第873話◆きっと何とかなる

 カリュオンが合流して魚が微妙に足りなさそうなので、魚を食ってハラペコから立ち直ったアベルが光魔法で網を作って魚を纏めて獲ってくれた。

 雷魔石ならまだあるので投げ込もうとしたら、それはもしもの時のために残しておけと言われてしまった。

 アベルにしては珍しく先のことまでちゃんと考えているので、魚を捕まえるのはアベルに譲って俺は魚を焼く係に専念することに。


 魚を完食した後は腹が落ち着くのを待ちながらもう少し休憩。

 いつの間にか立っていた"食べ過ぎて三回休み"の看板にイラッときたが、どこかでふりだしに戻るループをしていそうなジュストのことは心配なのだが、多くの制限のあるこの場所ではコンディションを整えてから動きたい。

 それにジュストがふりだし付近でループしているとしたら、そう危険なマスはないはずだから。

 ジュストは運が悪いけれど、その運の悪さの中にどこか微妙な幸運が紛れ込んでいる気がする。

 不運であることには変わりないのだが、毎回ギリギリのところで助かっている幸運。

 楽観的になりすぎるのはよくないのだが、きっと今回も……無限にふりだしに戻っているか、無限に一回休みを踏んでいるかしている予感しかしない。

 

 何とかなる。何とかする。

 助けにいくつもりが俺達がジリ貧にならないように、できる準備はしっかりとしておく。

 少しの時間を急いたがために、大きな時間をロスしてしまっては意味がないのだ。

 そして何とかなるように仕込んでおくのが俺の役割であり、俺自身も気に入っている仕事だ。


 出てくる敵をなぎ倒すのは魔法で超火力の出せるアベルと、装備の揃っているカリュオンの仕事で、俺は彼らが上手く立ち回れるように、必要な時に力を出し切れるようにサポートをする役。

 基本的にサポート役のつもりだが、カリュオンが持っていたショートボウと矢を貸してくれたため、少しだけだが火力に貢献できそうだ。

 それでもサポート役というスタンスを忘れることなく、今のうちにできることはやっておく。

 俺の器用貧乏もクリエイトロードもそれに適したギフトなのだから。


 空を見上げると相変わらず空に月はなく、星の位置は俺がスゴロクをスタートした時から僅かしか移動していないように見える。

 空間内の環境に時間が固定されているタイプの空間なのか、あったとして相当緩やかな進み方なのか、それとも条件次第で変化するタイプなのか。

 カリュオンが時間魔法式の時計を持っていたが、ダンジョンによくある時間魔法を阻害する力が働いているようで、ここに引き込まれたと思われる時間で時計の針が止まってプルプルと震えていた。



 休憩をしながら俺は手持ちの装備の調整を始めた。

 まずはカリュオンに借りたショートボウの弦をユニコーンの尾の毛に張り替える。

 適当な木の枝を簡易的な弓に改造するつもりで毟った毛が、思った以上に大活躍することになりそうだ。


 毟った毛の量は多くないが、俺の合成スキルを使えば一本の頑丈な長い弦にすることもできる。

 手早く弦を張り替え、ユニコーンの尾で作った弦には耐久と威力アップの付与を、同じく矢の方にも威力アップの付与をしておく。


 小型の弓と練習用の矢で弱い付与しかできないとしても、小さな火力がいくつも積み重なることによって最終的に大きな火力になるのだ。

 だからたったこれだけだと疎かにしてはならない。

 今の俺達にはその"たったこれだけ"の積み重ねが必要なのだ。


 それから偽物アベルに貰ったグローブの付与を魔力特化系の付与から物理火力特化に書き換える。

 これは竜皮製のかなり良いものなので強引に強力な付与ができ、武器が貧弱な俺の火力を大きく強化してくれる。


 そして魚の下ごしらえでも弓の改造でも大活躍だった、道中で拾った鉄製の小刀君。

 魔法鉄製の小刀なので少しくらいなら付与ができるため、これも威力アップ系の付与をしておく。 

 どうせ防具どころか服すらまともにない俺だから、もう防御は捨てて全て火力にしておくのだ。


 というかズボンもスリッパもすでにボロボロで、このままではゴールに辿り着く前にズボンとスリッパの役目を果たさなくなって、パンツ一枚の俺が誕生してしまうかもしれない。

 それだけは避けたいので、俺がスゴロク内に配置しておいた装備の入った宝箱や商人が出てくることを祈るしかない。


 自分の装備だけではなく、アベルの装備も。

 アベルが俺の偽物から受け取ったというブーツ。俺が普段使っているものなら、何よりも先に先制攻撃ができる機動力と何を踏んだり蹴ったりしてもいい頑丈さを重視した付与がされているはずだ。

