第897話◆賢いガーディアン

「あー、こりゃ俺が受け止めるよりグランを囮にして逃げ回ってもらう方がいいかなぁ。おっと、そっちにいくぞー! アベル、気を付けろー!」


「あああああああああ! もう少しで魔法が完成しそうだったのに、攻撃を避けるのに中断しちゃったから最初からだよ!! ジュストの方はいけ……なさそうかぁ。ちょっと、グラン! 遊んでないで何とかしてっ!」


「ひえっ! 後ろにいるのに攻撃がー……ああ、僕も魔法が中断してしまいました~。グランさん、どうにかなりませんか!?」


「エッ!? 遊んでないし、めちゃくちゃ真面目にやってるし、でも全く余裕ないし、つまりどうにかしろといわれても……あぁん、拘束プレイは趣味じゃないから、らめぇええええええ!! っていうか、束縛系はノーセンキュウウウウウ!! ぎえええええええ、捕まった! だが、こんなこともあろうかと思って持ってきていた、対植物系魔物用除草剤をくらえ!! こめんね、ガーディアンならちょっとピリッとするくらいじゃないかな!? ていうか、闇堕ち……いや、沌堕ちから戻ってきてえええええ!!」


 長い蔓を無数に伸ばし最前線のカリュオンを無視して、後方で魔法を使おうとしているアベルやジュストを集中して狙うソレ。

 とくにアベルは攻撃の要とばれているようで、かなり執拗に狙われている。

 もちろん俺の方にも蔓がいくつも伸びてきており、アベル達の援護に回りたいと思いながらもいつもより多い荷物がかさばり避けるだけで精一杯。

 重いだけではなく大きさもかさばり、肩からかけているポシェットや腰周りにいくつも付けているポーチも行動の邪魔になっている。そのため油断をすると蔓にグルグルと絡まれ動きを封じられてしまい、絡まれる度にあれやこれやしながら何とか逃げている状況だ。



 再生した森を進み例の割れ目が近付くにつれ周囲がものすごく沌が沌した魔力に満ち始め、そしてソレが俺達の前に現れた。

 暗い夜のせいか、それ自体が闇属性のせいか、それとも割れ目から溢れ出す沌の魔力のせいか。本来は濃い緑色だった本体は黒みがかった緑となり、箱庭にガーディアンとして設置された時は美しく開いていた頭部の白い大きな花は、今は固く閉じた状態になっている闇属性のガーディアン――ジュストとフローラちゃん、毛玉ちゃん、更にアベルの協力もあって作られたリュンヌの花を連想する植物系のゴーレムが、闇の魔力だけではなく沌の魔力を纏い俺達を攻撃してきている。


 割れ目を守っているから? スゴロクの森を焼き払ったから? その両方?

 理由はわからないがとにかく今は、蔓が人を連想する形となり頭には白い花の蕾を付けた植物系のガーディアンが俺達を容赦なく攻撃してきている。

 その様子は本来のガーディアンとしての森を守るという行動に加え、割れ目から滲み出るスゴロクと沌の魔力の影響を受けているものだと思われる。


 沌とは混沌。混沌とは境目のなく混ざり合うもの。

 闇属性と沌属性は元々相性がよく、共存し影響し合いやすい。

 闇のガーディアンが沌属性の影響を受け、スゴロクの魔力と混ざり合いその影響が出てしまったのかもしれない。

 しかもガーディアンの中でも常識的な力しか持っていなかった闇のガーディアン、ラトの作ったやりすぎガーディアンのケサランパサラト君は平気でも、常識的な闇のガーディアンは沌属性との相性もあってスゴロクの影響を受けスゴロクの命令に従って俺達を攻撃しているのだろう。

 スゴロクの森を破壊し、スゴロクの本拠地である割れ目に近寄ろうとする俺達からスゴロクを守るガーディアンとして。


 箱庭に設置されたガーディアンの中では最も常識的な強さで、倒すだけなら何とでもなると思われる闇のガーディアン。

 だが本当に倒してしまっていいのだろうか?

