第895話◆これぞパーティープレイ

「ちょっとグラン!? 水で更に炎上するなんてどうやって消すの!? またあの感じの悪い火トカゲに頼るつもり!? 熱っ!! その耳飾りっていうか、耳飾りの中にいるやつの躾がなってないよ!! 性悪剣にしろ、耳飾りにしろちゃんと躾けて!! 痛っ! 熱っ!」

 まったくぅ~、アベルは騒がしいなぁ~。


 ほぉら、そうやって性懲りもなくナナシやチュペを煽るから、謎の金具やら謎の火の粉を飛ばされるんだ。

 どっちも躾がなっていないというか、金具癖や炎癖が悪いのは間違いないのだが。

 いてっ! あちっ! 俺にまで攻撃をするな! アベルだけを狙っとけ!!


 しかしあまり大きく燃え広がる前に消しておかないと前回みたいなことになりかねないから、ほどほどのところで消火作業に入るとするか。

 俺達の目的はスゴロクの影響を取り除き、箱庭に環境を修復させ箱庭に魔力を消費させること。

 スゴロクをぶち壊せば、スゴロクの魔力も削れて一石二鳥! 一岩二竜!!

 なのだが、キノコ君が住んでいる場所の近くやスゴロクの影響がなく平和な場所まで破壊してしまっては、ただの環境破壊である。

 あくまでスゴロクの影響を受けたダンジョンが形成された場所だけが破壊工作のターゲットである。


 というわけで、今回は昨夜ほど大規模なスゴロクの森ではないようなのでほどほどで消火!!

 チュペが今にも飛びだしてきそうな感じでソワソワしているのだが、今回はチュペを頼らずに消火するかなぁ。

 ナナシもカタカタしているけれど、おめーが斬れそうなものはまだないから。

 そろってシューンとした感じになっても今回は俺達で何とかするよ。毎回チュペに自分の後始末を任せるような人間にはなりたくないんだ。


 ま、収納スキルを封じられた俺にはなんともできないので、アベル達に丸投げなんだけどな!!

 これは後始末を押しつけているのではなくチームプレイ! 役割分担! 気心知れた仲間との連係プレイ!!

 消火方法を教えればアベルが何とかしてくれる! カリュオンやジュストもいるからきっと問題ない!

 いや、教えるまでもなくすぐ気付くかな? それともジュストの方が先かな? カリュオンはすでに察しているかなぁ?


 今のアベルは、森火事にテンションが上がりまくったところで火事に水をかけて爆発的に燃え上がったせいで混乱してしまい正しい消火方法に思い至っていないようだが、少し冷静になればすぐに気付くだろう。

 ジュストももしかすると日本にいる頃に金属火災の消火方法を理科の授業で習っているかもしれないし、テレビの情報番組で見ているかもしれない。

 カリュオンも故郷が森の中なら、あらゆる森林火災のパターンと対処方法が頭に入っていそうだ。


「水で消せないなら別のもので消せばいいだけってか? そうだろ、グラン?」

 さっすが、カリュオン。

「あぁ……そうか、水がダメなら他のもので埋めればいいじゃない」

「そういえば、防災訓練でやった記憶があります! その時は焚き火サイズだったので砂をかけてました!」

 カリュオンのヒントでアベルとジュストも気付いた。

 というわけで後はお任せだー!


「でもこの広範囲に砂や土を魔法でかけて消火をするのは魔力の消費が大きくなりそうだよ」

「だなぁ、でも魔力を消費しても今回はグランの携帯食があるから、それに期待して森を埋めるかぁ」

 あー、雨と違って広範囲に土砂を振らせるのは確かに魔力消費がでかいな。

 魔法が使えなかったからそこまで考えてなかったぜ。

 ま、シュペルノーヴァの住み処から持って帰ってきたすっごいリュウノコシカケを使ったクッキーもあるから大丈夫大丈夫。


「そういうことだったら、いいものがあります!」

 そこでパッと手を上げたのは、キラキラした顔のジュスト。

 何だろう、何だか嫌な予感がするぞ。


「オルタ・クルイローのすごい古物屋で買った謎の砂時計アッスーナです。普通の砂時計としても使えるけれど、割ってしまうと町一つ埋もれるくらいの砂が出てくるから困った時の護身アイテムとなるといわれて、すごく安かったのもあってつい買ってしまったのですが使いどころがなくて持て余してました。持って来てよかった~、これぞ備えあれば憂いなしってやつですね!」