 だがそれは魔導士であるアベルには不要なので、それらを頑丈さはやや残しつつ、消費魔力の軽減と足の疲労軽減の付与に書き換えておく。

 これでヒョロヒョロモヤシのアベルの体力も長持ちするだろう。


 準備するのは装備だけではない。

 カリュオンだけではなくアベルも、そして俺も魔力を使いすぎると即座に回復する手段はないし、また腹が減ってしまう。

 ペース配分を間違ってはいけない。だがそれでも、戦闘を繰り返しているうちにどうしても消耗はしていくだろう。


 ここまでくる間に採取した薬草や木の実やキノコの中から、腹の足しになるものを選んですぐに食べられる状態にしておく。

 ブラッドナッツは小さいくせに疲労回復効果はあなどれないので、三人で分けてポケットの中に。

 ブラッドナッツの木はあちこちに生えているので、進みながら採取していけば疲労を回復しつつ腹の足しにもできる。


 それから薬草。

 カリュオンが回復魔法を使えるのだが、カリュオンはギフトで魔力を多く消費するので無駄に魔力を使わせたくない。

 なのでポーションに加工しなくてもいい薬草を選別して三人で分けておく。

 これらはジュストと合流するまで保てばいい。ジュストが合流すればもう回復の心配はなくなるから。


 最後にキノコ。

 食べられるやつを焼いて粗熱を取った後、大きな葉っぱでくるんでカリュオンとアベルに渡しておく。

 アベルは俺と同じで何も準備もなく引き込まれた寝間着姿だが、カリュオンはコソ練帰りで腰にポーチを付けていた。

 マジックバッグは部屋に置いてきたらしいが、今はウエストポーチだけでも持てるものが大きく増える。

 むしろ空間魔法に制限が掛かっているここではマジックバッグも使えない可能性が高いので、持っていたのがただのポーチでよかったのかもしれない。

 おかげで焼きキノコをポーチがパンパンになるまで詰め込めた。


 一方俺と同じで何の準備もなく寝間着姿でここに引き込まれたアベルは、ズボンのポケットに焼きキノコをつっこむしかない。

 アベルも俺と同じようにシャツ風呂敷にすれば沢山焼きキノコを持てるのに、森の中で半裸とかあり得ないと言って、持てるキノコの数を諦めてでもシャツを脱ぐことはなかった。


 確かに森で軽装は虫刺されの危険があるので良い子は絶対に真似をしてはいけないのだが、背に腹は代えられないというか、やはり素材と食材は大事なので俺はシャツを諦めて風呂敷にしたことは後悔していないぞおおおお!!

 あちこち蚊や変な虫に刺されたり、木の枝で引っかかれたりしてあちこち赤くなってるけれど今は気にしない!

 帰ってしっかり手当をすればきっと大丈夫!!


 よし、準備はだいたい完了!

 体力も回復して腹も程よく落ち着いてきた。


 さぁ、森のどこかで彷徨っているジュストを探しにいこう。

 そしてみんなで一緒に家に帰ろう。






 俺の作ったスゴロクには道中に店があるマスが設置してあり、拾ったものを売ってその金で物資を調えることができるようにしていた。

 良いものはやはり高いのだが、後半になると拾ったものも高く売れるようになり、戦力はインフレしてゴール前のボスに挑むという流れだったが、店が出てくるのは中盤くらいからで、序盤は貧相な装備で苦戦しながら進まないといけないくらいのバランスだった。

 今がまさにその状態なら、もう少し進めば店に遭遇できる可能性が高い。そしてまだ店が出てこないということはここは序盤であるということ。


 またその店とは別に、たまーに気まぐれ妖精が出てきて気まぐれで悪戯をしたついでに、サイコロを振って出た数に対応した妖精の要求に応えれば相応の報酬を貰えるというマスも用意していたが、そのマスは序盤には一つだけだったし、ラト達が弄っているならそのマスがどうなっているかもわからない。


 そのマスが踏めればラッキーなのだが、妖精の要求に応えるためのものや店が現れた時に売るものを用意しておかないと話にならない。

 そう、三人になって戦力が強化されたとしても、進みながら使いそうなものをできるだけ集めておかないといけないのだ。



「うおっしゃーー!! ドラゴンペアーゲットだぜーーーー!!」


「え? またそのドラゴンというよりサルが好きそうな果物!? 確かに珍しくて美味しい果物かもしれないけど、そろそろ食べ飽きたよ!!」


「さすがにフルーツ系は飽きてきたなぁ。ま、ドラゴンペアーはドラゴンは酔っ払うらしいけど、人間やエルフには効かないし魔力も豊富だから森で腹を満たすにはちょうどいいんだよなぁ」 


 果物が生っている木に登って食べ頃になっている実を収穫している俺。

 木の下では魔物を倒し終わったカリュオンとアベルが、汗を拭いながらこちらを見上げている。


 アベルとカリュオンが敵を倒す。

 森の魔物は弱く二人だけで戦力は十分足りているので、やることのない俺は周囲で食べられそうな木の実や果物を見つけて二人に渡す。

 ふははははは、山育ちの俺にとって森や山でオヤツを見つけることなんて朝飯前つか、今は深夜なので文字通り朝飯前だな!!


 進みながらいつの間にかできあがっていた役割分担で、魔力消費による空腹に悩まされることもなくなり俺達三人の快進撃が始まっていた。


 これぞパーティープレイ! これぞ効率化!!


 俺が想像していた役割分担とは少し違うけれど、効率がいいのでよっし!


 この調子でジュストを見つけ出すまで突き進むぞー!


「あー、もうー! 果物は飽きてきたからさっさと家に帰りたいー! もー、グランが変な果物ばっかり採ってくるから魔力には余裕あるし、でっかい魔法で森の風通しをよくしちゃおっかー!」


「え?」


 え?


 アベル、お前突然何を言ってんだ!?


 俺の渡したドラゴンペアーを囓っていたアベルが突然、よくわかるけどよくわからない理屈で大きな魔法を使う体勢に入ったのが見えた。


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