第902話◆まだ足りない
漆黒の闇の中に赤く浮かび上がる双眸は、漆黒の闇を覗き込む俺の方をはっきりと見ていた。
背筋が冷たくなるものを感じながらも漆黒の闇に輝く赤が妙に美しく感じて見入ってしまい、目を逸らすことができなくなってしまっていた。
ザワザワと沌の魔力が俺の体に絡みつく不快さを感じながらも、絡みついた沌の魔力に引っ張られてその赤い瞳に吸い込まれそうな感覚に抵抗できず、ただ不快な感覚に身を任せるのみ。
そのまま混沌の闇に溶け込んでしまいそうな感覚に抗うことができず赤い瞳から目を逸らせずにいると、不意に体を強く下に引っ張れて視界が低くなったため赤い目が見えなくなりハッと我に返った。
危ない、裂け目の奥にいるナニカに魅入られるところだった。
少し覗くだけのつもりが、闇よりも昏い混沌の闇に魅入られ取り込まれそうになっていた。
ディールークルムが降ろしてくれなければ、あのまま混沌の闇に惹かれ自分と混沌の闇との境界がわからなくなっていたかもしれない。
地面にしっかりと足をつけると、シュルッと蔓が俺の腰から離れてディールークルムの方へと戻っていき、それでもうあの混沌とした闇の引力から解放されたことを実感して無意識に大きく息を吐き出した。
俺に続いてアベル達も地面に降ろされ、同じように大きく息を吐き出している。
きっと彼らも俺と同じようにアレに魅入られかけたのだろう。
だがアレを見たせいで、今この場に漂う沌の魔力がまだマシに感じられるようになっていた。
ディールクルムが俺達に見せて存在を実感させたかったのはアレ。
そしてアレを見ることにより、ここがアレよりマシということを示したかったのだろう。
アレよりマシだと思えば、割れ目の外くらいの沌属性なら耐えられる気がする。
そしてこの目で見たアレ。
確実に今の俺達では力不足である。
しかしカメ君達は出禁なので、俺達だけでなんとかしなければならない。
これは戻って対策を練らなければならないな。
もとよりここまでだったが、今日のところはこれで撤退。
帰ってゆっくり休んで、明日またアレについてラト達と話し合いながら沌対策を進めよう。
お疲れ様です。
スゴロクの再侵食を食い止め、闇のガーディアンをスゴロクから解放していただきありがとうございます。
こちらが今回の報酬となります。
自動売買機の商品も更新されておりますのでご確認ください。
■報酬:森解放(二回目)■
・1000キノー
・キノコポシェットの容量+10%
■報酬:闇のガーディアン解放&覚醒■
・1500キノー
・キノコポシェット・スレイヴ 三個
別荘まで帰って来てしおりを開くと、最初のページにそう書かれていた。
前回と書かれている内容が変わっている不思議なしおり。どうやら最初のページは、キノコ君からのお知らせが書かれているページなのかな?
それにしても、キノーがいっぱいだー!
しかもポシェットの容量アップだってー!?
このまま、箱庭世界を平和にしていくと報酬で更に増えたりするのかな?
すごく容量が増えるのなら土砂や水を持ち歩きたいなぁ。俺の収納スキルが使えないならそのくらいのサービスが欲しい。
それに加えキノコポシェット・スレイヴ?
しおりを見て玄関脇の棚、アイテムお預かり棚の中を見てみると色違いのキノコポシェットが三つほど入っていた。
しおりのページをめくるとキノコポシェット・スレイヴの説明が書かれており、どうやらこの色違いのキノコポシェットはキノコポシェットと繋がっておりキノコポシェット内のものを共有でき出し入れできるらしい。
それが三つ。キノコポシェットと合わせれば四つ、つまり俺達の人数分だ。
何それ、便利過ぎない?
