第878話◆光のガーディアン

「そういえば偽物のみなさんが、森林破壊をしていると森の主――ガーディアンが出てくるかもしれないので気を付けるようにと言ってました」


 うおおおおおおおおい!! ジュストおおおおおお、そういうことは早く言ええええええええええ!!


「それからキノコさんが、箱庭の魔力が溢れそうなのはガーディアンが好き勝手やっているのも原因の一つなので、どうにかわからせて仕事をさせてくれと最初に言っていたのを思い出しました!!」


 うおおおおおおおおおい!! 無茶振りが過ぎるぞおおおおおおお!!


 というか、大事なことはもっと早く思い出して欲しかったなあああああああ!!

 でもジュストはここに入ってから辛いの連続だったから仕方ないかーーーー!!


 燃え上がる夜の森に降り注ぐ光の粉。

 火属性とそれを煽る風属性に満たされた、この場には不自然な光属性の粉。

 ジュストが俺達を守るために光属性の防御魔法を使っているが、それとは別の存在の魔力。


 そりゃ、ついこないだガーディアンを設置したから森を守るためにガーディアンが出てきてもおかしくないよなぁ。

 ジュストの言葉がなくともすぐに確信していただろう、この光の粉がガーディアンの一部であることに。


 って、今のこの貧相な装備の状態でガーディアンと戦うことになったらやべーぞ!?

 ガーディアンってあれだよな、ラト達が作っていたゴーレムだろ? 絶対やべーやつじゃん!!

 光属性ということはきっと――。


 いや……まだだ、まだ戦うことになると決まったわけではない。

 俺達はめっちゃ放火の現行犯だが、放火大好きで一緒に放火を楽しんでくれるタイプのガーディアンかもしれない。

 それに俺とラト達の仲ならきっと話せばわかってくれる! きっと!!




 火魔法により放たれた炎が風魔法に後押しされ森を蹂躙するように燃え広がるうちに、その制御はとっくにアベルとカリュオンの手を離れ渦巻くように高く燃え上がっていた。

 燃え上がる炎のから舞い出る赤い火の粉に混ざる、雪のように白い光の粉。

 幻想的な光景に目を奪われそうになるが、その白い光が何かの生きものだと気付くまでには時間がかからなかった。


 雪? 光の粉?

 違う。遠くからはそう見えるが、目の前にそれが舞い降りてきてはっきりとその正体に気付く。


 綿毛!?


 それはポポの花が散った後の丸く白い綿毛のよう。

 風に流されふわふわと宙を舞う様子もまさにそれ。


 そしてその綿毛のような生きものとは――ケサランパサラン!?


 ケサランパサランとは、手のひらにいくつも乗りそうなほどの小さな綿毛のような姿をした、妖精。

 ふわふわと風に乗って漂い、もし捕まえることができたら幸運を掴むともいわれている。

 植物や動物の綿毛などに交じり意外と身近な場所にいるのだが、あまりに自然な形で周囲に溶け込んでいるため存在に気付かないことの方が多い。


 気付いて掴もうと手を伸ばすとフワリと宙を舞い、スルリと指の間を掻い潜ってふわふわと逃げていき、捕まえられそうで捕まえられない。

 そして気付けばどこかに消えてしまっている。

 諦めた後に髪の毛や服にくっついていたり、気付けばすぐ傍に戻って来ていたり。


 それはまさに幸せというものの在り方と同じ。

 当然のようにすぐ傍にある時は気付かず、気付いて掴もうとすればフワリ逃げていき、追えども追えど捕まえさせてくれなくて、それを追い回している時は必死で意外と楽しい。

 結局捕まえることはできず逃げられたかと思えば、いつの間にかすぐ近くにある。


 己が幸運なだけで実は周りはそうでもない幸運詐欺の迷惑フラワードラゴンと違い、幸せの在り方に気付かせてくれるほのぼの妖精である。


 そういえばラトが作っていたガーディアンが光属性の謎の毛玉だったな……なるほどあれはケサランパサランに似せたもの?

