第900話◆夜明けの色
「え? 名付け? 俺が?」
「はい、名前が欲しいそうです。沌の魔力影響でスゴロクに乗っ取られかけたのも、名前がないからだそうです。グランさんに名前を付けてもらいたいそうです」
「ピエッ! ピエッ! ピエエエエッ!!」
「あ、すみません。それは言語じゃなくて鳴き声なのでわからないです」
「ヒエエエエッ!!」
「は? 名付け? グランに? まぁ、確かに名前がないならあった方が力は安定して強くなると思うけど……そこでグランを指名なの? 厚かましい草だね! 痛っ! 蕾のくせにどこから種を飛ばしてるの!? 痛っ!」
「えへへ、僕もグランさんに新しい名前を貰ったので、僕も製作に携わったガーディアンにグランさんが名前を付けてくれるなら嬉しいです」
「そういえばジュストって名前はグランが付けたんだったね。ジュストはともかくフクロウの子やワンダーラプター達にはすごく適当な名前を付けちゃってるし、シュペルノーヴァの眷属のチビトカゲにはうっかり噛んじゃって名付けてるし……あれは、噛んだ名前に返事をしたチビトカゲもマヌケなんだけど――って熱っ!! いきなり火を吹かないで! うっかり返事して威厳のない名前になったのは事実でしょ! とにかく、グランに名付けをお願いすると変な名前になるかもしれないよ」
「ああ……グランはたまに変なアイテム名や技名を叫ぶな。まぁ、センスなんてものはみんな違うもんだしな……闇のガーディアンがそれでいいっていうなら、いいんじゃねーのか? 俺は無理に止めねーぞ」
「あ? なんか俺の名付けのセンスが悪いみたいな話になってない? 安心しろ、頼まれたからには真剣に考えてかっこいい名前を付けてやるぜ! え? ヤミー君、やっぱり止めようかなみたいな雰囲気出さないで! 俺の実績を信じろ!!」
「ほらぁ~、そうやって適当な名前で呼ぶから、適当な名付けが完了するんだよ! 実績は九割方最悪な実績じゃないか! でも闇の彼、その名前は嫌そうに見えるけど? ま、俺はその名前も悪くないと俺は思うけどぉ~? 痛っ! だからその種はどこから出てきてるの!!」
ヤミー君(仮)との戦うふりをした楽しいじゃれ合いは、アベル達の大浄化魔法で終了となった。
浄化魔法はかけられたが、すでにナナシの効果で沌の魔法が弱まりヤミー君にはスゴロクの影響はほぼ残っていなかった。
でも残りカスがあると恐いから念のためにね。生きているものにとって聖属性の浄化魔法は害はないからね。ピカピカに綺麗になるくらいだよ。
聖属性浄化魔法のおかげで沌属性の魔力が振り払われるから、沌の魔力の影響で曖昧だった境目がはっきりして、混ざりかかっていたスゴロクの魔力も完全に追い出されたはずだ。
沌と聖は相反する属性。
沌が混沌つまり無秩序ということなら、聖は秩序。
無秩序の状態のものを秩序ある状態に戻す効果が聖属性の浄化魔法にはある。
無秩序に混ざったものを元のあるべき状態に戻すのが聖属性の浄化魔法だ。
死と生の混ざった存在アンデッドに死と生の境目を示し、正しき死の方向へ導く魔法。
付着、侵食した穢れを取り除き元の状態に戻す魔法。
呪いという体や魂に食い込む強力な思念を、異物として解きほぐし追い出す魔法。
秩序を与えあるべき姿に戻す、それが聖属性の浄化魔法だ。
その聖魔法の浄化魔法で正気に戻った設定にしてじゃれ合いを終えた後、すっかり元の姿に戻り蔓も見えなくなった闇のガーディアン君にお願いをされた――名前を付けて欲しいと。
ヤミー君の頭部は花の蕾で口がないので人間の言葉は話せないのだが、人間には聞こえない音域で言葉を発しているらしく、犬獣人で人間よりも広い音域を聞き取ることができ尚且つ自動翻訳スキルを持っているジュストの無双が始まった。
へ、へぇ~、植物って言語があるんだ。もしかしてフローラちゃんも俺が気付いていないだけで何か言葉を話しているのかな?