 ジュストのポーチの中からスッと出てくる少し大きめの砂時計。

 いやいやいやいやいや、そんな物騒な砂時計をなんで買った!? なんで普通にポーチに入れて持ち歩いてる!? というか、なんで持ってきた!? 持って来てよかった~じゃねーぞ!?

 そもそも、物騒な砂時計を売っている古物屋イズ何!?

 いったいそれを何に使うつもりだったんだ!? 町一つ埋もれるくらいの砂って護身アイテムじゃなくてマップ兵器だろ!?

 それは備えあれば憂いなしではなく、備えたものが憂いだ!!

 ダメだ、ドリーのところでジュストにこの世界の常識を教えていないのかもしれない。俺がちゃんと常識を教えてやらないと。

 ついでにその謎の古物屋、近いうちに一度俺も見にいっておこう。


「ちょっと、ジュスト!? 何それ!? その砂時計、俺の究理眼を弾くよ! そんなもの気軽に使おうとしてないで! とりあえず自分のポーチじゃなくてグランの持ってるキノコポシェットに入れておいて! 割れたら町が砂で埋まるようなものをそのまま持ち歩かないで! とりあえずここは俺とカリュオンで消火するから、ジュストはグランと一緒に大人しくしておいて!」

「おう、その砂時計は面白そうだから、もっと別の適した機会の時まで残しておけ」


 アベルの顔は引き攣っているし、カリュオンは苦笑い。きっと俺と同じように嫌な予感がしたのだろう。

 その砂時計、なんだかすごそうだけれど今はきっとまだ出番じゃない。いつかきっとそれがもっと役に立つ日がくるからそれまで残しておくんだ。


 そして俺から始まった森林金属火災は、アベルとカリュオンがヘロヘロになりながら砂嵐を起こして森を埋め立て無事に鎮火した。


 俺が燃やして、仲間が消す。これぞ、パーティープレイ。

 金属火災と事後処理は計画的に。






「満天の星の下のティータイム、これはこれで悪くないな」

 空一杯に散らばる星の美しさにため息が溢れる。


 頭上を覆っていた木々は焼け落ち、激しい砂嵐になぎ倒されて、そして砂で埋まり、俺達の頭上には障害物に遮られることのない星空が広がっている。

 その光景は滅んだ文明の跡地のようにも見え、非常にエモーショナルな光景にも見える。


 俺達は砂に埋もれた元スゴロクの森の隅っこに座り込み、一仕事終えた後のティータイム。

 ティータイムといっても、いつものようにテーブルや椅子があって豪華なティーセットと高級紅茶に俺の手作りスイーツがズラリと並ぶ優雅なものではない。

 今日は収納スキルもアベルの空間魔法の収納もマジックバッグも使えないため、持ち運びに困らないだけの物資しかない。


 リュックなんていつぶりだろうか。ポーチもいつもよりたくさんつけて、いつも以上に冒険者らしい恰好になっている。

 荷物は重いけれど、それはそれで初心に返ったみたいで悪くない。

 もうずっと収納スキルやマジックバッグありきでの行動が当たり前になっていたが、この箱庭のような場所が他にもないとは限らない。

 突然そういう場所に放り込まれることになった時を考えて、収納スキルやマジックバッグに頼らない物資も日頃から備えておかなければいけないと今回のことで実感した。


 金属製のカップに乾燥させた薬草の葉を入れ、小さな簡易コンロと小さな鍋で湧かした湯を注いだだけの簡素なお茶と、俺が作ってきた薬草クッキーだけがティータイムのメニュー。

