第885話◆妖精の箱庭観光のしおり

 キノコの別荘へようこそ。

 森をスゴロクから解放していただきありがとうございます。


 こちらの別荘は森を解放していただいたお礼になりますので、お客様が箱庭に滞在する時に敷地内の設備を含め全てご自由に使って下さって問題ありません。

 敷地内の花壇、畑、果樹園もご自由にご利用下さい。またそこに植えてあるものもご自由にお採りいただいて結構です。

 またこの度のお礼の品もご用意しておりますので、報酬の品はアイテムお預かり棚よりお受け取り下さい。


 ■報酬:森解放■


 ・キノコポシェット(小)

 ・1000キノー



 ※オーナーのキノコへの連絡はこちらのポストからお願いします。




 左閉じの本の表紙をめくった最初のページにはそう書かれてあり、本が置かれている棚には小さな木製のポスト、その横にレターセットとペンが置かれていた。

 なるほどキノコ君に連絡をする時はポストから手紙を送れってことか。


 というか報酬! 森をスゴロクから解放したから報酬が貰えるのか!?

 受け取りはアイテムお預かり棚? アイテムお預かり棚ってどこだ!?


 パカッ!


 アイテムお預かり棚とやらを探してキョロキョロとしていたら、本が置いてある玄関脇の棚の扉がパカリと開いた。

 その中にポチョンと置かれているのは――キノコ型の可愛い肩掛けポシェットだ!


「報酬がその小さなポシェット? あ、それマジックバッグじゃん。容量は少なそうだけどないよりある方がいいよね。グランがこれ以上脱がなくてすむよ。それにこの棚も空間魔法がかかってて見た目よりは多くものが入るみたい」

「マジックバッグはありがたいな。しかしグランは服を手に入れないことには、脱がなくても脱げることにはなりそうだなぁ。おっと、俺はタンクだから装備は譲れないぜ」

「ふぇ……偽のグランさん達に貰ったものが全部消えちゃって僕も服が部屋着だけに。ごめんなさい、グランさんに渡せる服はないです!」


 小さなポシェットだからあまり物は入らないけれどないよりマシか、と思いながら棚の中のポシェットを手に取る俺。

 横から覗き込んで俺が鑑定するより先にポシェットをマジックバッグと断定するアベル。


 え? マジックバッグ!? マジで!? マジだよ! 俺の鑑定でもマジックバッグって見えるな!

 ここまでものがあまり持てなくて苦労したので小さくてもマジックバッグはありがてぇ!

 そしてこの棚も空間魔法がかかっているのか。

 今は預けるようなものはないけれど、持ち歩く必要のないものはここに預けておけるのかな?


 服はなくともマジックバッグとものを預けられる棚はありがてぇ。

 いや、服も欲しいんだけど。カリュオンとジュストは生温い目で俺を見ながら、俺から自分の服を隠すようにキュッと握りしめてんじゃねえ!

 くそぉ、俺の半裸生活はまだ続くのか!?


 それからキノーって何だ? 数字の後に付いているってことは単位か? もしかして箱庭界のお金!?

 お金! お金欲しい! お金どこ!?

 アイテムお預かり棚の中にはないな、どこかに金庫みたいなのがある感じなのかな。一通りこの本に目を通したら別荘内を探してみよう。


 とりあえず最初のページに書かれていたことは読み終わったのでページをめくって次のページへ。






 ■現在の使用可能な施設及び機能■


 別荘本館/敷地内耕作地/それらに付属する機材

 ポスト/アイテムお預かり棚(小)/自動売買機/仮の扉


 ※今後、お客様の実績により新たな施設及び機能が解放されます。

 ※自動売買機能と扉については次のページご覧下さい。




 なるほどなるほど、自動販売機ならぬ自動売買機まであるのか。

 キノコポシェットを貰えたがあまり容量は多くないみたいだし、アイテムお預かり棚にも空間魔法はかかっているようだが、あまり容量は多くなさそうだからいらないものは金に変えるべきだな。

 アイテムお預かり棚は、荷物を預かってくれる感じかなぁ。持ち歩ける荷物に限界があるから助かるぜ。

 って、仮の扉って何!?


 自動売買機の利用方法と仮の扉とやらは次のページか。

 次のページ、つまり見開きの右側のページだ。






 ■自動売買機能ご利用方法■


 商品の売買はこの本の商品リストページ及び売却用ページで行えます。

 商品のご購入は、商品リストページを開き商品名をなぞりますと、右のページに商品の詳細が表示されますので、ご購入の場合は数量を選んで表示された決定かキャンセルを選んで文字をなぞって下さい。

 購入された商品はアイテムお預かり棚の中に入ります。棚の容量にご注意下さい。


 物品の売却は、売却用ページを開き左のページに売却希望のものを置かれますと、右のページにそのものの詳細と金額が出ますので表示された決定かキャンセルを選んで下さい。

 またアイテムお預かり棚の中からも売却が可能です。


 現在の所持金:1000キノー




 ほええええ……ただの本っぽいのにこれでものの売り買いができるのかー。

 しかもアイテムお預かり棚とリンクしてる?