キノコ君のキノコ語も人間には聞こえない音域の言語らしく、彼と会話できるのは犬獣人の身体能力と自動翻訳スキルの両方を持つジュストだからこそである。
そういえば妖精の類いではない普通のキノコも、人間には聞き取れない音域の言葉で会話をしているという話を聞いたことがあるな。あれは本当の話だったのか……。
でもケサランパサラト君のピエピエは言葉じゃなくて鳴き声なんだ……どこにその境目があるんだ!?
ヤミー君が名前を付けて欲しいと言うと、何故か騒ぐケサランパサラト君。でも綿毛語は鳴き声なので翻訳はしてもらえなかった。
一緒になってアベルも騒いでいるが、そうやってすぐに煽るからチュペに火を吹かれたりヤミー君に変な種を飛ばされたりするんだよ。
っていうか、どさくさでカリュオンと一緒になって俺のネーミングセンスが悪いみたいな流れにするな!
そうそう、名前! 名前な!
名前を貰うと個としての意識が強くなり力が増すもんな。スゴロクの侵食を防ぐためにも名前は必要だな!
よっしゃ、ジュストにジュストっていうかっこいい名前を付けた俺の実績を信じろー!!
毛玉ちゃんとワンダーラプターは名付けをしたつもりはないのだが、名付けをしないように適当な名前で呼んでいたら彼らがそれを気に入っていつの間にか名付けられていただけだ。
新たに名付けをしてあげたいところだが、彼らもその名で満足しているし俺もそう呼ぶ習慣が付いてしまっていて結局その名で定着してしまった。
チュペは……噛んだ俺も悪いけれど、元気良く返事をしたチュペも悪いということでお互い様! 横でチリチリしても、勢いで返事をしたお前も悪い!
というわけで闇のガーディアン、ヤミー君の名付け。
おっと、心の中でヤミー君と呼んでいたらうっかりヤミー君って言葉に出して呼んでしまったぜ。
ヤミー君が拒否したから名付けにならなかったセーフ。
でもヤミー君って名前わりとよくない? わかりやすくて? やっぱダメ?
植物語が聞こえなくても何となくその嫌そうなユラユラでわかるよ。
うーん、うーん……うーーーーーーん……そうだなぁ……闇、闇なぁ……よし、決めた!!
「ディールークルム、ディールークルムなんてどうだ? 夜明けって意味で、夜明け直前の空の色のイメージなんだけどどうかな? ほら、その時の空の色ってすごく深くて綺麗な紫色だろ? 俺、その色がすごく好きなんだ、これから一日が始まる始まりの色みたいな感じで」
少し格好付けすぎかな? やっぱヤミー君のがよかったかな?
「え? グランにしてはすごくまとも。というか無駄にかっこいいからもったいなくない? やっぱヤミーでー痛っ! またそうやって種を飛ばす!!」
「ピエッ!! ピエッ!! ピエエエエエッ!! ビッ!?」
「ケーーーッ!! ケッ!?」
俺の提案した名前にヤミー君が返事をするより先にアベルとケサランパサラト君とチュペが騒ぎ始め、ヤミー君からビシビシと種マシンガンが発射された。
多分ケサランパサラト君とチュペもアベルと一緒にヤミー君の名前を煽ったんだな。
「ガーディアンさんはその名前が気に入ったみたいです。えへへ、僕と同じでグランさんに付けてもらった名前だからお揃いですねー」
「おー、いい名前を貰えてよかったなー。ヤミーはちょっとあれだったからな、拒否しといてよかったな」
アベル達に種を飛ばし終わったヤミー君がユラユラと機嫌良さそうに揺れ、ジュストがその言葉を伝えてくれる。
カリュオンは微妙に俺に失礼だぞ。
「気に入ったならそれが君の名前だ。ヤミー君改めディールークルム君、よろしくな。そして、箱庭の闇を統べるのは君に任せたぞ!」
俺がそういうと、ディールークルム君の体からキラキラと光沢のある紫色の魔力のオーラが上がった。
固く閉じられていた蕾もふっくらと膨らんだ気がする。
これは名付けが完了したということで間違いないだろう。
紫色の魔力は力強い闇の魔力。キラキラと光沢があるのは闇と共に聖属性も含まれているから。
いかにも覚醒しましたといった感じで紫色のオーラを纏ったディールークルムから視線のようなものを感じた。
頭部は蕾で目なんてないというのに不思議なものだ。
その視線と俺の視線が合い、ディールークルムが俺の言葉に応えて力強く頷いた。
その力強さに、彼がもうスゴロクに侵食されることはないだろうと確信した。
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