 確かジュストに聞いたキノコ君の話では、ガーディアンは倒さず説得するか、力でねじふせてわからせろって話だったか。


 沌の魔力の影響でスゴロクの魔力に侵食されたよな状態になっているこの闇のガーディアン、纏っている沌の魔力を聖の魔力で打ち消せばスゴロクの影響から解放されるのではないかとアベルとジュストが聖属性の浄化魔法の準備を始めたのだが、ガーディアンを侵食するほどの沌の魔力を打ち消すとなるとそれなりに大がかりな魔法になるため魔法の発動までに時間を要している。

 彼らが魔法を発動させるまでの間カリュオンが最前線で攻撃を引き受け、それを抜けた攻撃は俺が遊撃して後方の安全をキープするといういつもの作戦なのだが、ウネウネと自在に動く蔓による攻撃がカリュオンの盾をすり抜け、いつもよりも動きの悪い俺を翻弄し、アベルとジュストを狙い魔法を完成させる時間を与えない。


 攻撃を避けつつ聖水を振り撒いてガーディアンから少しでも沌の魔力を振り払おうとしているのだが、あまり大きな効果がないどころかその動作の隙を突いて俺を捕獲しようとしてくる。

 苦戦している俺達に呆れるようにチュペが俺の方でメラメラと炎を大きくし、出番を待っている気配を見せる。

 今回はガーディアンを助けることが目的だから、焼き払うのはなしだ。

 ナナシも腰で出番を待つようにカタカタとしているが少し大人しくしてろ。


 俺としてはナナシでスパーッといってもいいと思うのだが、先日アスモダイノナリソコナイ相手にナナシを刺して、後方から触手状の攻撃を刺されるという失態をやってしまったばかりなので、ウネウネ系のこいつにナナシで斬りかかるのはアベルにものすごく反対され、アベルとジュストが浄化魔法でやることになった。

 あれは結構痛かったもんな。

 ぶっちゃけウネウネ系の相手に軽いトラウマができてしまった。

 だが、アベル達が魔法を使えないようなら俺がナナシを使うしかない。


「もう、狙われすぎて魔法が使えないよ! うぎゃっ!」

 ああー、アベルの足に蔓が巻き付いて足から引っ張り上げられて逆さまに宙づりにされてしまったー。

「アベルさん、今助けに……うわぁ!」

 アベルに気を取られて隙ができたジュストも蔓に巻き付かれて動きを封じられたぞー。

「くっそ、蔓の数が多くてどんなに挑発をしても後ろにも攻撃をされちまう」

 蔓の攻撃で後ろが壊滅しかけて悔しそうなカリュオンだが、これだけの数の蔓が四方八方に広がれば全部タンクが受け止めるのは無理である。

 これは植物系、とくに蔓系植物の魔物の厄介な面である。

 ガーディアンだからあまり傷つけないようにと思って手加減をしているため、なおさら他方面からの攻撃に防戦になりこのグダグダ戦況。


 アベルとジュストは蔓に捕まっても自力で抜け出せると思うが、抜け出した後もまた蔓に狙われて大きな魔法を使うのは無理そうだ。

 この闇のガーディアン、ガーディアンだからこそ知能が高くどこから狙えばいいかちゃんとわかって攻撃をしている。

 タンクであるカリュオンに集中すると、後方のキャスター達がフリーになり魔法をバンバン撃ってくることをちゃんと理解して、まずはアベルとジュストの行動を封じた。

 そしていつもならそうならないように、カリュオンの盾から漏れた敵を遊撃する俺へ牽制も徹底していた。


 その行動はまるで俺達の連係のパターンを把握しているよう。

 このガーディアンの作成にアベルも力を貸していたようだから、アベルの記憶や知識も紛れ込んでいて俺達の手の内を読まれているのか?

 だとしたら想像以上に厄介な相手に違いない。


「あー、もうこれはしょうがねーな。フローラちゃんと毛玉ちゃんの力作ガーディアンだと思うとあんま傷つけたくはないが、仲間の安全の方が優先だな。それに植物だから蔓を少し切り落とすくらいならほとんどダメージはないよな。それで、大丈夫だよな?」

「ピエッ!」

 ついてきたけれど戦いに参加することなく応援だけしているケサランパサラト君の方を振り返ると、それで大丈夫みたいな返事が返ってきた。

 ラトの作ったガーディアンで相変わらず少し酒臭くてやや不安なのだが、その返事を信じるからな。


 そうだな、やっぱ沌属性を振り払うならお前だよな。

 ベルトでカタカタとしているナナシに手をかける。

 チュペもそろそろ出番かと、好戦的な気配とメラメラと火の魔力をほとばしらせている。


 じゃあやろうか、闇のガーディアンちゃんの予想できない戦い方を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る