 すげー! 超すげー魔道具じゃない!? どうなってんだこれ!?


 俺の後ろから本を覗き込んでいるアベルもその仕組みが気になるのか、金色の目をギラギラさせながらすごく真剣な顔になっている。

 俺でも気になるんだから、魔法大好きなアベルはもっと気になるよなああああ!!

 ま、気になってもどうなってるかなんてわかんないから深く考えるのはやめよう。

 そう、ここは妖精の箱庭の世界なのだから。


 そしてキノーはやっぱ金の単位だった!!

 うおおおおお!! 買い物ができるぞおおおおお!!

 しかも所持金がこうやって本に表示されているということは、まさかのキャッシュレス決済!?

 俺達の世界はクソ重たい硬貨を持ち歩かないといけないっていうのに、箱庭世界は先進的だぜ!!


 そして自動売買機の説明から下に視線をずらしていくと――。






 ■仮の扉について■


 ご自宅にご帰還の際はこちらから。

 再来の際は帰還の際にお渡しする仮の鍵で扉を開けて下さい。

 仮の鍵で扉が開けられるのは一日に一回だけなのでご注意下さい。


 こちらは箱庭内部が安定するまでの間の仮の扉になりますので、現在は持ち出せるものと持ち込むものに制限がございます。

 またそれに伴い、空間魔法及びそれに類似するスキルや魔道具の利用も制限されております。

 これらは箱庭内の環境が整い次第改善される予定になっております。


 お客様の世界で身に付けているものとお手持ちのものは、そのまま持ち込むことができます。

 ただしマジックバッグ等の空間魔法が付与されたものは箱庭内部では使えません。

 例外として、箱庭内で手にいれた空間魔法の付与されたものはご利用できますのでそちらをご利用下さい。


 また現在箱庭に入れるのはヒトだけです。

 女神や酒臭い珍獣、謎の小動物はご遠慮下さい。かといってでっかくてもダメなものはダメです。というかもっとダメです。

 ヒトにくっついてくる謎生物や謎装備は百歩譲ってよしとします。ただし外部からの干渉は制限されます。

 フクロウと花の子は歓迎しますが、まだまだ箱庭は危険なので安全になってからのご招待いたしたいと思っております。




 え? もしかしなくても家に帰れるやつじゃね? やったーーーーー!!

 しかもまた来ることができるっぽい?

 鍵を使って一日に一回ということだから、一度戻ってまた日を改めてくればいいのかな?

 つまりそうやって、何度か往復して箱庭をなんとかしろってことで、ここはその拠点としてキノコ君が提供してくれたのか。


 施設もそれなりに調っているいるし、自動売買機があったり畑があったりで箱庭終焉の危機にもかかわらずなんだか少し楽しくなってきたぞ。

 しかも自由に使っていいってことはここは俺達にとっても別荘みたいなもんだな。

 や~、別荘まで用意してもらったなら仕方ないなぁ~。仕方ないからパパッと箱庭世界を救っちゃいますか~。


 そしてラト達はやっぱり出禁。

 毛玉ちゃんとフローラちゃんは適度にしか弄っていないから歓迎されているのか。

 箱庭が平和になったらキノコ君に招待してもらうといいかもな。


 それからカメ君のくれた耳飾りスピリットオブカレントが沈黙しているのも、アベルが先ほど言っていた理由で正解だったようだ。

 ソウルオブクリムゾンが動いているような感じがしたのはチュペが隠れていたからっぽいから、こっちもシュペルノーヴァの力はやはり届いていない。

 謎生物や謎装備はチュペやソウルオブクリムゾンのことだな。装備ってことはナナシも身に付けていればいけるのかな?


 空間魔法や収納の類いはやはり使えないが、この箱庭内で作られたものなら使える。

 だから偽物の俺がジュストに渡したマジックバッグは使えたんだな。

 なるほど、それで森をスゴロクから解放した報酬が小さなマジックバッグだったのか。


 グウウウウウ~~~~。


 本に目を通していると、誰の腹かわからないが腹の音がした。

 お、俺じゃないぞ!!

 いや、俺の腹かもしれない。

 というか腹が鳴ったのは一人だけじゃないのかもしれない。


「一度帰ることができるみたいだし、一回戻って飯を食ってゆっくり休んでから箱庭を救う戦いを再開するか」


 腹が減っては戦はできぬ。

 どうやらお家に帰られるようなので、続きはコンディションを整えてから。

 そして次に来る時は準備万端で!!



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