それってみんなで使えそうなものをキノコポシェットに入れておけば、わざわざ渡す必要はないってことじゃん。
ええ、普通に箱庭の外でも欲しくなる便利なポシェットだけれど、もちろんポシェットは持ち出せないアイテムだ。
あ、でもあんま変なものを突っ込むとアベルに小言を言われそうだし、食べ物を突っ込めばカリュオンに食べ尽くされそうだし、ジュストはまだ子供だから子供に見せたらダメなものは突っ込めない。
うーん、便利だけれど不便な面もあるな。土砂や水を突っ込んだら確実にアベルに怒られそうだ。
となると個人用ポシェットも欲しいな。どこかで箱庭内でも使える普通のマジックバッグが手に入るといいな。
と思いながら自動売買機でもある商品リストのページを開くと。
■本日限定特売商品■
・箱庭専用のマジックバッグ(小) 3500キノー
箱庭内で使えるマジックバッグ。容量馬車一台分。
現在の所持金:2508キノー
マジックバッグ! 普通のマジックバッグ!!
俺が欲しいと思った矢先に、キノコ君ったら俺の心がわかるのか!?
しかしキノーが少し足りない!
こんなこともあろうかと道中で色々拾ったものや、箱庭の外から持ち込んだものを売ればきっと3500キノーになるはず!!
「キノコのポシェットがあるし、今日の特売商品は買わなくてよさそうだね。前回のラグナ・ロックは珍しいものだし、性質上何かに使えると思ったから無理矢理買うことに賛成だったけど、普通の小さなマジックバッグならいらないね」
「だなぁ、容量も馬車一台分だしなぁ。無理して買わなくてもいいな」
えっ!? アベルとカリュオンは必要ない派?
く、二対一だと俺が不利だからジュストの意見は。
「そうですね、ポシェットがありますしもしもの時に備えてお金は残しておく方がいいと思います。グランさんにも、お金の余裕は心の余裕って教えてもらいましたし」
アーーッ! ジュストまで買わない派だーーーー!!
確かにそんなことをジュストに言った覚えはある。
物資の余裕は心の余裕、素材の余裕も心の余裕、金の余裕も心の余裕。
冒険者たるもの何ごとにも余裕を持って生活をしなければいけないのだ。
そう、金ができたからといってその全てを装備品や素材につぎ込むのは推奨できる行為ではないのだ。
ラグナ・ロックが少し特殊だっただけだ。
ぐぬぬぬぬぬ……土砂や水を詰め込むマジックバッグが欲しいと言い出しづらくなったしまった。
「ピエン」
玄関に入ったところで立ち止まって四人で妖精の箱庭観光のしおりを覗き込んでいると、玄関の外から高い鳴き声が聞こえてそちらを振り向くと、開けっぱなしの入り口に詰まるようにケサランパサラト君が中を覗き込んでいた。
その隙間から蔓が中に入ってきてチョロチョロと揺れているのはケサランパサラト君の後ろにディールークルム君もいるということだ。
裂け目の中を覗いてその奥にいる者の気配に当てられ完全にぐんにょりとしてしまった俺達を心配してくれたのか、ケサランパサラト君とディールークルム君が別荘まで一緒にきてくれた。
もうスゴロクの影響はないけど、生きものの気配はするから何があるかわからないからな。
強い沌の魔力に当てられ精神も体力もごっそり削られてしまったので、彼らが送ってくれたことにより無駄な戦闘が避けられたのならありがたい。
「ああ、送ってくれてありがとうすごく助かったよ。お礼になるようなものはあんま持ち合わせて――」
グウウウウウ……。
お礼に渡せるようなものが携帯食として作ったお菓子くらいしかないなと、ポシェットの中を漁っていたらお腹が鳴った。
ディールークルム君と戦った後に沌まみれの中を進んだから、そりゃ魔力を消費して腹も減っているよなぁ。
「君達、送ってくれたのはありがたいけど、グランに何かたかるつもり……」
グウウウウ……。
アベルの腹も鳴った。
グウウウウ……。
グウウウウ……。
なんか連鎖するようにカリュオンとジュストの腹もなった。
「なんか、みんな腹が減ってるみたいだし残ってる携帯食を食べきって帰るか。もちろんケサランパサラト君もディールークルム君も一緒にな」
帰る前に残っていた携帯食で夜食タイムだ!!
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