 よく見る冒険者の休憩風景だ。


「はー、森を燃やす必要はあったかもしれないけど、あの爆弾はないでしょー。やばいくらい魔力を大量消費したからクッキーがすごく美味しく感じるよ。普段なら胸焼けがしそうなバターと砂糖タップリクッキーだけど、薬草の苦みとほんのり塩味のせいで手が止まらなくなっちゃうよ」

「ああ、クッキーで口の中がパサパサになるから、この薬草のにおいの強い茶でも気にならずに飲めるな。あ、リュウノコシカケのクッキーがなくなっちまった……次からは疲労回復も魔力回復もポーションかー。ということだから放火はほどほどにしてくれよ、グラン」


 魔力回復効果のあるリュウノコシカケクッキーをボリボリとすごい勢いで食べるアベルとカリュオン。

 やはり魔力を大きく消費した後なら、持ち運べる量くらいなら一瞬で食べ尽くしてしまうか。

 俺はそこまで魔力は使っていないので、体力回復効果のある水属性のドラゴンフロウクッキー。


「僕はあまり消耗していないので、僕のも食べますか?」

「いや、それはジュストの分だからギリギリまで自分のために残しておけ。それは今に限らず、冒険者活動をする時は必ずだ。自分の食料はギリギリまで自分のために残しておくんだ、他人に分けるのは本当にどうしようもない時だけだ。それが自分のためにも相手のためにもなるはずだから」

 アベル達に自分のクッキーを差し出そうとしたジュストを手で遮る。


 そう、簡単に他人に食料を分けていけない。分ければその場で食べてしまうから。

 もちろん切羽詰まれば俺も状況を見てアベルやカリュオンに追加で食料を渡すつもりだが、今はまだその時ではない。


 クッキーは一人分ずつに分けてそれぞれに渡していたが、魔力の消費の激しい二人のために予備の食糧もこっそり持って来ている。

 それのお披露目はもう少し後かな。



 俺達の前には森を埋めた砂、その隙間からはまだ消えず燻る炎の赤い光が闇の中に漏れている。

 金属による火災は鎮火に時間がかかるから、自然のある場所ではやめた方がよかったな。マジックバッグなしで持ち運べる爆弾だが使いどころが難しい。


「ケーーーーッ!!」


 その赤い光が残る元森の上をチョロチョロと走り回る小さな炎のトカゲ、チュペルノーヴァ。

 チュペが走り回ると、近くで燻る小さな炎がヒュッと吸い込まれて土砂の隙間に残っていた赤い光が黒く消えていく。

 森の大火が収まった後、ソウル・オブ・クリムゾンからシュルッと出てきて森の残骸の上を走り回り残った炎を吸い込み始めた。

 それは俺達の後始末をしてくれているのか、それとも炎を吸収して自分の力にしているだけなのか。


 そして森の残骸の上を走り回っているのはチュペだけではない。


「ピエーーーーッ!!」


 森が鎮火した頃どこからともなくやって来た綿毛のガーディアン、ケサランパサラト君もピョンピョンと跳ねている。

 跳ねて飛び散った綿毛が地面に落ちそこから新しい緑が芽吹き、焼け落ち土に埋もれた森が再生していく。


 今日もサクッと森を救ったようだが、その焼け落ちて土に埋もれてまだ再生していない森の向こうには夜の闇よりも黒い闇が僅かに見えていた。


 そこは俺達のいる場所からまだ距離があるが、俺達のいる方にそちらから風が吹き抜けるとゾクゾクするような沌の魔力を感じ、闇よりも黒い闇が見える場所にあの裂け目があるということを確信させられた。










※カドコミ様にてコミカライズ版グラン&グルメの5話(前半)が公開されてます!

ついに彼らがっ!!

それとグランの普段着姿というか装備の中身だけ姿も見られるのでぜひ覗いてみてください。

いいよね……戦闘職のアンダーウェア姿とか普段着。

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