたいな効果が出る携帯食でしょ!? 当たり前のように作ってるけど、またグランのとんでも器用調合の産物でしょ!?」
「ええー? ジュースと煮詰める時に色々薬草を足しながら味を調整するついでにポーションを合成する時と同じ要領でかき混ぜただけで何もしてないよぉ~。このカチカチゼリーはお湯に溶けるから熱々のお茶の中に入れると、ほぉらフルーツティー風味になるぞぉ。いやー、紅茶まで置いてあるなんてキノコ君はサービスがいいなぁ」
一口サイズよりちっこいグミだからそんなに大きな効果はないけれど、携帯食としての役割以外にもお茶の時間をちょっと楽しくしてくれて、ちょっぴり元気になれるのだ。
これは果物ジュースを適当な薬草と混ぜてスライムゼリーパウダーで固めただけだから、そんな難しいレシピのものじゃないぞぉ。俺くらいの調合スキルがあれば作れるはずだぞぉ。
ははは、調合や料理のことならだいたいちゃんと答えるぞ。というか踏み込んだ話を語り倒したいくらいだ。
「おーい、グランー、何か隠してることがあったら素直に吐けー」
ぎえっ! 赤い目のことは適当にはぐらかしておこうと思ったら、スープを啜りながらカリュオンまで参戦してきた!
グミとグミ紅茶に夢中だったケサランパサラト君やディールークルム君も俺の方を見ているぞ。
べ、別になにもやましいことはないぞ!!
か、隠しているわけじゃないけれど確信がないしー、スゴロクも箱庭もラト達が弄り回しているから俺の知っているものとは全く変わっているはずだから確信はないんだよな。
うーんうーん……ちょびっとだけ心当たりはありはするから、ラト達がいる時に話そうかなって思ってたんだよな。
「なんだかラスボスみたいでしたよねー」
ラスボスって表現がものすごくアウトだけれど、ジュストの予想はだいたい正解!!
そう、ラスボス。
スゴロクの最後にはラスボスが出現するマスを作ったのだ。
やっぱゲームの最後は、かっこ良くてめちゃくちゃ強いボスだよなぁって。
それに苦労して勝ってこそ最高のゲームクリアだよなぁって。
ラスボスに辿り着くまでにキャラを育て、物資を整えてボスを倒せばスゴロクをクリアできるいう流れ。
ボスにはHPがあって、キャラの強さや装備の数値にサイコロで出た数を掛けてダメージを与える感じだった。
ボスの攻撃は――適当に理不尽な範囲攻撃をスゴロクの説明用のメモに書いておいたんだよなぁ。
だって急いで作ったから。夜遅くまで作業していて眠かったから。
どうせラト達が弄くり回すならその辺も勝手に調整すると思って、最後にいくほどすっごい雑な作りになっていて、ラスボスは雑な強さの極みだった記憶がある。
やっべー、眠い眠いって思いながら作ったからあまりはっきり覚えていないや。
ラスボスならやっぱ魔王だよなーとか、かっこ良い竜もいいかなー、それとも邪神かなー、いやいやそこは創世神とか天使系でもいいなぁなんて思いながら、俺の考えた最強のラスボスにしたんだ。
やっべー、どうしよう。
眠い時に適当にものを作ってはいけない。
などと後悔してももう遅い。
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