 確かにケサランパサランは光とか聖属性の魔力を好む――のだが、ただのラトの抜け毛の塊がケサランパサランっぽい形になっただけかもしれない。

 いや、きっとそうだな。

 だって降り注いでいる綿毛、なんか酒臭……っ。

 やだ……ほのぼの幸せ妖精ケサランパサランのイメージを壊さないで。 


 まぁ、酒臭いせいで確信が持てたのだが。

 ラトの作った光属性のガーディアンが、この放火騒ぎで俺達のところに来てしまったようだ。



 火の粉に混ざりハラハラと舞い降りてくる無数の小さな綿毛。

 地面に落ちても消えることなく次々と降り積もり、森を燃やす炎に赤く照らされる地面に白い染みが広がっていくよう。

 綿毛はさらに降り積もり続け白い染みにこんもりとした厚みが見えるようなる頃、白い染みモコモコと動き出して纏まり始め。



「ビエエエエエエッ!!」


 

 高さは俺の身長、横幅は俺が両手を広げたくらいの大きな綿毛となり、甲高い咆吼を上げた。


 巨大なポポの花の綿毛のような白いナニカ。

 綿毛の中には咆吼を上げた大きな口とその口の中に鋭い牙が見え、口の上にはちんまりとしたつぶらな赤い目。

 口の中の牙を見ていなかったら可愛いとか、ダイブしてモフってみたいとか思っていたのが、チラリと見えてしまった牙が嫌な予感を掻き立てる。


 巨大綿毛の背後で激しく燃える森が、綿毛の心を現しているのではないかと勝手に思ってしまうのはあの牙を見てしまったせいか。

 その森を燃やし尽くす勢いの炎の中に、例の木の看板が見えた。

 そこに書かれていた文字も。


 "光のガーディアン、ケサランパサラトが現れた!! どうしますか?"


 ケサランパサラト。

 なんだその酔っ払いが適当に付けたみたいな名前は!!

 ああ、その白い毛玉を作ったのは白い酔っ払いだったな!


 どうしますか?

 適当すぎる綿毛の名前と一緒に文字が見えたのが、その続きを見る前に炎に包まれた看板は一瞬で灰となり、おそらくその先に書かれていたであろう選択肢を見ることはできなかった。


 だが問題ない。

 俺達は自分で考えることのできる者だ。スゴロクのルールにも、スゴロクが示す未来にも従わなくていい。


「どうしよう、なんか酒臭い変なのが出て来ちゃったと思ったら、ケサランパサラトだって。これ絶対にラトの作ったガーディアンでしょ。今の状態で戦うの厳しくない? 森を燃やすのに結構魔力を使っちゃったし」

「主様の作ったガーディアンならそこそこ強そうだなぁ。盾もねーし、伐採で風魔法を使ったら腹も減ってきたしどうしたものか」

「ガーディアンは倒してしまうと、その属性の管理者がいなくなって魔力が不安定になるので、仕事をしていないガーディアンだけど倒さずに説得するか、適当にボコボコにしてわからせてやってくれとキノコさんが言ってました!!」


 謎の巨大綿毛の出現に、森林破壊に夢中だったアベルとカリュオンが破壊活動をやめ俺の横に並んだ。

 お前らが魔力を使いすぎたのも腹が減ってきたのも、盛大な森林破壊のせいだろ!? ここまで燃やす必要あったのか!?

 キノコ君のお願いの件でもあったが、ただ単に楽しくてやってだろ!?

 それとキノコ君のお願いはやっぱり無茶振りだな!!


 それでどうしようか?

 って、決まってんだおおおおおおお!!


「逃げるかーーーー!!」


 クルッと身を翻しケサランパサラトに背を向けて全力で走り出す。

 装備も物資も調っていない、しかも周りは火の海。こんな状況で戦えるわけないだろおおおおおお!!


「だよねーーーー!! ジュスト、いくよ! 逃げ遅れちゃだめだよ!」

「そうだよなーー!! ジュストもよく覚えておけぇ、これがデキる冒険者の戦略的撤退だぞぉ!!」

「え? 戦略的撤退!? あ、はい!! 撤退、了解しましたあああ!!」


 さすがアベルとカリュオンは熟練冒険者、そして付き合いが長いだけあって、この状況で俺が迷わず撤退を提案すると予想していた。

 だから、ケサランパサラトの出現ですぐに俺のところに集まった。

 そしてジュストもすぐ指示に反応して、全員で速やかに撤退。



「ピエエエエエエエッ!!」



 俺達が逃げだしたら、当然ケサランパサラトが俺達を追いかけてきたのだが。



「ピエッ!? ピエ!? ピエエエエエエ!?」



 ケサランパサラトの妙な鳴き声に振り返ると、フッサフサの綿毛に舞い散った火の粉が付着して燃え始めてるーーーー!!


 ひええええ……炎上したままフワフワボヨンボヨンと跳ねながら追いかけてきてるううううう!!


 ところで君、すっげー燃えているけれど大丈夫!? 赤い目がめっちゃ涙目になっているけれど大丈夫!? そりゃ、綿毛だからよく燃えるよねーーーー!?


 もしかして助けた方がいいやつ? 燃えちゃってガーディアンがいなくなるとまずいやつだったりする!?


 逃げるか、助けに引き返すか、どどどどどどどどうすりゃいいんだ!?




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る